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手のひらほどの○○を【不定期】  作者: Nadi
小さい君

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8/22

本音

 夕刻になり、身支度を整えたキエリとマーガレットは舞踏会の会場となるダンスホールに案内された。


ダンスホールにはすでに何人か参加女性たちがいて、テーブルには豪勢でキエリたちが見たことがないような料理がずらりと並んでいた。


 マーガレットの髪はきれいに編まれて花の髪飾りがつけられた。丈の長すぎない黄色く明るい陽だまりのようなドレスが日に焼けた彼女を映えさせる。


 「なんか、いつもの格好と違うと緊張する‥‥」


あれよあれよという間にお嬢様に変身させられたマーガレットは、いつもと違う格好と豪華な周りの雰囲気のせいでカチコチに緊張していた。


 マーガレットの手のひらにのっているキエリも緊張していたが、マーガレットのあまりにも緊張する姿をみると逆にほぐれてしまった。


 「大丈夫? あ、マーガレットあそこにお料理があるよ! 食べてみよ」

 「うん‥‥」


マーガレットは、足をぎくしゃくしさせながらテーブルまでにたどり着いた。


キエリはテーブルの上にのると、小皿を両手で持って、マーガレットの好きそうなものをよそった。

よそえた量は、マーガレットにとって一口分くらいであった。


 「ほら、マーガレットの好きなお肉あったよ! ほら、食べてみて」

 「うん‥‥」


マーガレットは、キエリが持ってきた一口でぱくっと食べた。


 「おいしい?」

 「おいしいはずなんだけど、緊張してたら味がわかんなくなっちゃった」

 「それはもったいないよ! じゃあ、味がわかるまでわたしいろいろ持ってくるね!」

 「あはは、ありがと、キエリ」


少しは緊張がほどけたようで、引きつった笑顔が和らいだ。


 キエリが次の料理を持ってこようとしてテーブルの上を歩いていると、突然一人の令嬢が悲鳴をあげた。


 「いやー!? ネズミ!? ネズミがっ‥‥」


令嬢は視界の端に入った小さく動き回っているキエリをネズミかと思ったらしく、顔を青白くしている。


 きらびやかな服装と装飾品を鑑みると、貴族の令嬢なのだろう、彼女の周りにも数人の貴族と思われる令嬢がいて、ネズミと聞いて怯えた表情になっていた。


 キエリが慌てて令嬢に訂正しようとしたところ、すかさずアリアスが来て令嬢を落ち着かせて説明してくれた。


令嬢は、キエリをひと睨みすると「こんなだから平民との舞踏会など出席したくないわ! あれが病気でもしうつりでもたらどうしてくれますの? 追い出してちょうだい!」とアリアスに抗議してきた。


キエリは、あまりの酷いいいようにショックを受けて立ったまま動けないでいた。


 「ブラッタ伯爵令嬢、キエリ様はご病気などではございません。それに、本日は平民の方々との交流の場にございます。ですので‥‥」

 「それが気に入りませんわ! 殿下のお姿も見当たりませんし、気持ちの悪いものは見るし、最悪ですわ!」

 「そうですわ、ブラッタ令嬢の言う通りよ。今すぐあれを追い出して!」


ブラッタ伯爵令嬢と呼ばれた彼女と取り巻きの令嬢たちがキーキーと騒いでいると、マーガレットが急いでとんできた。


 「キエリ、どうした!?」

 「あ‥‥マーガレット‥‥大丈夫、何でもないよ。ご飯むこうで食べよっか」


キエリは、心が締め付けられながらも、友達を心配させまいと笑顔を作ったが、マーガレットの耳には、騒ぐブラッタたちからキエリへの侮辱の言葉が聞こえてきて、ずんずんと大股でブラッタに詰め寄ろうとする。


マーガレットの顔は、完全に怒りで満ち溢れていた。


これは喧嘩になると思い、キエリが必死にマーガレットに叫んだ。


 「マーガレット! 駄目よ、喧嘩なんかしたら! わたしは、大丈夫だから‥‥」

 「キエリ‥‥あたしね、あんたの唯一嫌いなとこあるの‥‥」


キエリは、突然マーガレットから嫌いだなんて言われて、心臓をぐっと鷲掴みにされたように苦しくなった。


しかし、マーガレットが振り返ると、そこには嫌悪もなく、怒りもなく、ただ寂しそうにキエリを見ていた。


 「いっつもさ、悪口言われても、大丈夫、大丈夫って‥‥大丈夫なわけないじゃん! 嫌なこと言われたら、誰だって傷つくじゃん‥‥だから、たまにはさ‥‥嫌だったって、むかついたって言ってよ‥‥ほんとのこと言ってよ」

