守りたい
流血注意です
キエリは、結果として床に落ちた。
しかし、それで命を落としたわけではなく、ブラッタに叩かれた痛みは全身にあるが、落ちた衝撃は全く感じられなかった。
キエリは、仰向けの状態で倒れており、目を開くと涙を瞳いっぱいにためたマーガレットの顔が見えた。
扇子でひっぱたかれた時に切れたのか耳からは血がたれていて、せっかくの綺麗な黄色のドレスを赤く染めていた。
マーガレットは必死に何かを叫んでいるが、キエリは酷い耳鳴りと頭痛がして、うまく聞き取れなかった。
「――リ! ちが―――」
意識は朦朧としていたが口だけは動かせた。
「マーガレット‥‥わたし、生きてる? あぁ、どうしよう、マーガレットの耳から血が‥‥」
「―たしは――――――はねが! ――――――よう!」
マーガレットは、キエリのからだを拾い上げて、避難しようとしたが、マーガレットの周りを先ほどの貴族令嬢たちが取り囲み、その他にも騒ぎを聞きつけたのかぞろぞろと他の参加者までマーガレットとキエリの周りを囲いだした。
そしてさらに、その騒ぎを収めようと会場の護衛をしていた騎士が騒ぎを収めようとして、人でごった返している。
「おい! ―――たち―いてくれ!」
「マーガレット‥‥?」
「――リ! 動く―よ! この馬鹿ども――――守ってやるから!」
「守る?」
耳鳴りがやみ、やっと周りの声がはっきりと聞こえてきたキエリは、マーガレットとブラッタが言い争っているのがわかった。
「それ! 妖精じゃない!! あなた独り占めする気?」
「うっさい! あたしの友達に近寄るな! お前らおかしいぞ、キエリをどうするつもりだ!」
「妖精がいれば大金を手に入れることだって、不老不死だって夢じゃないのよ! さっさとよこしなさいよ!」
(どういうこと? 妖精?)
キエリは、鉛のようなからだを起こし、辺りを見渡した。
明らかに令嬢たちのキエリを見る目が変わっていた。
先ほどまではキエリを気味の悪い生き物を見るような、蔑んだ目で見ていたはずなのに、今は欲望をその瞳に宿しギラギラさせて興奮気味に鼻息が荒い。
しかも、後から集まってきた人たちまで同じような視線でキエリを見ている。
キエリは、だんだんと意識がはっきりし、その代わりくっきりとした熱さのこもった痛みが背中にあることに気付いた。
背中に怪我をしているようで、振り返って背中を触って確認しようとした時、不思議なふわりとした感触がした。
「え?」
キエリの背から淡い水色の光でできた蝶のような羽が生えていた。
生えていると言っても、羽は全て光でできているのかキエリにくっついているようだった。
だが、不思議と神経が通っているように、キエリは羽を動かそうと思えば動かせた。
「う、そ‥‥本当にわたしって‥‥妖精?」
数日前のキエリだったなら、自分のルーツがわかって喜んでいたかもしれないが、今現在はかなり状況が悪い。
キエリはシアンスの言葉を思い出した。
妖精は、羽の鱗粉から万能薬が作られ、その血肉を食らえば不老不死になると言われている。
不老不死は確証はないと言っても、現実に目の前に妖精が現われたことで、夢物語ではないかもしれないという期待と欲望が人々に生まれてしまった。
じりじりとマーガレットとキエリに人々がにじり寄ってきた。
人々は目が据わっていて完全に正気ではなさそうだった。
「妖精だ‥‥きっと売れば大金になるぞ‥‥」
「若さを保って生きていけるなんて‥‥ほ、ほしい」
「あれは、あたしのよ! あたしのなんだから‥‥」
マーガレットとキエリはどんどんと逃げ道がなくなっていた。
キエリがアリアスなら助けてくれそうなのに、どうしたのかと見てみると、何故かアリアスは、何かを耐えるように唇を血が出るほど噛みしめて拳を握りしめて、立ちすくんでしまっている。
あの状態では、もはや味方かもわからない、助けを求めることは出来なさそうだ。
マーガレットも城の騎士に助けを求めて叫んだが、騎士たちは人ごみをかき分けてこようとしてくれてはいるがあまりの人の多さに今すぐ助けがたどり着くことがなさそうだった。
「キエリ、その羽って飛べるのか?」
「わ、わからない‥‥でも、痛くて動きそうもない」
「わかった‥‥どうにか、あいつらをどうにかしてせめて外に逃げないと‥‥くそっ! どうすれば」
「妖精をよこせ!」
「あたしの!」
「ちょうだいよ!!」
ついに逃げ場が完全になくなり、人々がキエリたちに襲いかかってきた。
マーガレットはキエリを守ろうとうずくまってキエリをからだ全体で囲うようにした。
襲いかかってきた人たちはマーガレットの背中を蹴りつけ、髪を引っ張り、キエリから引きはがそうとしてきたが、マーガレットは必死にキエリを守り続けている。
マーガレットから苦痛のうめき声と痛みからくる汗がキエリの頭上から落ちてきた。
「マーガレット!! もうわたしを置いて行って! このままじゃマーガレット大怪我しちゃう!」
キエリがマーガレットに必死に訴えたが、決してマーガレットはどかなかった。
「ごめん、キエリ‥‥あたし、あんたのこと頼まれたのに、全然守れてなくて‥‥背中に酷い怪我させちゃったし」
「ごめん‥‥ごめん‥‥」
マーガレットの瞳に涙がたまり、大きな粒がキエリの額に落ちた。
「ちがう‥‥ちがうよマーガレットは、ちゃんとわたしを守ってくれたよ。今だって‥‥」
「ゔっ!」
背中に蹴りが入れられて、マーガレットの顔が歪んだ。
(いやだ‥‥これ以上わたしの大事な友だちが傷つくなんて)
(いやっ!!)




