仲良しになろう
因果応報。そんな言葉がある。ラグリアのあちこちで湧き上がるシャウトは、肉屋がこれまでとってきた行動の報いだ。
だから……これは当然の帰結であり、仕方のないこと。
「今のうちに、みんなで肉屋をPKしようぜ!」
「一番に仕留めた奴に、賞金なw」
擁護するものは誰もいない。
「どうせリアルも豚肉みたいに脂まみれなんだろ?」
「ふいたw ディスプレイにお茶かかっただろw 誰だうまいこと言った奴www」
因果応報……か。
これは……それにつけてもヒドイ仕打ちのような気がする。確かに、肉屋は今までずっと狩り場を独占したり、邪魔をする人間に容赦はなかった。
「お前みたいなのは、1人で寂しくオフゲーでもやってろよ。ボケ」
嘲笑にも似た、シャウトの数々……それは正当な理由の皮を被った悪意。
何も言い返さない肉屋の姿には、昨日までの憤りや、怒りはすでにない。
むしろ……哀れに見える。
肉屋が犯した今までの罪が消えることは無い。けれど、アカハックにあい、全てを失ったのなら、それまでの罪を全て水に流して、一からやり直すこともできるんじゃないか?
今の肉屋は被害者なのだ。
「ごめんなさい」
唐突に開かれた肉屋の口。そこから出た謝罪の言葉に、皆一瞬時間を停止させる。
想像できなかったのだ。肉屋が謝罪の言葉を口にするだなんて……。
「今更謝ってどうにかなるとでも思ってんのか! 謝って済むなら警察いらねーんだよ」
「どうせにウソに決まってるだろ? 口だけ口だけw」
「本当に謝罪するなら誠意を見せろ! 今すぐ引退してここから出て行け!」
肉屋の謝罪が気に入らなかったのだろう。確かに、そんな一言で全てが帳消しにできるワケじゃない。
ふと、父の口癖になっている言葉を思い出した。
『憎む弱さより、許せる強さを持て』
まだ小さい頃、潤が私のおもちゃを壊してしまい、それが元でケンカになり泣かしてしまった……。その時父に叱られて、今の言葉をもらったのだ。
肉屋は謝罪した。なら、それに応えてやるべきだと思う。
だから、肉屋のことはこれからの行動で判断すればいい。これ以上肉屋に罵声を浴びせる必要などない。
だから。
「もうやめて! 肉屋さんは被害者なんだよ! ちゃんと謝ったんだよ! どうしてそんなひどいことばかり言うの><」
突然、ラグリア一体に悲痛な叫び声……シャウトが響いた。
「おいおい、誰だよpunpun321って」
「謝ったからって俺は許さねーぞ」
「やめるわけねーだろw こんな楽しいことwww 最近面白いことなくて、暇してたんだ。肉屋をみんなで血祭りにしよーZE!」
「肉屋擁護乙! てか、もしかして、肉屋の別キャラ? 自演だったりすんじゃねーの? 肉屋友達いねーからなw」
プン……。
いつの間にかプンがオレの後ろにいて、叫んでいた。
「うぜーな、punpun321。わけわかんねーヘンな名前しやがって、アホですか?」
「肉屋の肩を持つならお前も同罪だ。一緒にPKしちゃおうかー?w」
「そうそう。せっかく、肉屋を懲らしめるチャンスじゃねーの。俺達正義の味方だぜ?w 悪いくず肉ちゃんをミンチにする正義のヒーロー……俺、かっこよすwww」
だめだ。いつの間にか、悪意の矛先が肉屋から擁護したプンに向いている。
「うるさいんだよ、お前ら。肉屋は装備を全部失ってるんだ。これを機会に今までの罪を認めさせて、再スタートさせてやってもいいだろう?」
オレはそう叫んだ。
「はあ?www 誰このエルトっての? 罪を認める? 再スタート? させるかよwww 今までの恨みを晴らして、二度とログインできないように、ギタギタにしてやるんだ。謝ったって、かんけーないのw」
「そうそう、お前もpunoun321も肉屋もまとめてヤってやろうか?」
こいつらは……。
