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夢現逃花 —ムゲントウカ—  作者: ふぁる
アルマゲドン編
120/181

永遠の監獄

「もういいかい」

「まぁだだよ!」


 少年の天使達がきゃっきゃと楽しそうにかくれんぼをしながら黄金色の草原を駆けまわっている。


 灰色の髪を靡かせて、灰色の瞳を悲し気に伏せる男がポツンと一人立ち尽くしており、少年達はその姿を認めると、「あ、エル!」「エルだ!」と、無邪気に駆け寄った。


「もう寝る時間だよ?」

「まだこんなところに居ていいの?」

「怖いミカエル様が迎えに来ちゃうよ?」


少年の天使達がエルネストの服を引っ張り戯れた。


「ああ、そうだね」


つっ、と、エルネストの頬を涙が伝う。


「エル、どうしたの?」

「泣いてるの?」

「どこか痛いの?」

「僕達に見せてごらんよ」

「そうだよ。見せて見せて!」


エルネストは黄金色の草原に両膝をついて屈むと、心臓を指さして、「ここが痛いのだよ」と、力無く笑って見せた。


「血が出ていないよ?」

「ああ。見えない傷だからね」


くっと、涙を零すエルネストを少年達は心配そうに囲んで眉を寄せた。


「見えない傷の方が、ずっと痛そうだね」

「うん。痛そう」

「痛いの痛いの、飛んでいけ」

「飛んでいけ」


少年達がエルネストの胸に触れた後、自らの小さな掌にちゅっとキスをした。


「Bisou Magique!」

「Pain,pain,go away!」

「non è nulla non è nulla!」

「Sana,sana,culito de rana.is correct!」


どれも『痛いの痛いの飛んでいけ』という言葉だ。エルネストは瞳を閉じ、「ああ。もう痛くなくなったよ」と、少年達に微笑みかけた。


——このアルマゲドンは理想郷だ。言語や宗教などという隔てのない世界。国境も、人種も、年齢でさえも、人と人を隔てる物が何一つ存在しない世界なのだ。全てが同一の神の許、それに仕える天使として生きる。悪の存在しないただただ清い世界。


「理想だとも。この世界こそが。私の……何故それが分からぬ!!」

「エル。ここに居たのか。眠りの時間だというのに戻らないと知らせがあって探したよ」


凛とした声を掛けられて、エルネストが振り向いた。プラチナブロンドの髪の男が静かに金色の瞳を向け佇んでいた。少年の天使達は「きゃっ!」と声を上げ、蜘蛛の子を散らすかの様に逃げて行った。


「ミシェル。お前が私に忠実なる(しもべ)として屈するのは何故かな? ガブリエルは私の手から堕ちたというのに」

「さあて、ね」

「リオを逃がす為に時間を稼いでいるのか? しかしお前は私から離れる事は叶わぬよ。お前は私に依存しているのだからね」


——()()……?

 と、眉を顰めた後、ファメールはそうかもしれないなと唇を横に引いて僅かに微笑んだ。


「復讐もまた、依存と一緒なのだからね」


エルネストの言葉に「そうだね」と、ニコリと微笑むと、「けれど」と、ファメールは言葉を続けた。


「僕は、貴方と違ってそれ以外の幸せを見つけた」


——もう、失ってしまったけれどね。

 と、心の中で付け加えて、ファメールはため息をつくと、ふわりと杖を振るった。瞬時にしてエメラルドグリーンの光を放つ泉の畔へと移動し、エルネストは僅かによろめいた。


 神の忠実なる(しもべ)としてのミカエルとしてのロールが発動し、自動的に手を差し出してファメールはエルを支えると、こうも強制的に動かされるのかと心の中で舌打ちをして離れた。


「こんなことくらいでふらつくだなんて。最上位プログラムのわりに、なかなかにやわなんだね。孫娘を失ってご傷心の身というわけかい?」

「ははは。なかなかに手痛いな。だがミシェルよ。最初から足掻いても無駄な事だった。時が過ぎれば必ずやメギトへの命令は始動する。カインはもう戻っては来ないのだからね。お前はゲームを始める前からすでにゲームオーバーだったというわけだよ」


