夢
全部夢だった。
先輩が生きていたことも。
花房の離れで再会したことも。
タエさんと笑い合ったことも。
全部、夢だった。
私は布団の中で声を上げて泣いた。
胸が痛かった。
息ができないほど苦しかった。
先輩は、もういない。
2年前、鷹条の家で起きた火事で、先輩とお母様は亡くなったのだ。
私は泣き崩れた。
夢から目が覚めた。
全てが夢だったのだ、と悟った時、先輩にもう一度お会いしたかった、と思った。話したいことがたくさんあった。何より、私をそばに置いてくれた時間の全てに感謝しているとお礼を言いたかった。
先輩の声を、もう二度と聞けない。
あの指に触れることも。
あの笑顔を眺めることも。
あの美しい横顔にうっとりすることも。
全部、もう終わりだった。
2年もの間、先輩を想い続けたけれど、先輩はとっくに亡くなっていたのだ。
涙で息ができなくなって、私はようやく目を覚ました。
障子の向こうはまだ薄暗かった。
ーー夢だったのだろうか。本当に、あれは全て夢?
私は寝間着の浴衣のまま、離れへ走った。雨上がりの庭は冷えていた。
息を切らして、離れの玄関の前まで行った。
そっと、扉を開けた。
そこには、先輩の革靴がきちんと揃えて置いてあった。
私はその場に膝をついてへたり込んだ。
ーー夢、じゃないのね?
涙が、次から次へと溢れた。
私は革靴にそっと触れ、声を殺して泣いた。




