別れ
リアン、グリード、ソルダは馬にのって、街まではたどり着けたものの、舞踏会が開催されている城の城門前で立ち往生を強いられていた。
「なっ、なぜ貴族のオレが舞踏会に出席できないのだ!?」
「ですから、出席できるのは招待された方だけですので‥‥」
グリードが門番に突っかかって騒いでいた。
リアンは、城門の周りを探るように見ていた。
(どうにかして、中に忍び込めないかな‥‥なんだか嫌な予感がする)
すると突然、三人の乗ってきた馬が急にものすごい勢いで暴れ出した。
「どうしたんだ? 落ち着け!」
二頭分手綱を握っていたソルダとリアンが馬を落ち着かせようとしたが、三頭の馬の手綱は手をすり抜け、門番を押しのけ、城門をくぐり抜けて城の敷地内へと入って行ってしまった。
「なんなのだ急に!?」
「グリード様、空が‥‥」
空を見上げると夜になると眠りについているはずの鳥が何百羽という群れを成して、城に向かって飛んでいっていた。
「何が起こっているというんだ?」
「‥‥! 姉さん!」
何かを感じ取ったリアンが城に向かって走っていった。
門番は馬に驚いて尻もちをついて、走るリアンを止められずにいた。
「お、おい、リアン! オレも行くぞ!」
その後に続いてグリードとソルダも城へと向かった。
きらびやかな舞踏会の会場となっていたはずのダンスホールは騒然としていた。
突然、ダンスホールの会場に何頭もの馬と何百羽という鳥が侵入し、その場に人たちを襲いだした。
鳥が人々の頭をつつき、馬は人々の頭にかじりついたり、体当たりしている。
キエリたちに暴力をはたらいたブラッタも馬に頭をかじられて、髪の毛がごっそり食べられている。
「いやー! 助けて!」
「何で急に馬が!?」
人々は恐怖で絶叫しながら逃げ回っている。
その中でぽつんとマーガレットとキエリだけは何故か馬にも鳥にも襲われずに、無事でいた。
「一体なんなんだ? 馬と鳥に助けられた?」
マーガレットは、ぽかんとしながらこの現実味のない阿鼻叫喚な様を見ている。
キエリもなぜこうなったのかわからず、ただその光景を見ていた。
「そ、そうだ早く逃げよう!」
「うん‥‥」
キエリは、確かに今逃げなければいけないとは思ったが、ぼろぼろになったマーガレットを見ると不安が募った。
(わたしと一緒に逃げたら、わたしがマーガレットの足を引っ張ってしまう、マーガレットが傷つけられるかもしれない‥‥あんなに惨いことをする人たちがたくさんいるのだから、もっと酷いことをされるかもしれない)
(それに、逃げるって、どこに逃げれば? 村に戻ったとして、わたしが妖精だということは変わらない。そしたら、村の人たちやお父さんやお母さん、リアンにだって危険が及ぶかもしれない‥‥そんなの、絶対にいや‥‥)
キエリはじっと考え込み、そして、ひとつの決断をした。
とても辛く怖い決断だが、それ以上に大事な人達が傷つくよりもずっといいと思えた。
そして、キエリの決意に応えるように一羽の大きな鳥がキエリのもとに降り立った。
(もしかして‥‥)
キエリは、マーガレットの手のひらから滑り落ちた。
少しの衝撃で背中の傷に痛みが走ったが、我慢するしかなかった。
「キエリ?」
マーガレットがキエリの行動がわからず、首を傾げている。
キエリが鳥を見つめると鳥が背中を見せて、まるでキエリがのるのを待っているかのように振舞っている。
キエリは鳥の背中によじ登って、マーガレットに向かって微笑む。
「マーガレット、ここで一旦別れましょう。別々に逃げた方があなたも逃げやすいだろうから」
「そんな、キエリはどうするのさ?」
「きっと、この鳥が逃がしてくれる。あの馬たちも鳥たちも何故だかわからないけど、味方になってくれているみたいだから、大丈夫」
マーガレットは、ぐっと苦虫をかみつぶしたように苦悩の表情を浮かべて俯いたが、誰の手も届かない空中に逃げた方がキエリも安全なのではないかと思え、静かに「わかった」と言って頷いた。
マーガレットが人差し指をキエリに差し出した。
「あとで城門のところで落ち合おうね。絶対だよ」
キエリは、優しく微笑んでマーガレットの人差し指をきゅっと握った。
そして、名残惜しそうに離し、鳥にキエリが「お願い」と言うと、キエリの言うことをしっかりと聞いて飛び立って行った。
「ごめんね、マーガレット‥‥ごめんね」
キエリの瞳から涙が静かに流れた。
下を見れば、大勢の人が逃げまどっているのが見えた。
その中をマーガレットがくぐり抜けていくのが見える。やはり、マーガレットも動物たちには狙われないようで、すんなりと通り抜けることができ、会場を脱出した。
それを見届けると、キエリも会場の開いた窓から外に飛び出し、暗闇に包まれた外に出た。




