お人好し
キエリは、人間ほどの大きさになってからというものの感動と驚きの連続だった。
歩いて一人でこんなにも早く数十歩で部屋の間を行き来できることが嬉しく、何回か往復してしまってゼノに笑われた。
食事も皿にのっているご飯を全部食べられるなんて驚きで、一人で食器を全部持ててしまう。
ただ、大きくなって距離感がうまく取れず、背中の羽がものによく当たるのを避けるのが大変だった。
大きくなったキエリは、一人で何でもできてしまうかのようにさえ思えてきた。
「うふふ♪」
キエリは、嬉しさで笑みがこぼれて鼻歌を歌う。
あんまりにも喜んでいるキエリを見て、ゼノが苦笑する。
「もう、そんなに感動的? なんだかそんなに喜ばれるとびっくりしちゃうわ」
「あ、ごめんなさいゼノさん‥‥鬱陶しかったですか?」
キエリは、はしゃぎすぎたのかと恥ずかしくなって顔を赤くし、手をもじもじとする。
「んふふ、違う違うなんだかこんなに喜んでくれると思ってなかったからよ。そんなに大きいからだはいい?」
「はっはい! すごくいいです! だって、今まで出来なかったことがたくさんできるようになりましたから」
キエリはぱっと明るく笑った。
ゼノはキエリを見ると優しく微笑んでキエリの頭を撫でた。
キエリは、手のひらいっぱいに撫でられるのがまた嬉しくて笑顔になってしまうが、またはしゃぎすぎているのかとほっぺをむにむにとして笑顔を止めさせた。
「さ、もう遅い時間よ。今日は寝ちゃいなさい」
「あ‥‥あの、本当にこんなにしてもらっていいんですか?」
「いーの、いーの! むしろ他に何かないの?」
「‥‥‥え‥‥と、じゃ、じゃあお手紙を書いてもいいですか?」
「さっき話してた、お友達や家族に?」
キエリはこくりと頷いた。
先ほど一緒に夕飯を食べた時にここまで来たいきさつをゼノには話していた。
「いーんじゃない? 手紙はアタクシが届けてあげる。アナタじゃ手紙出しにいけないでしょ」
「は、はい! お願いします!」
キエリは、ゼノからもらった便せんにマーガレットに嘘をついてしまったことに謝り、守ってくれたことの感謝、今はある人に匿ってもらっているから心配しないでほしいこと、いつになるかわからないけど、自分の羽を隠す方法を試しているから、それまでは会えないことを書いた。
そして、自分の家族宛に今まであったこと今の現状を正直に書き、心配をかけてごめんなさいと書いた。
文字の書き方は理解していたが、キエリにとって文字を丁度良い大きさで書くというのは難しく、本を見ながらどういう大きさがいいのかと四苦八苦しながらなんとか書き終わった。
キエリは、便せんに封をして、ゼノに「お願いします」と言って渡した。
そして、ゼノが使っていないという部屋を貸してくれて、ソファで横になって毛布をかぶって眠りにつくことにした。
あれだけ眠って寝れないのではないかと思ったが疲れはとれきっておらず(あしたはまずお掃除しなきゃ‥‥それから、魔力を制御する練習をして‥‥)と考えているうちにキエリは深い眠りについた。
ゼノは、用紙に今考えられる妖精の粉を使った魔法や薬の作り方をできるだけ書いていた。
「ふぅ‥‥今はこんなとこかしら。まさか、絶滅した妖精がアタクシの前に現れるなんて、アタクシってなーんて幸運なの!」
ゼノは、椅子から立ち上がり、キエリから預かった手紙を手に取った。
「あの子には帰るお家があるのね‥‥」
ゼノはぐしゃりとその手紙を握りしめ、手に魔力を込めて炎を生み出し、手紙を燃やして灰にしてしまった。
「‥‥でもね。人間となんて妖精が一緒に生きていけるわけがないのよ。ここで、アタクシに保護されて生きている方がずっとシアワセよ」
ゼノは、キエリの眠っている部屋に行き、ソファの手を置く部分に足を組んで座り、眠っているキエリの頭をなでた。
「んふふ、大丈夫よ。もう、人間の家族や友達じゃなくて、このアタクシが守ってあげるわ。大事な研究対象ちゃん」
ゼノは残酷な魔法をかけるために、その手に魔法を込めた。




