狩り場はみんなのもの
村のテレポーターまで歩いて、そこから一気に炎の祭壇へとテレポートする。
炎の祭壇は30代前半の狩り場だ。けっこう格上のMOBがうろちょろしているが、今日はエンチャンターもいるし、HP管理はオレが一手に引き受けるので、全滅することは無いだろう。
ちなみに、MOBと9レベル以上の差があるので、オレには経験値が入らない。だから、あえてそれを利用してオレもパーティーに入っている。こうすれば、オレが経験値をムダに吸ってしまうこともないし、パーティーメンバー全体に効果が及ぶ『グループヒールライト』が使える。逐一メンバーのコンディションが確認できるというのも大きな利点である。
めらめらと燃え盛る炎の沼。辺り一体は炎以外に何もなく、火属性のMOBがうじゃうじゃと沸いている。中央の祭壇……単なる岩山にはしごをかけた程度の物だが、そこにエリアボス『フレイムガイスト』が待ち構えている。
このメンツでは心許ないので討伐はしない。
カオス・クロニクルは最大で6人までパーティーを組める。基本的には、ナイト、ヒーラー、エンチャンター+それ以外の職3人という構成がスタンダードだ。討伐するにしても、もう一人くらい欲しい。
それに、種族ボーナスも考えると、エルフとダークエルフがいれば文句がないのだが……。
種族ボーナスについて説明すると、各種族ごとにパーティーを組んだとき、メンバーに強化魔法が適用されるのだ。種族それぞれに固有のボーナスがあるのだが、6種族それぞれがバラバラに参加していれば6種のボーナスが得られるわけだ。
とはいえ、一人でもプンの狩り友候補が来てくれたのでこれ以上の文句は言えないか。
「さて……プンのためにも少しパーティーらしく狩りをしてみるかな。ヤマモトはTL。プンはFA。オレは状況に応じてスリープとヒールを。すぺりおるは臨機応変に攻撃」
「ぬを。TLか、了解!」
「あいよー」
「@@?」
ヤマモトとすぺりおるはすぐさま理解してくれたが、プンだけはまったくわかりませんオーラを放出していた。
「プン、TLっていうのはターゲットリーダー。それぞれがバラバラにMOBを攻撃したら効率が悪いだろ? だから誰のターゲットに合わせるかを決めておくんだ」
TLは非常に重要な役柄でもある。優先して倒すべきMOBを選定するのもそうだが、ナイトのヘイトからもれたMOBや、予期せぬMOBとのリンク時に適切な判断が必要になる。
もう一つの意味として、トークリーダーというのもあったりするのだが……これもまた、重要だ。パーティー内のチャットを盛り上げ狩りを退屈にしない。これは誰にでもできることではないが。
「FAは、ファーストアタック。要するにMOBを最初に攻撃するプレイヤーだな。これは性質上ナイトの役割だ。MOBへの攻撃を優先して繰り出し、ヘイトスキルを使って敵対心をあおる。そうすればMOBの攻撃はお前に集中する……大丈夫。お前のHPは常にオレが見ているし、危ないと思ったら即リターンする。損な役割かもしれないけど、これができればお前は立派なナイトだよ」
「うーん、わかんないよお;;」
「そうだな……簡単に言えば、ヤマモトのターゲットしているMOBにヘイトをかける。それを倒したらまたヤマモトのターゲットしたMOBにヘイト。その繰り返しになるな」
「わかった! ヤマちゃんに合わせればいいんだね! それならおバカなプンでもできちゃうw><w」
「そうか。それじゃ早速始めよう」
「;;」
「なんだ、プン?」
「プンはおバカじゃないよ^^ っていうフォロー待ってるのに、どうして誰もそう言ってくれないの!」
しばらく皆沈黙して。
「プンはおバカじゃないよ^^ これで、いいのか?」
素っ気無くそうタイピングしてみた。
「心がこもってないよ@@;」
「お前はアホか。初心者なんて皆最初は解らない事だらけさ。やってる内になれりゃいいんだ。オレだって最初はそうだったんだし、気にするな」
「そうそう! ぼくちんなんか、最初ダークエルフのおねーさまのお尻ばっかり見てたら、今度はエルフのおにゃのこの生足に目が行って、ドワ娘のツインテールでうっとりしてたら、いつの間にかパーティー追い出されてたよ! プンちゃんはハアハア指数が半端ないから、いっぱい失敗しても大丈夫! 初心者さんにはよくあることだよん!」
「ヤマモト」