「お前ら、もうやめろ。いい加減うるさいんだよ。エルトの言ってることも正しいだろうが、肉屋はもう十分嫌なほど罵声を浴びせられたんだ。謝罪もした。装備も失った上にこれだけ言われりゃ、気持ちも変わるだろ? 肉屋が変わっていくのを見届けてやれよ。それでも、エルトやpunoun321に手ぇ出すなら、ギルド幼稚園が全員で相手になるぜ」
……すぺりおるだ。
「あんたらかっこ悪すぎ! ウチのダンナを見習いな。罪を憎んで人は憎まずなんだヨ! 一回死んでアンデッドにならにゃわかんないのかねー」
……ケル。
「ぬを。そこまでだ! エルフの女の子に罪は無い! ぺったんこは正義です! だから、許してあげてね。あと、ぼくちんいじめたら、泣くからね! 泣いちゃうからね!? いじめるなら先に中尉をお願いしますm9-(°д°)」
ヤマモト……かっこ悪。
「PKね……なら、俺の出番かな。俺にPKKされても……文句ないよな? 真正面から叩き斬ってやるぜ」
椛まで。
皆……ここにいたのか。
「椛……何であんたまで!? おい、お前らやめとけ、相手が悪すぎるぞ」
「なんだよ、こいつら……何で肉屋なんかの為にそこまでになるんだよ、馬鹿じゃねーの!?」
「畜生! キラ・ヤマモトとかいう奴、覚えとけよ」
「ええー(°д°); 何でぼくちんだけ……」
みんなが援護してくれたおかげで、大きな争いに発展せずに済んだ。
……助けられたな。皆に……。
ラグリアの中央。さらにその中央の噴水に7人の姿があった。
エルト。プン。ヤマモト。すぺりおる。ケル。豚肉500g。椛。
「あいつら、好き勝手なことばっかり言いやがったな。マジで感じ悪ぃ」
すぺりおるが最初にそう切り出した。
「ぬを。す、すぺりおるたん……今日は重装備……ハアハア。ぬを。プンちゃん。純白最高でござる……ハアハア。ぬを。ケル姐さん。肩がこっていませんか? こころゆくまでマッサージを……ハアハア」
ヤマモトはみんなで無視する。
「エルトくんもプンちゃんも、偉いね。肉屋はアタシも、嫌な記憶しかなかったけど、あれはやっぱり言いすぎだと思った。でも、声を上げるのはとても勇気がいることよ? 偉い^^」
ケルも憤りがあったらしい。
「肉屋はちゃんと謝罪をしたんだ。それがウソか真かはこれからの行動で判断すればいい。間違えるなよ、肉屋。オレはお前を許していない。目の前の理不尽に憤っただけだ。お前を助けたんじゃない。礼なら最初に声をあげたプンに言ってやれ。オレが助けたのはプンだからな」
そうきつく言っておく。
「punpun321」
肉屋がプンの目の前に出る。
「どうして? 昨日あれだけ攻撃したのに。何で?」
「目の前で困っている人を見たらプンは放っておけないのです><v 確かに昨日はいっぱい攻撃されたけど、昨日のことだもん^^ だから、仲良しになろう(^-^*)」
甘いな、プン。けれど……そんな甘い奴がこの世の中に1人くらいいてもいいかもしれない。それに、そんな甘い奴が昔1人いた。
「punpun321さんは……カインみたいですね。俺も、昔カインにそんなことを言われました。あなたがギルドを作ったのなら……きっと素晴らしい仲間が集まって、いいギルドになるでしょう。昔の灰色の狼みたいに」
椛……。
「ありがとう」
肉屋はそう言った。たった5つのひらがなの羅列。そこに込められた思いはちゃんと伝わる。余計な装飾のない、わかりやすいシンプルな言葉。
文字だけで相手に伝わるモノなど微々たるモノだ。けれど、肉屋の言葉はちゃんと伝わった。
「そうだ@@!」
「どうしたプン?」
「プンいい事考えたよ~^^v」
「ぬを。プンちゃんの下半身装備を解除して踊ってくれるのですか!? それとも……ハアハア」
「黙れ変態。続けてくれ、プン」
「ギルドを作るの^^ プンと、エルくんと、ヤマちゃんと、すぺりおるちゃんと、ケルさん、椛さんでギルドを作るの!」




