里桜の希望
「ヴェルゼ! そっちは見つかっちゃうよ!」
「しぃーっ! マモン、静かにっ!」
「ダゴンこそ静かにっ!」
「バラムこそ!」
「ほら、来ちゃう! 早く隠れてよペネムエ!」
「みーっけ!!」
5~6歳程の少年の姿をしたプティタンジュ達はわっ! と声を上げて駆けた。黄金色の草原が羽毛の様にフワフワと揺れる。
里桜は膝の上に肘をつき、彼らの戯れる様子をぼうっと眺めていた。
「リオ」
アッシュブロンドの髪をサラサラと靡かせてレアンが里桜を呼んだ。ハッとした様に少年の天使達が遊ぶのを止め、里桜の側へと駆け寄ってきた。
「またプティタンジュ達を見ていたのですか?」
「うん……」
「ガブリエル様だ。また邪魔しに来たの?」
「お姉ちゃんを連れてっちゃうの?」
「邪魔ばっかりするんだからっ!」
プティタンジュ達が頬を膨らませて不満を口々に漏らすと、レアンは困った様に頭を掻いた。
「すみません。ですが、リオを少し貸してください」
「ちぇー! やっぱり連れて行っちゃうんだからー!」
「つまんないのー!」
「皆ごめんね。またね」
プティタンジュ達と別れると、レアンは里桜を気遣う様に屈み、マリンブルーの瞳で覗き込んだ。
「お身体は大丈夫ですか?」
「平気だよ。あれから随分経ったんだもん。もう全然何ともないよ」
「それでも、心配します」
レアンは里桜の髪に触れ、愛しそうに見つめた。少し照れながらはにかむ里桜の手を取り、ふわりと手を翳すと、黄金色の草原から瞬時にしてエメラルドグリーンの泉の前へと移動した。
甘い香木の様な香りが辺りに立ち込めており、泉のすぐ畔まで白く淡い光を放つ夢現逃花の花が咲き乱れていた。
泉の中央には灰色の髪の男が磔にされている。彼の瞳が固く閉じられているのは、エルネストが眠りにつく時刻だからだ。後方に聳え立つ機械仕掛けの穴が、全てを飲み込もうと待ち構えているように思えた。
微動だにしないアルカの姿に里桜は小さくため息をついた。
「何か奇跡が起こって目が覚めないかなって思ったけれど。やっぱり駄目か」
「ヴィベルの話では復元プログラムがまだ作成途中だった様です」
「うん。私が邪魔しちゃったんだよね……」
「不可抗力でしょう。己を責めてはいけません」
アルカの後方に聳え立つ機械仕掛けの穴を見つめながら、里桜は眉を寄せた。
「あの変な装置。すっごく怖い感じがする」
里桜の言葉に、レアンも同意して頷いた。
「兄上の話では、あれは大型ハドロン衝突型加速器というものを利用したワープ装置だそうです」
「なんなの? それ」
「マナの泉のエネルギーを利用したワープ装置です。あれを使えばメギトへとワープ出来る様ですが」
禍々しいと言う言葉が相応しく思え、里桜は眉を寄せた。本来であればワープができるなど、夢の様な装置なはずだというのに。
「あれを使えれば、誰でもメギトにワープできるの?」
「恐らくは。ですが、その為にはマナの泉を越えなければなりません。泉の水面上空にも強いエネルギーが発生している為、実質創成者であるアルカでなければあの装置を使う事は叶いません。それ以外の者がマナの泉に入れば、プログラムが削除されてしまう様ですから」
つまりは、アルカでなければメギトへの命令を止める事ができない。どうにかしてアルカを復旧させなければならないが、その為には中途半端な状態のプログラムをどうにか完成させ、実行しなければ。
ヴィベルも総一朗もアルマゲドンにダイブしている以上、一体どうやって……?