「ぬを。中尉、何か?」
「お前がミスったら即追放する」
「ひどす!」
ひどくないだろう。ここまでエロバカいとは、想像できなかったが。……男キャラでよかった。そんな風に見られてたらと思うとゾっとする。
「じゃあ、プンも注意しなきゃ。エルくんの横顔にうっとりしてる暇はなさそう。。」
男キャラでも、見られることは見られるらしい……。
「……そろそろ始めねぇ? 俺もう、プンのスカートの中のぞくの飽きたよ」
のぞくなよ。
とりあえず狩り場での諸注意を話し終えた後、オレ達はさっそく狩りをすることになった。狩りに入る前にすぺりおるが習得しているバフをかけて、戦闘力を上げスタート。
ヤマモトがファイアスピリットというザコMOBにターゲットし、プンがそれをヘイトする。プンめがけて襲い掛かるMOBをヤマモトが攻撃し、すぺりおるがそれの補助をする。
「ぬを。やっぱバフがあるとぜんぜん違うお! トランザム発動したみたいだお! キラ・ヤマモト、目標を駆逐する!」
「ヤマモトうっざ」
「ヤマモトにはヒールなしだな」
「ヤマちゃんうるさい^^」
「ぬお。これなんてイジメΣ(°д°);」
順調にMOBを倒していく。初めはミスを重ねていたプンだったが、次第に慣れていき、今では攻撃しながらチャットできるくらい余裕が生まれていた。いい感じだ。
プンは成長している。チャットの速さもだが、順調にレベルも上がっているし、自分の立ち位置をちゃんと理解できるようになった。昨日今日でここまで成長しているのを見ると、付き合った甲斐もあるというものだ。
……やればできる子なんだな。
とはいえ、プンはフェイブナイトだ。気を抜けば一瞬で瀕死状態になってしまうので非常にヒヤヒヤさせられる。常にHPゲージが4分の3以上ある状態をキープしておかなくてはならない。
狩り始めて、20分ほどした時……それは唐突に起った。
プンがヤマモトのターゲットしたMOBにヘイトをかける。MOBがこちらにやってきて、いきなり倒れた。まだ、攻撃していないはずなのに。
「はりゃ?」
「ぬを。プンちゃん攻撃した??」
「ううん、してないよー?」
倒れたMOBをよく見ると、矢が3本刺さっている。カメラを回して周囲を見渡すと、炎の向こう側に3つの人影があった。
「横殴り……か?」
オレが呟いてすぐ、3つの人影がこちらにやってくる。それは、3人のエルフの女性だった。3人とも同じ装備、同じ髪型、同じ顔である。ただし、髪色だけは違っている。
「げぇ。肉屋だ。うっぜ。ここ、あいつのナワバリだったんかぁ」
「すぺりおるちゃん、お肉屋さんなんてどこにもないよ@@?」
「プン。あいつらの名前見てみろ」
「えっと。豚肉500g、牛肉500g、鶏肉500g……?」
『肉屋』はエルフアーチャー3人の事を指している。豚肉500g、牛肉500g、鶏肉500gという3キャラではあるが、あれを操作しているのはたった一人の人間なのだ。
3PC……3つのPCでマクロを駆使して同時に3キャラクターを操作する風変わりなプレイヤーで、キャラの名前から『肉屋』と呼ばれるようになった。
しかも、この肉屋。狩りのマナーがすこぶる悪い。一旦狩り場に引きこもると、5時間はずっと独占していて他のプレイヤーが近づこうものなら、周囲のMOBを全て乱獲してまで独占しようとする。
一般プレイヤーからは嫌われている存在だ。その肉屋がここにいる……ということは、この狩り場もあいつに独占されてしまうだろう。
「ここ、使ってます」
真ん中の金髪のエルフ……おそらく、これがメインとしているキャラなのだろう、豚肉500gがそう言うやいなや、オレに向って矢を放った。
矢がものすごい勢いでオレに迫り――命中する。
しかし、矢がオレをすり抜けて、真後ろに出現したMOBに命中した。
「邪魔」
「ぬを。いくら金髪エルフぺったんこ生足ステキっ子でも許せん。お前にはハアハアせんぞ!」
「ヤマモト、後ろにすっこんでバナナでも食ってろ。豚肉500gさん。ここはオレ達が20分以上前から狩りをしていたんです。狩場はみんなの物でしょう? みんなで譲りあって――」
オレのセリフが終わるまでに、周囲はMOBの死体でいっぱいになっていた。なおも3人のエルフは弓を引き、矢を放つ。
「だから?」
こいつは人の話を聞くつもりなどないらしい。
……どうするか。




