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花菖蒲の夜
貴公子がくれた浴衣は、青紫の花菖蒲が裾に流れる、それはそれは美しい浴衣だった。特別に用意されたものだとすぐに分かった。雨に濡れたような深い色合いで、白檀の香りが淡く移っていた。
濡れた髪がうなじに張り付き、ほどいた髪が額を濡らす。
湯上がりの私は、無防備だった。
貴公子は、私の白い首筋に張り付いた髪を長い指でそっとはらった。
彼に触れられた肌は熱を帯びて、火鉢の赤い灯りに照らされる私の頬は火照った。
彼の瞳は私を見つめ、その透き通った瞳に私は吸い込まれそうだった。
足の指を晒すことすら恥ずかしいのに、 耐えられなくなり、貴公子の胸に顔を伏せた。
彼はそんな私を抱きしめ、壊れ物に触れるように口付けした。
火鉢の赤い灯が私の白い肌を照らした。
***
初めての感覚に溺れる。
身体の芯が熱くなり、私は息を呑んだ。
身体の奥が甘く震える。
雨音だけが、二人を包んでいた。
――私だけを見ていてほしい……。
雨の音が止まらない。
私は少しずつ、貴公子に溶かされていった。
貴公子の瞳が私をとらえて離さない。
頬を紅潮させて煌めく瞳で見つめる姿が、私には愛おしく思えた。
――愛しているよ、おりん……。
真剣な声だった。
その言葉を聞くだけで、胸の奥が熱く震えた。




