街から消えつつある、プラダを着た悪魔
最近、小説の連載を少しお休みしていたら、ほしいもの探しに情熱がいってしまい。
今の世の中に思おうところがあり、書いてみました。
自分のこと少しと、ファッション業界に願う、かつて服を愛した者の遺言みたいなエッセイです。
この願い。
VOGUEへ届け。
十数年ほど前のことだろうか。
私は、ある一着のコートを試着した。
誰もが一度は目にしたことがある、モードを牽引する代表的ブランド。
ミウッチャ・プラダがデザインをした、あの、PRADAの上質な黒いウールのコートだった。
ちなみに、著者の私は服が好きでその道に進むと思っていた。
実際、学校も文化服装の方へ進学した。
まぁ。人生いろいろあり、今は全く違う分野の仕事をしているのだが。
話は、プラダのコートへ戻る。
試着する前から、予感があった。
これは似合う。
短めの丈に、少しふわりと広がるシルエット。ポンチョのような雰囲気を持ちながら、きちんと袖がある。
そして何より印象的だったのは、大きなビジューをあしらったボタンだった。
黒い生地の上で、その装飾が実に美しかった。
価格は詳しくは覚えていないが、二十万円台くらいだったのではないだろうか。
その時、プラダは手がでないブランドではないな。
と思ったのをよく覚えている。
肩に収まり、生地が落ち、鏡の中で服の形が完成する。
それは単なる防寒着ではなかった。
デザイナーが布と身体の関係を考え抜いた、一つの造形物だった。
私は随分と迷い、結局そのコートを買わなかった。
当時は愛用していた、セカンドハンドで買ったジルサンダーのコートがあったし、他にもいくつかマルニやクロエのコートも持っていた。
私は、富裕層でもなんでもない一般層の人間なので、定価で服を買うことへの抵抗があった。
そして、今でも盛大に後悔している。
不思議なものである。
あの買わなかった一着だけが、十五年近く経っても鮮明に残っている。
あのコートを、今でもたまに探してしまうことがある。
サイズは合わなくとも、たまに見かける。ただ、十五年も前の服だ。
生地は経年変化し、裏地は傷み、装飾もいつまでも完全な状態とは限らない。
ならば、現行の新しいコートを買えばよい。
だが、現在の価格を眺めていると、私は思わず考え込んでしまう。
今ではプラダのコートは七十万〜百万円が相場なのだ。
映画、『プラダを着た悪魔』に登場する主役のアンディは今見ても若い女性だ。
あの物語の中では、月収だって、バカ高いイメージは持てない。
それでも、あの若くて美しい女性が着るからこそのラグジュアリーブランドの美しさは、あの時代。
確かに、街中にあった。
目を光らせて、街中を観察していた私が見ていたのだから信じてほしい。
プラダを着た悪魔は、確かに2000年代前半は世の中にたまに居た。
それは、言うなれば、収入とは関係なく。
努力をして、探せば。
若者でも、手が届き楽しむことができる時代だったと言える。
それがどうやって叶っていたかも、後に書いていこうと思う。
今の私には、あの頃より収入がある。
十代から働き続け、社会人としての経験も積んだ。
上には上がいるとして、一般的に言えば。
決して、稼いでいないほうではないはずだ。
それなのに。
若かった頃には手が届きかけたプラダが、今では昔よりも相当に遠い存在になってしまっている。
生活水準が下がったわけではない。
コツコツコツコツ働いてきた。
かなり頑張ってた時代もある。
なので、当然、昔より余裕がある。
では、何が変わったのだろう。
その答えを探してみると、単なるブランドの値上げでは片づけられない、ファッション産業そのものの変化が見えてくる。
少し長い話になるので、ご興味あれば。
何しろ、私にとってファッションとは、単なる衣服の話ではないのだから。
ちなみに作者は、あまり激しすぎない(ここ大事)モードファッションが大好きでした。