エルネストの言葉に、ファメールは首を左右に振った。


「あいにく僕はこのゲームの主人公じゃない」


 ファメールはふっと笑った。

——メギトへの命令。恐らく全世界規模での夢幻世界からのハッキング。人が存在する場所には夢を介して全てネットワークが引かれているのだから。人々は現実という世界を強制的に捨て、夢幻世界でエルによる管理下に置かれることだろう。


「主人公はあくまでもリオだろう? 貴方は負けたんだ。彼女は無事魔の手から逃げおおせたということなんだから」

「私は諦めぬよ。リオは必ずここへまた来るとも」

「そうかな?」


 来るはずがない、と、ファメールは僅かに眉を寄せた。

——この世界に絶望してしまう程に傷ついて現実世界へと戻ったんだ。もう、僕の顔を見たくもないだろう。

 それほどに、彼女に深い心の傷を負わせたのだから。


 エルネストが再びふらりとよろめいて膝をついた。ファメールの身体が自分の意思とは裏腹に、反射的に動いて両手で恭しく身体を支えた。

 ゾワリと思わず鳥肌を立て拒絶反応を起こすも、自分の意思では逃げる事も叶わない。


「プログラムでも疲れるのだな」


皮肉めいてそう言った後、エルネストはファメールの肩を借りて立ち上がると、灰色の瞳を細めた。


——アルカの見た目じゃなければ今すぐにでも息の根を止めたいくらいだよ。

 と、心の中で悪態をついて、ファメールはエルネストへと片膝をつき、頭を垂れた。


 まるで神聖な儀式の様に神々しく、澄んだ空気に包まれていたが、ファメールが心の中でどれほどに悪態をついた事か知れない。


「リオがこの世界から失われた今、私はまた長く眠りにつくことになるだろう。メギトへの命令もまた暫く延期だね」


パシャリ、と、エメラルドグリーンの泉へと足を踏み入れながらエルネストは言った。


「ああ。たっぷり三カ月眠ってくれたらいいよ。僕は仕事に戻るさ。夢幻の世界だというのに忙しくて仕方がない」

「お前にはいつも苦労を掛ける」


 別に貴方の為ではないけれどと、言いたいのを飲み込んでファメールは再び杖を振りかざした。


 執務室へと移動し、椅子に掛けると、深呼吸をした。山積みとなった書類の山を暫く見つめた後、手を伸ばし、淡々と片づけていく。この行為にどれほどの意味があるのかは分からない。もしもアルカがこの世界に来たのだとしたら役に立つだろうか。しかし、それは万に一つの可能性すら無い事だ。無駄な事だと分かっていても、仕事を放棄できる性分ではないことに苛立ちを覚えるが、時間を潰すには良いかもしれない。


 この時間はいつまで続くだろうか? 永遠に? ここが精神だけの世界だと言うのなら、肉体的には死んでいる事と変わりはない。二度も死ぬ事は赦されないのだろうか。


 全てがエルネストの手中であるというこの地獄の世界で永遠に時を過ごすのだ。これは恐らく、()()()アルカを止めなかった僕への罰に違いない。


 軍へ入隊するのだと、笑って言ったアルカから目を背けた僕への報いなのだ。


 プラチナブロンドの髪をサラリと肩から落とし、ファメールは瞳を閉じて天上のエデンの様子を監視した。

 黄金色の草原で戯れるプティタンジュ達が見える。歌ったり、談笑し合う天使達。絵に描いたような楽園だ。大天使ミカエルとして与えられた自分のロール。それはアルマゲドンの均衡を保ち、監視する役目だ。