 「あたしは、あんたと一緒に悔しがったり怒ったりしたいよ。遠慮なんかしないでよ‥‥そうじゃなきゃ、友達の意味ないじゃん‥‥」

 「マーガレット‥‥‥」


 キエリは、マーガレットから言われて初めて自分がどれだけ友人に心配をかけ、知らず知らずのうちに壁を作っていたのかと気付いた。


 キエリは、自分が他の人間と違い小さくできないことが多すぎるということは理解していた。


その無力さを感じ取る度に、自分は何もできない、人に迷惑をかけているという思いがキエリの自信と心をゆっくりとだが、確実にそいでいった。


 (わたしは‥‥マーガレットにこんなに寂しい思いをさせてしまっていたんだ‥‥こんなにも想ってくれているマーガレットに‥‥)


キエリのために心の底から怒ってくれる友人に自身の気持ちを隠すようなことは、彼女を突き放すも同然だった。


 「マーガレット、こっちに来て」


マーガレットは、まだ悲しそうに表情が暗いが、大人しくキエリのもとに来た。


 「‥‥言っておくけど、キエリのことを全部嫌いなわけじゃないからね」

 「うん、わかってるよ。マーガレット、ありがとう正直に話してくれて」


キエリは、穏やかにマーガレットを見つめる。


マーガレットの優しさが身に染みて、悲しみや怒りなんかは結局吹き飛んでしまった。


 「マーガレット、わたしを肩にのせてくれる?」

 「え? 危なくない?」

 「マーガレットなら大丈夫」


キエリがはっきりと言ったので、マーガレットは目を丸くして少し驚いたが、キエリを手にのせて肩へと導いた。


マーガレットの肩にのり、からだをもたれかけた。


 「マーガレット、いつもわたしのために怒ってくれてありがとう。本当はすごく嬉しかった」

 「でもね、マーガレット‥‥わたしは、他の人から悪口を言われるより、喧嘩してマーガレットが怪我をしたり、不幸が起こったりする方がずっといや」

 「あたしは、そんなのっ‥‥」

 「いやなの! そんなの絶対に見たくない! だって、あなたは大好きなお友だちだもの。それがわたしの本音だよ」

 「キエリ‥‥‥‥わかった」


マーガレットは、キエリの気持ちに納得してくれて頷いた。


からだをもたれかけていたキエリはバランスを崩しそうだったが、なんとか踏ん張れた。


 「でも、一言ぐらい文句言ってもいい? あの貴族のバカ令嬢に」

 「一言で済ませてね‥‥そのあとはすぐに逃げよう」


 マーガレットとキエリはいまだに騒いでいるブラッタ伯爵令嬢の前に歩みでると、二人はキッとブラッタとその取り巻きを睨みつけた。


令嬢たちは、気迫あふれるマーガレットに何をされるのかと怯えて少し後ずさった。


 「ねぇ! あんた貴族だか何だか知らないけど、あたしの大事な友だちがおかしく見えるんなら、それはあんたの目が腐ってんのよ! その両目を母親の腹の中に帰って取り替えてきな!! このブス!」


マーガレットは、一言と言っていたがもう少し上乗せはされている気がした。


しかし、キエリはマーガレットに気圧されてひぃっと小さく悲鳴をあげる令嬢たちと怒りでわなわなと震えるブラッタを見ると、少し胸がすかっとした。


 キエリもマーガレットという心強い味方がいると思ったら、少しくらい言い返してもいいかも、といつもなら言わないけれど一歩踏み出してみることにした。


 「あなたたちからの屈辱的な言葉は非常に不愉快です。でも、ここは、他の皆さんも楽しんでいらっしゃいますので、お互い干渉しあわないようにしましょうね‥‥それでは」


 「よし、逃げようマーガレット」


 キエリは、小声でマーガレットにこの場を離れるように言ってキエリたちはブラッタたちに背中をみせた。


しかし二人が振り返ってすぐに、ブラッタがずかずかと詰め寄ってきて怒りにまかせて手に持っている扇子でキエリをひっぱたいてきた。


ブラッタの咄嗟の動きにアリアスは反応はしたものの一歩止める手が届かず、キエリは思い切りぶたれて軽いからだは空中に浮いた。


 「キエリ!!」


マーガレットの悲痛な叫びがキエリの耳に届いた気がしたが、衝撃のせいで酷い耳鳴りを起こしていた。


すぐキエリの下に硬い床が迫っている。


 (あぁ‥‥わたし、こんなとこで死んじゃうのかな? マーガレット、リアン、お父さん、お母さん‥‥‥‥)


 (まだ、死にたくない‥‥‥‥)

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