歯がゆさ
ラクリマとルプスが考えて考え抜いた名前の候補から、女の子に名前を選んでもらった結果、彼女の名前は「キエリ」と名付けられた。
そして、もう一人、ラクリマとルプスの間に生まれた男の子はリアンと名付けられた。
月日は流れ、キエリは17歳くらいになり、リアンは14歳になった。
二人は共に美しく立派に育ち、リアンは、ラクリマに似た栗色のふわっとした髪とルプスの青色の瞳よりも少し深い青の瞳を持つ。
小さな村では見知った仲しかいないため体感しずらいが、彼が歩けば女性が皆振り返るほどの美少年だ。
キエリも短かったふわふわな銀色の髪も伸び、美人であることもさることながら、愛らしく笑う姿は男女ともに魅了する。
ただ、キエリは他の人と違って、以前よりからだはかなり成長しても片手で持てるくらいで小さいままだった。
リアンはキエリを自分の肩にのせて、この村唯一の教師と呼べる人のもとへ今日も向かっていた。
「リアン、毎日ごめんね肩にのせてもらって。煩わしくない?」
「そんなことないよ、姉さん。それより、命綱しているとはいえ、しっかりつかまっててね。それか、ポケットに入る?」
キエリの腰にはぐるりと毛糸を結んでおり、それがリアンのシャツの胸元のボタンにつながれている。
キエリにとってこの高さから落ちてしまうことも危険極まりない。
「ううん、ポケットよりこっちの方が景色がいいから。それに、一度もリアンがわたしを落としたことなんてないでしょう?」
生まれた時からキエリと共に過ごしているリアンは、キエリを連れて歩く際は注意深く、キエリを落とさないように歩くので、キエリは危ない目にあったことがなかった。
「それが今日になるかもしれないだろう?」
「ふふっ、リアンってやっぱり心配性ね‥‥でも、そうさせちゃったのはわたしのせいか‥‥」
キエリは、表情が暗く沈み、慎重にリアンの首元の方にずれて、リアンの首にぴとりと肩をついた。
「はぁー、わたしもみんなみたいにからだが大きかったらなぁ‥‥それか、せめて自由に動けるようになってリアンたちに迷惑かけずにいられたらいいんだけど」
リアンは、キエリの方は見られないが、少しむすっと顔をしかめた。
「姉さんはまたそんなこという‥‥姉さんはそのままでいいよ」
「そう、かな‥‥でも、あなたにもお母さんにもお父さんにも、迷惑かけっぱなしだし」
「僕は、姉さんを迷惑なんて考えたこと一度もない。母さんも父さんもそうだと思うよ。それは、姉さんもわかってるだろ?」
「うん‥‥ごめんね、ありがとう」
リアンは、キエリが不安を口にすると少し怒ったようになるが、優しさがにじみ出ているのが感じられる。
キエリは、家族が自分を十分すぎるほどに愛してくれていることは理解しているし、キエリも家族のことが大好きだが、それゆえ移動もまともにできない無力な自分が歯がゆく感じる。
「おはよう! リアン、キエリ!」
「おはよう、マーガレット!」
目的地の一軒家の前に二人が着くと、はじけるような笑顔を見せながら、元気いっぱいに手を大きく振っている友人のマーガレットが見えた。
キエリも小さいながらもいっぱいに両手を振って挨拶した。
マーガレットは、さっぱりと麦色の髪の毛を肩より上で切っており、肌は畑仕事か川で遊んだためか少し焼けている。
彼女のはつらつとした性格はキエリもリアンも好きだった。
「おはようマーガレット、あいつはいる?」
「まだ来てないみたいだけど、まったく、あいつが突っかかってくることさえなければ、もっと楽しいんだけどね。なんで、わざわざここに来るかな?」
マーガレットは、目の上のたんこぶの存在を思い出して大きくため息をついた。
リアンも非常に気に食わない野郎の顔を思い出しているのか、綺麗な顔が険しく歪む。
「全く、あいつのせいでどれだけ姉さんが傷ついてるか‥‥やっぱり、一度話し合わないとかな‥‥」
話し合いと言いながらも弟の不穏な雰囲気を感じ取って、キエリがとっさに髪を少し引っ張って制する。
「リアン、わたしは大丈夫。だから、仲良くだよ!」
「あいつがいい加減友好の姿勢を見せてくれるんならね」
マーガレットもうんうんと大きく頷く。
「ほんとだよ、また変なこと言ってきたら、今度こそぼこぼこにしてやろう!」
「うん、でもソルダがあいつを守ってるから、骨が折れるね‥‥」
恐ろしい計画を立てようとしている二人を前にキエリは本当にやめてね、と何度も念押しした。




