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いつかあの日のように

 すぺりおるの中の人は男。まあ、ヘンに女言葉を使われるよりもオープンな方が、さっぱりしてていいかもしれない。


 ドワーフ女、通称ドワ娘は一部に熱烈な人気があると先ほど説明したが、ドワーフ男、通称ドワ坊も人気がある。これもまた、一部に。


 そのドワ娘とドワ坊だけで構成されたギルド『幼稚園』は、ドワ信者の巣窟である。待て、そういえば……幼稚園のギルドマスターの名前はスペリオルだったはず。


 こいつ……スペリオルのセカンドか?


 ちなみにセカンドは、二番目に作成したキャラクターという意味で、サブキャラとも言われる。


 すぺりおるの装備を見れば、一目でこいつが上級プレイヤーのセカンドキャラだという事が解る。


 今のレベル帯で装備できる最高グレードの装備品に、アクセサリーの猫耳。猫耳はけっこう高価なアイテムであるし、そもそも初心者プレイヤーはそんな所に金を使う余裕は無い。


「もしかしてあんた、スペリオルか?」


 オレは思い切って聞いてみた。


「ありゃ? なーんで俺の事知ってんの? メインで会ったっけ?」


「いや、名前を見てなんとなく……」


 本人だったらしい。これは助かる。スペリオルはこのサーバーでも屈指のウォーリアである。彼女……いや、彼か。彼のプレイスキルがあれば、オレのアシストもそんなに必要ではないかもしれない。


「んーー? プンってばかなりキャラメイクいじくったなぁ? 珍しいぞ、それ」


 すぺりおるがプンの周りをちょろちょろと動き回る。そして、プンを凝視したまま呟いた。


「うん^^ 5時間かけてこの子を産んだのです><v」


 カオス・クロニクルのキャラクターメイキングは自由度が高い。鼻の高さ、位置、唇の大きさ、耳の大きさ、輪郭などなど……いじりだしたらキリがない。


 だから、サンプルがいくつか用意されているのだが、キャラに愛着がある奴は最初ここで大いに悩むらしい。それにしても、5時間って……オレなんか、サンプルAの目つきと髪色いじっただけだぞ。


「ぬを。そうだったのか、プンちゃんハアハアの秘密はそこに!」


 普通、5時間かける奴はいないと思うが……やはりプンは変わっている。


「それじゃ、早速『炎の祭壇』に向うか。おっと、その前にちょっと飲み物入れてくるよ」


「いてら^^」


 机の端に置いてあったマグカップを手に取り、リビングへと向う。リビングのドアからは光がもれ出ていて、テレビの賑やかな音が暗い廊下に響き渡っていた。


「あら、またコーヒー? 成長期なんだから、あんまり飲んだら体に毒よ?」


 ドアを開けると、母親がテーブルで家計簿を付けていた。マグカップを右手に持つオレの姿を見て、飲みすぎないよう注意をかけてくる。


「別に……あれ、お父さんは?」


「残業よ。あんたと潤の学費を稼がなくなくちゃならないんだから、頑張ってもらってるの。お母さんも来週からパートに行かないと……あんたも来年受験だから、予備校か家庭教師を付けないといけないわね。ああ~出費がかさむわ。宝くじでも当たらないかしらねー」


 母親の声を背に、戸棚からインスタントコーヒーの瓶を取り出し、マグカップへとそれを入れると、その上にお湯を注ぐ。白い蒸気が立ち上りそれが鼻腔を突きぬけ、コーヒーの香りが脳を刺激する。


「学校はうまくいってるの?」


「別に……」


「お母さん、心配なのよ? 潤はたくさんお友達を連れてくるけど、あんたはいつも家でゲームばっかり。成績は下がったりしてないから、やめろとは言わないけどね。友達をつくる事も大切なのよ? 解ってるの? まり――」


 母親の話が終わる前にリビングのドアを閉めた。会話の中に出てきた潤というのは二つ年下の弟だ。


 小さい頃からそうだった。父親の仕事の都合で転校を繰り返し、長い付き合いの友達が出来たことは無い。弟は正反対で、すぐに誰とでも仲良くなれる性分らしい。


 確かに、現実には……リアルには友達が少ないけど、ネットには……どんなに距離が離れていても、場所が変わろうとも、何でも話せる仲のいい友達がたくさん『いた』。


 そうだ。1年前までは……こんな風に打算で物を考えるズルい人間じゃなかった気がする。プンのような初心者とたくさん狩りに出かけてすぐに仲良くなって……。


 でも……。


 また作れるだろうか? 新しい場所で……新しい仲間を。


 脱ぎ散らかした制服と、今日の授業で使った教科書。ゴミ箱をひっくり返したような床。そんな地獄絵図のような部屋の中で、そこだけは輝いていた。


 机のイスを引いて、腰を落ち着かせると淹れ立てのコーヒーを口に含み、カオス・クロニクルの世界へと戻る。


「ただいま」


「エルくんおかー^^」


「ぬを。中尉、おかえり」


「おかえりぃ」


 待っていてくれた。昨日今日出会ったばかりの3人は、確かにそこにいて、オレの事を待っていた。


「行こう、炎の祭壇へ」


 エルトは歩き出す。その背中を追うように3人が付いてくる。いつかまた……1年前のようにオレはこいつらと仲良くなれるのだろうか?

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