自分は何もできない事が不甲斐なく思い、押し黙ったレアンのマントをツンと引くと、里桜はブルージルコンの瞳で見上げた。
「レアン、あの……」
ファメールさんは元気? と聞こうとして、里桜は言い出せずにそのまま口を噤んだ。
里桜が再びアルマゲドンにダイブして以来、ファメールとはまともに顔を合わせていない。ミカエルとしての使命もあり、多忙という理由もあるのだろうが、決して里桜に会おうとはしないのだ。
どうしても避けられているのだと思わずにはいられないのだろう。
「リオ、兄上がこれを」
レアンが差し出した袋を受け取り、中を開けると、サラリとした生地のワンピースが入っていた。
「……ありがとう」
小さくお礼を言う里桜の服装は、Tシャツにカーゴパンツといった、ボーイッシュな出で立ちだった。ファメールから貰った白のワンピースを、怪我で台無しにしてしまった事を随分と気にしていた様だったので、レアンはそれをファメールへと伝えた。
では新しい物を、と、ファメールは何度か里桜に女性らしい服をレアンを通して贈っていたのだが、里桜は一向にそれを着ようとはしなかった。
また汚してしまうと気にしているのだろうか?
無理強いもできず、今日も着てくれなかったと兄に報告をする事はなかなかに気が重い。
「ねぇ、レアン。私ファメールさんに会いたい。服のお礼も言いたいし、ちゃんと謝りたいの……」
こうして服をプレゼントしてくれるということは、嫌っているわけではないのだと、里桜はそう思いたかった。
「会ってちゃんと話したいの。ダメかな?」
——そして、現実世界に一緒に戻ろう、と説得したい。こんなところに居ては駄目。一緒に戻ろう……。
言えるかな……? 彼を前にして、立ちすくむ事なく伝える事が、私にできるかな……?
震えを必死に隠そうとする里桜の様子にため息をつき、レアンは首を左右に振った。
「……すみません。今はまだ」
すまなそうにそう言ったレアンに、里桜は「そっか……」と、俯いた。レアンはファメールの気持ちを理解しているからこそ断っているのだと分かったからだ。兄であるファメールの事も、里桜の事も、レアンは心から労わって考えてくれている。お互いにまだ会うには心を休める時間が必要だと思ったのだ。
「わかった。無理言ってごめんね」
すんなりと身を引く里桜にレアンは申し訳なさそうに俯いた。
プログラム上、ファメールはミカエルとしてエルネストに絶対的に忠誠を誓っている。それは勿論、七大天使全てがそうだ。エルネストが本気で権限という名の力を使おうものなら、跪き、頭を垂れることに抗う術はない。
だが、エルネストの手により里桜が傷つけられたと知った時のファメールの激昂を知るレアンとしては、その行為がファメールにとってどれほどに苦しく過酷な事か計り知れず、考えただけでも心が痛んだ。それだというのに、更にエルネストはファメールの手首に忠誠の輪を掛けた。会話がエルネストに筒抜けになるのだと、ファメールは筆談でレアンに伝えた。
——しかし、それ以上に、憎くて堪らない相手に服従するその姿を、里桜にだけは見られたくないと兄は思っているに違いない。そして、エルネストの口から私達が何をされたのかを暴露される事を恐れているのだ。
もしも里桜が私達の過去を知り、気味が悪いと拒絶されたらと考えると、自分も兄も立ち直れないだろう。
レアンとファメールは、まさか里桜がジエルの口から自分達の過去を告げられているとは夢にも思っていなかった。里桜はそれを知ったからこそ、自分を呪い、心を失う程に落ち込んだというのに。
「アダムさんはアルマゲドンに来てないんだよね?」
里桜の問いに、レアンは「恐らくは」と、頷いた。
「一人だけ現実世界に居るってことだよね? 大丈夫かな……」
「子供でもあるまいし、困る事は無いと思います。ただ、義肢のメンテナンスが気がかりですね」
里桜を気遣い、控えめに不安を口にして、レアンはマリンブルーの瞳を伏せた。アダムはレアン以外の医師が自分の身体に触れる事を拒む。義肢は頑丈に設計されているので何事も無ければ良いが、トラブルがあればすぐに対応が必要だ。