 里桜の姿がどこにも無い事はとっくに確認済みだった。それでも、つい探してしまう自分に女々しさを覚える。


——里桜。やはりキミはどこにも居ない。現実世界に帰ったようだね……。それでいい……。こんな世界にキミは居てはならない。


 自分に言い聞かせる様にふぅ、と、溜息をついて『ミカエルの仕事』をしなければ、と、羽ペンを取った矢先、パタパタとせわしなく駆ける足音が聞こえてきた。扉がノックされ、やや明るめのブラウンの髪色をした男がいくつもの書物を抱えて執務室へと入って来ると、ファメールに小さく会釈をした。

 書棚へと持ち込んだ本を綺麗に整頓して仕舞い込む姿を怪訝な表情で見つめ、「ヴィベル?」と、声を掛けると、ブルートパーズの瞳をファメールへと向け、彼はキョトンとした。


「何かおっしゃいましたか? ミカエル様」


彼の首筋に『A』の刻印がある事を認めて、ファメールはすぐに視線を反らした。


「……いや、なんでもない。えーと、()()()()()、その作業が終わったら、悪いけどお茶を淹れてくれるかい?」

「ええ。承知しました」


——ヴィベルもどうやら現実世界に戻った様だ。

 と、ファメールは考えながら羽ペンを動かした。

 ヴィベルに掛けた眠りの魔術がそろそろ切れる頃だったから、予定通りだ。里桜が戻るタイミングとバッチリ合っていて、我ながら完璧な時間設定だったと思う。

 僕は自身に眠りの魔術ではなく、封印の魔術を施した。当然ながら封印を解かない限り目覚める事はない。現実世界に戻る術を知る者は僕以外に存在しない以上、僕がこのアルマゲドンから脱出する事は不可能だ。


 サラサラと文字を書き、墨壺にペン先を付けて余分な墨を落とす為『コン』と壺の縁を叩く。


——里桜がヴィベルと幸せになるのも選択肢の一つさ。僕達の事など忘れてくれたらいい。その方が幸せにきまっているのだから。


 コツコツと扉を叩かれて返事をすると、茶色がかった黒髪に、白髪の混じった男が威勢よく扉を開いた。あまりにも勢いよく扉が開け放たれたので、ラファエルが驚いてぷりぷりと怒った。


「ザドキエル! もう少し静かに扉を開けてください! ミカエル様は執務中なのですよ!?」

「ああ、すまぬ。なあ、ミカエル殿。次の啓示の事で少しばかり頼みがありましてな」


——ザドキエルのあの様子。どうやら総一朗も現実世界に戻ったようだ。

 と、ファメールは考えながら、その頼みとやらに耳を傾けた。首筋にある『A』の刻印を見つめ、やはりそうかと納得をする。


「ミカエルぅー! ねぇ、デートしてよぉ!」

「ちょ、ちょっとアリエル! 今ミカエル様はザドキエルの相談を受けている最中ですよ!」


ザドキエルを押しのけて執務室に押し入ったアリエルを、ラファエルが慌てた様子で追い出そうとし、ファメールはやれやれと肩を竦めた。


 ……ああ、一人、か。


——レアンも里桜と一緒に現実世界に帰った事だろう。僕はただ一人、ここに残ってエルネストの望む通りにミカエルとして時間をただただ永遠に費やす。何の目的も、希望もない。ただ、ミカエルという天使のロールを全うするためだけの存在だ。

 アルカもまた、一人こんな風に虚しく思いながらエデンでの毎日を過ごしていたのだろうか。創成された自分の兄弟の分身たちに笑いかけながら、楽しそうなフリをして孤独に苛まれていたに違いない。


 おかしいな。僕はいつから『孤独』を嫌う様になったのだろうか? 煩わしい人間関係に晒されるよりも、一人で居た方がずっと気楽でいいはずだというのに。


 今願う事は一つだけだ。


 アルマゲドンの筐体を破壊してくれること。そうすれば、僕はこの忌まわしい世界ごと消える事ができるはずだ。


 それまではたった一人でこの苦痛に耐え続けるしかない。


 ヴィベルは恐らく僕の意図を酌んで上手い事やってくれるだろう。彼はあれでいて本当に優秀な男だ。アルカでなくてもメギトへの命令を阻止できる方法を、彼ならばすぐに思いつくはずだ。

