表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最愛の貴公子様へ、忘れられた花嫁ですが、忘れた貴公子を保護しております  作者: 西野 歌夏
第二章:思い出せないのに、どうして私に優しくするのですか?
18/52

先輩は、ずっと私に合わせてくれていたのだろうか

私と先輩が帰宅すると、タエさんは昼食の準備をしていた。先に先輩に帰っていただき、私は自分の部屋で羽織の下に来ていた詰襟から着替えてから、離れに戻った。


「遅くなってごめんなさい」


その時、意外な人物がお勝手にいることに気づいた。


「お姉様、お客様はずいぶんとお顔が良いのですね」

「鈴乃!」


妹の鈴乃は、鷹条の家のことも、先輩のことも何も知らない17歳だ。父である家元は鈴乃にどう説明したのかわからない。だが、私が舞の稽古にも出ないことを快く思っていないはずだった。


「鈴乃さんがお裾分けに筍ご飯を持ってきてくれたんですよ」

「おぉ、うまそうだ。ありがとう」

「鈴乃と申します。姉がお世話になっております。お姉様が離れに入り浸っているので、私にお稽古の先生の仕事がたくさん来てしまって、大変ですのよ」


鈴乃はむくれた顔で言ったが、先輩の姿をまじまじと見て目を輝かせた。


「ほっんとうに、お姉様が夢中になるのも無理がありませんわ。こんな素敵な方のお世話するなんて、なかなかないことですもの」

「鈴乃っ!」


先輩とタエさんは吹き出した。

「まあまあ、鈴乃さん、ありがとうございます。美味しくいただきますね」


タエさんがとりなして、鈴乃はやっと退散してくれた。


私は冷や汗をかいたが、先輩は涼しい顔をして、着替えのために奥の部屋に引っ込んだ。


「筍ご飯に合わせて、だし巻き卵と、焼き魚とお吸い物をご用意しましたよ」


タエさんがそう言って、私は食卓の準備をした。


3人での昼食は楽しかった。


「ぼっちゃま、あんみつはいかがでしたか?」


タエさんが先輩に聞いた。


「うん、うまかった。でも、あれだな。誰かすごくあんみつが好きな人がいて、その人に合わせて千時屋に食べに行っていたんだと思う」


先輩は、筍ご飯を食べながら言った。

私はうつむいた。


「まぁ、ぼっちゃま。御明察ですよ」

「え?タエさんは心当たりあるの?」

「まぁ、あるような、ないような……」

「その方は誰ですか。帝大の友達?」

  

私はますますうつむいたまま、顔を上げられなくなった。


「帝大のかわいらしいお友達ですよ」


私は箸を止めた。

先輩は不思議そうにこちらを見る。


私は顔が真っ赤になった。




「……ときどき、白檀の香りがするんだ」


先輩がぽつんと言った。

「白檀?」


「うん。懐かしいような……落ち着くような香りだ」


私は思わず顔を上げた。


タエさんは一瞬だけ目を伏せた。


タエさんはお吸い物をよそいながら、遠くを見るような目つきになった。

「ぼっちゃまは昔から、白檀がお好きでしたからねぇ」


――白檀の香りが、先輩を呼んでいる。 そう思ったのは、私だけだろうか。


鷹条家の香りの力は、復活しようとしているのだろうか。

あの特別な香り。令和でも感じたことのない、特別な先輩の香り。ホワイトムスクのような、金木犀のような、莉莉花のような、なんだか言葉にし難い、鷹条雅親様の香りは、帝都の貴公子である先輩の代名詞のようなもの。




****

その夜、私はほんわりとした温かい気持ちで眠りについた。

――あんみつがお好きでらしたと思ったのは、ずっと先輩は私に合わせてくれていた?


――そんな……先輩……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