「無茶をしていなければ良いのですが」
「レアンがいないんだもん、アダムさんだってわかってるよ」
エメラルドグリーンの泉の中で佇む灰色の髪の男性に視線を向けて、里桜は小さくため息をついた。
「ひょっとしたら、アダムさんだけが現実世界を好きなのかもしれないね。私達、皆ホントは逃げたいって思ってるのかも」
エデンで創成されたアダムが最も現実世界に馴染んでいる。自分の居場所はここなのだと無意識のうちに思っているのかもしれない。
「アダムは現実逃避したいと思う理由が無いだけでは? 能天気な性格ですから」
レアンの言葉に里桜は瞳を上げた。マリンブルーの優しい瞳をレアンから向けられて、ほんの少しだけ微笑んだ。
「そっか。海、楽しかったんなら嬉しいけど」
「私も楽しかったですよ」
——また、あんな風に全員でどこかへ出かけられたら……。いや、出かけなくてもいい。皆で揃って一緒に笑い合えたのなら、どんなにいいだろう。アルマゲドンでは顔を合わせても決して笑い合えない。ここが本当の世界ではないと分かっているから。
「……また、行きたいね。ヴィベルさんとも」
ヴィベルと総一朗にも里桜は暫く顔を合わせていなかった。
ヴィベルとではなく、総一朗と顔を合わせたくないのだ。それは拒絶反応に近いと言ってもいい程だった。
レアンはヴィベルに、リオと会わなくていいのかと問いかけたが、彼は寂しげに頷いて、こう言った。
「私は総一朗と行動を共にします。ジエルを捕まえて話さなければなりません。それに、アルカのバックアップをリオが取っていた事が分かり、復元プログラムを作っていたのですが、完成していない中途半端な状態でダイブしてしまいました」
俯いたまま淡々と話すヴィベルを見下ろしながら、レアンは黙って聞いていた。ヴィベルが今にも泣きだしてしまいそうな感情を押し込めて、わざと淡々と話している様に思えたからだ。
「なんとしてもアルカを復元しなければなりません。そうじゃなければ、私の居る意味が何一つ無くなってしまうんです。姉さんにも総一朗にも申し訳が立ちません」
「ヴィベル。自分を責める必要は何もないと思います」
「いいえ。本当に、保護者失格で。私は……」
声を詰まらせて抑え込む様にため息を吐いた後、ヴィベルは言葉を続けた。
「……ですから、リオの事はお願いします。レアンになら安心してお願いできますから。私が側にいるよりはずっと」
痛々しく無理に微笑みを浮かべてそう言ったヴィベルは、精いっぱい強がって見せている事が明白だった。
本当は里桜が心配で、側に居たくて堪らないのだろう。けれど、今は総一朗と共に行動する事をヴィベルは選んだのだ。
そして、恐らくどんな事情があろうとも、ファメールはエデンやアルマゲドンを構築した総一朗を許しはしないだろう。
まるで決別でもしたかの様に、ヴィベルはファメールとも里桜とも別行動をとると決めたのだ。
「あの、レアン。知っていたらでいいので、教えて欲しいことがあるのですが」
すまなそうにヴィベルが口を開いた後、首筋に刻まれた『A』の刻印をレアンに見せた。
「これが何の意味があるのか知っていますか?」
レアンは思わず自分の詰襟のフックがしっかりと閉じている事を指で確認した後に頷いた。自分が『F』の刻印を持っている事を知られない方がいいだろうと思ったのだ。
「……生前、養父が私達三人に繰り返し教えていた事があります」
刻印についての事を詳しく話すと、ヴィベルの後ろで黙って聞いていた総一朗がハッとしたように自らの首筋に触れた。『F』の文字が僅かに光を放つ。
「……なんと、では私は死んだのか!?」
「総一朗、貴方はどうして……?」
まさか総一朗の刻印が『F』であるとは、レアンが少しの予想もしていない事だった。すっと青ざめて、里桜が知ったらどう思うだろうかと考えた。
「だから透明だったのか!? なんと……なんということだ!!」