 勿論、()()()()()()()()()()、だ。その為のヒントは十分過ぎる程に与えてあるのだから、現実世界に着いたら難なく答えにたどり着けるだろう。


 しかし、ヴィベルには僕ごとアルマゲドンの筐体を破壊するような真似はできないに違いない。妙なところに情があって、自分の手を汚す事を恐れる節があるからね。

 だがレアンなら、一番僕の気持ちを理解しているだろう。僕の魂を救うべく、筐体を破壊してくれるに違いない。僕はレアンに現実世界に戻る様に説得する術を思いつかなかったが、運良く里桜と共にアルマゲドンから脱出する事ができて助かった。

 ヴィベルがメギトへの命令を阻止し、レアンが筐体を破壊するまではこの世界で待機というわけだ。それまでならば、この孤独にも耐えられるだろう。


 再び執務室の扉がノックされ、ラファエルが返事をすると静かに扉が開かれた。


「兄上」


 ふわりと頭を垂れて、アッシュブロンドの髪を揺らし、ガブリエルが寂しげに微笑んだ。その様子を見て、ラファエルが気を利かせ、ザドキエルとアリエルを引き連れて退室した。

 ミカエルとガブリエルの二人は神の啓示を受ける大天使だ。おいそれと他の者が耳にしてはならない話もあるだろうと、気遣って席を外したのだ。


——今は、あまりガブリエルと会話をしたくなかったな。

 と、ファメールは寂しくなって眉を寄せた。

 作り物のガブリエルとは、会話をしたくない……。本当に一人になってしまったのだと思い知らされるからだ。まだその覚悟が自分には足りていない。

 レアン。キミという存在は里桜だけじゃなく、僕にとっても精神安定剤になっていたのだと今更ながらに思う。僕がどんなにかそっけない態度をとっても、キミは必ず僕を支え、側に居てくれた。だから僕は『孤独』に怯える事なんか無かったのかもしれない。


 今だからこそ、アルカの哀しみが分かる。たった一人だけ、偽物の僕達に囲まれながら孤独を味わっていたアルカは、この世界で生きる虚しさを常に感じつつも、笑顔を絶やす事が無かった。

 なんて強い奴なんだろうか。僕には真似なんかできそうもないよ、アルカ。


「ガブリエル。知っての通り僕は忙しいんだ。急用じゃなければ後にしてくれないかな」


 この世界の作り物のガブリエルは、この言葉一つで退散する事だろう。彼にとって用事があるのは()()()()であり、()()()()の仕事の邪魔を絶対にしないからだ。それもまた、エルネストによって与えられた、この世界の均衡を保つためのロールだ。