動揺する総一朗を見つめながら、ヴィベルもまたレアン同様に青ざめた。
「お……おお……お……」
項垂れて肩を震わせる総一朗の背を見つめ、ヴィベルは唇を噛みしめた。総一朗には随分と世話になったのは確かだ。仕事上でも信頼のおける男であったし、彼の情の深さには感銘を受けた。ふざけたところはあるにせよ、尊敬していたのだ。
そして、彼もまたヴィベルにとって恩人の一人だ。彼が受け入れてくれたからこそ、ヴィベルは里桜と共に過ごす事ができたのだから。
「……総一朗」
と、ヴィベルが総一朗の肩に手を触れようとすると、総一朗がため息混じりに声を放った。
「私はもう二度とタバコが吸えぬのか……なんということだ……」
「そこですか!?」
「他に何があるというのだ?」
「リオの事はいいんですか!? それに会社は!?」
「ぬしが居るから平気だろう。さっさと娘を嫁に貰って会社を継いでくれんか。ああ、勿論私はレアン殿が後継者でも良いと思っているがな? 良い婿候補に出会えて私は幸せだなあ」
「総一朗……」
「そういえば、ミシェルは葉巻を嗜むのだろう? 頼み込めば作ってくれるのではないか? あの男は知識の塊だろうからな」
「……」
ヴィベルとレアンが絶句して冷たい視線を総一朗に向け、総一朗はバツが悪そうに咳払いをした。
「あー。タダでは駄目か? ではこうしよう。リオとの結婚を引き換えにタバコをだなぁ?」
「何言ってるんですかっ!?」
ヴィベルとレアンに同時に突っ込みを入れられ、総一朗は驚いてゴクリと息を呑んだ。
——全く、総一朗という男は真面目なのか不真面目なのか。いや、不真面目過ぎて対応に悩まされる。
と、レアンは深いため息をついた。
「レアン? どうしたの? ぼーっとしちゃって」
里桜の問いに、レアンはハッとして回想を打ち消した。総一朗本人がどう思おうとも、父親の死に里桜は恐らく傷つくはずだ。今はまだ伝えない方がいいだろう。幸い彼女と総一朗が顔を合わせる事は暫く先のこととなりそうだ。
「すみません。少し考え事を」
「大丈夫? 疲れてるの?」
里桜は白くか細い手をすっと伸ばすと、レアンの首筋に触れた。身長差があり過ぎて、額には届かなかったのだ。
「熱は無いよね?」
「大丈夫です」
里桜の優しさにニコリと微笑むと、彼女の手を握り、指先にキスをする素振りを見せた。レアンは素振りをするだけで、決して唇が触れるような真似はしない。失礼にあたると自重する、レアンらしい敬意の表れだろう。
「お気遣い感謝します」
紳士的なレアンの振る舞いに里桜は顔を赤らめて、誤魔化すように話を変えた。
「あの、アリエルさんは元気? ……夢幻の世界にいて元気って言い方も変だけど」
「アリエルですか……」
アリエルがファメールへと縋りつく様に伸ばした手を、ファメールは即座に振り払った。
「僕に触るな」
いつも以上に冷たく言い放つファメールに、アリエルはそれ以上何も言う事無く俯いた。アリエルの首元に刻印された『F』の文字が光っている。レアンがそれに気づいてアリエルに声を掛けようとした時、ファメールは何を思ったのか強引にアリエルを連れて姿を消した。
二人が何処に行ったのかは分からないが、戻って来た時にはファメール一人だけであり、彼は何食わぬ顔で机につくと、ミカエルとしての仕事を続けた。何も聞くなよと暗に言われた気がし、レアンは言及することをしなかった。
それ以来アリエルは二度とファメールの元へと訪れる事は無かった。
レアンはため息をつくと、「探してはいるのですが、見つかりません」と、申し訳なさそうに里桜へと告げた。
「きっとヴィベルが見つけてくれると思います。今は待ちましょう」
「どうしてこんな事になっちゃったんだろ……」
皆で現実世界に居た時はそれなりに仲良くできていたはずだ。
「私が子供を産めないって知って、アリエルさんは酷くショックを受けた様子だったの。どうしよう、私、アリエルさんを傷つけちゃった」
——それは違う。里桜、貴方こそ傷ついたでしょうに!!
と、レアンは唇を噛みしめて里桜を優しく抱きしめた。
「お願いレアン。アリエルさんを探して。謝らなきゃ。どう謝っていいのかわかんないけど、私、アリエルさんが大好きなの。こんな風に喧嘩みたいになっちゃうのなんて嫌だよ」
『かわいいわ、アンジュ!』と、まるで姉の様に自分を可愛がってくれたアリエルを思い出し、里桜はポロポロと涙を零した。男性だと発覚した今でも、アリエルと一緒に姉妹の様に出かける事を夢見てならない。
「必ず探しだします。ですが、リオは何も悪くありません。自分を責めてはいけません」
レアンの中で、沸々と怒りが沸き起こる。エルネストに対しての怒りだ。これは憎悪と呼べるものかもしれない。はらわたが煮えくり返る思いだ。どうしてあのような酷い事ができるのか全く理解ができない。どんなにかエルネストの立場になって考えようとも無理なのだ。あの男は余りにも非情過ぎる。
エルネストほど、存在してはならない者など居ない。
レアンは沸き起こる怒りを鎮めようと、必死に唇を噛みしめた。自分達がされたことよりも、里桜を傷つけられた事の方がずっと許せないのだ。
「レアン。私じゃ何の力になれないかもしれないけど、何か役に立てる事があるなら言ってね。頑張るから」
里桜を元気づけようと抱きしめたつもりが、いつの間にか里桜に宥められている事に気づき、レアンは「すみません」と、慌てて身を離した。
耳まで顔を真っ赤にしているレアンの姿がかわいく思え、里桜は思わずニコリと微笑んだ。
「それにしても、アルカのデータをバックアップしていたとは驚きました」
顔を背け、赤らめた顔を里桜に見せまいとしながら誤魔化す様に話題を変えたレアンに、里桜は頷きながら答えた。
「念のためが役に立って良かった。でも、復元プログラムがまだ完成していないから」
「それでも希望ができました。リオには感謝してもしきれません。アダムを削除するなど、そんなことは余りにも理不尽ですから」
「でも、このまま元の世界に帰れなかったら、どうなっちゃうんだろう」
ため息交じりに言った里桜の言葉にレアンはマリンブルーの瞳を細め、心配そうに見つめた。
「リオは、元の世界に帰りたいですか?」
エデンでも似たような話をしたなとレアンは思った。あの時の里桜の答えは、逃げるわけにはいかないという答えだった。
「……皆と一緒になら帰りたい」
里桜の答えにレアンは微笑んだ。
「……そうですね」
夢の世界の住人ではなく、現実世界に存在している人として。里桜にとってはかけがえのない大切な人達である以上、戻るのならば皆と一緒でなければ意味が無い。
レアンは首に巻いたストールをふと押えた。首筋に刻まれた『F』の刻印を里桜に見られてはいけないと注意しているのだ。レアンが現実世界に戻る事ができないのだと知ったのなら、里桜は悲しむだろうし、自分を責めるに違いない。
「それに聖剣も見つけなきゃだよね」
里桜の言葉にレアンはニコリと微笑んで頷いた。
エデンでは魔族の城に分かり易いくらいにでかでかと飾り立てていた聖剣。レアンがアルマゲドンの神殿内をくまなく探してみてもどこにも見当たらなかった。
「聖剣が無いと皆で帰れないもんね。エデンでもあったんだから、アルマゲドンにもきっとどこかにあるはずだよね?」
「恐らくは。エルネストが言う様に、完全にトラウマを消す事など不可能かと。それならば強制的に現実世界に戻る為の救済措置が必ずあるはずだと思いますから」
「それが聖剣って事なんだよね? 私、使えるのかなぁ。今度はアルカじゃなくエルを刺すって事なんだよね?」
アルカと瓜二つの。いや、アルカの身体を操るエルネスト。エデンの時の様に、また……。
「怖がってても仕方ないよね。やらなきゃ」
こんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳無い。と、レアンはマリンブルーの瞳を細めた。里桜はため息をつくと、レアンを気遣ってわざと明るい調子で言った。
「私がまた前みたいにワープ穴みたいのを作れたらいいんだけどなぁ。自分の意思でどうこうならないなんて、とっても不便」
それは恐らく、里桜は現実世界に帰りたいと今時分思っていないからなのだろう、とレアンは考えながら「焦る必要はありませんよ」と里桜を元気づけた。