「そっけないですね、兄上」


 ニコリと微笑むガブリエルを怪訝な瞳で見つめた。そっけないだって? 何が言いたいんだと眉を寄せると、ガブリエルは僅かに頷いた。


「リオは現実世界に帰りました、と、お伝えしたかったのです。まぁ、兄上のことですから、既にご存じだったとは思いますが」

「!!!!」


 この世界に創成された()()()()()は、里桜の存在を知るはずがない……。

 金色の瞳を見開くファメールに、レアンは微笑んで頷いた。


「……キミは……戻ってきたのかい? リオの側に居てやれば良かったのに」

「いいえ。私は兄上のお側に。そう約束したではありませんか」


——ああ、確かにレアンは僕にそう言った。言ったけれど、しかしまさか……。

 平常心を保とうと平気な素振りをしてツンと片眉を吊り上げた後、ファメールは自分の唇が僅かに震えている事に気づき、誤魔化す様にパッと顔を背けた。


「律儀過ぎるのもどうかと思うよ」

「何故です?」

「キミは相変わらず、損な役回りばかりじゃないか」

「兄上には負けますよ」

「僕が貧乏くじを引いたとでも思っているのかい? 心外だなぁ。大天使ミカエルという地位もなかなかに悪くは無いよ。エル以外は皆僕にひれ伏すんだからね」


レアンは何も言わずに微笑んでため息をついた。心にも無いことを、と、暗に言ったつもりだろう。ファメールもそれを悟り、レアン同様ため息をついた。


「……今頃、ヴィベルと現実世界でわんわん泣いているだろうか」


くすりと笑いながら言うファメールに、レアンは頷いた。


「リオは決して弱くありません。彼女は必ず前に進んでくれるはずです」

「そうじゃないと僕らがここに残った意味が無い。ヴィベルと結婚でもすればいいさ」

「そうですね。恐らく一番似合いかと思います。二人は長い間共に過ごしていたのですから」

「覚えているかい? エデンにダイブしたときは、『叔父さんに乱暴された』だなんて言っていたのを」

「ええ」

「リオの勘違いにも呆れるよ。あのヴィベルにそんなことができるはずないじゃないか」

「それ程にリオは追い詰められていたということなのでしょう」

「全く、見ていると鳥肌立つ程に仲がいいくせにね」


 レアンはため息をつくと、リオは兄上の事を想っている様にも見えましたが……と思いながらも口には出さずに飲み込んだ。

 恐らくファメールは、現実世界に戻らない決心をしているだろうと察していたからだ。


「結婚、か。僕には縁のない話だね」


ファメールは僅かに口元を綻ばせた。その様子にレアンが小首を傾げると、寂しげに金色の瞳を細めた。


「……リオの子を育てるのは楽しかったろうね」

「兄上、子供が嫌いでは?」

「ああ。嫌いだね」


——子供なんか、大嫌いだ。

 と、ファメールはフンと鼻を鳴らした。

 自分勝手で、我がままで、未熟が故に大人の保護下にいなければ生きていけない儚い命。一人では生きていけない、弱い者……。


 けれど、里桜に似たブルージルコンの瞳の子を、もしもこの腕に抱いたのなら……

 

 ふと、そんな想像をして、ファメールは微笑んだ。レアンがその微笑みを見て、ああも穏やかに微笑む兄の姿を見るのは初めてだと、つられてレアン自身も微笑んだ。そのレアンの見守る様な笑みに妙に恥ずかしくなり、ファメールは小さく咳払いをしてチラリと視線を反らした。


「なんにしても、これでエルネストの目的は潰えた訳だね。何がしたかったのかはわからないけれど、リオはもう二度とアルマゲドンにダイブする事はしないだろうさ。その為の絶交宣言なんだからね」


『この世界は、僕達の世界だ。リオ、キミはもう出ていってくれ』


 あの言葉はどれほどに彼女を傷つけたことか知れない。けれど、必要な事だったんだ。と、ファメールは眉を寄せて俯いた。


「さてキミをどうやって現実世界に帰そうかな。そもそもどうやってダイブしたんだい? 睡眠薬か何か? それなら薬が切れれば自動的に覚醒するのかな」

「兄上、もう一人で思い悩む必要はありません。兄上が犠牲になる事も」


レアンの申し出にファメールは小首を傾げ、「どういう意味さ?」と、瞳を細めた。と、その時、ファメールの瞳にレアンの首筋に刻まれた刻印が飛び込んだ。

 思わず何かの間違いだと瞳を閉じて念じる様に深呼吸をし、再びレアンの首筋へと視線を向けた。


————見間違いであって欲しい。


 そう、祈るような気持ちで見つめ、願いはすぐに打ち砕かれて瞳を伏せた。


「レアン、キミは……」


僅かに頷いたレアンに、ファメールは叫んだ。


「何故だ!? 約束しただろう! 二度と『さよなら』だなんて言うなと!」

「はい。ですからここにこうして来たのです」

「ふざけるな!! どうして、一体何をした!?」

「リオを守る為にはこうするしかなかったのです」

「僕を……置いて()()()……って言っただろう……!!」


瞳を閉じ、俯いたが、レアンの首筋に刻印された『F』の文字が、瞳を閉じても尚焼き付いて離れない。


 Fantome(幻)は、死してアルマゲドンにダイブした者の印だ……。

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