アリスティデスの怒りと人類の分岐点
2061年
1月15日
指令室
【アリスティデス】
崩壊したヨーロッパ。
(……)
ある愚行のせいで。
「カトリック教徒のせいだ!」――ユダヤ人代表
「あなたがたがイエスを犠牲にしたのだ!」――司教
(……)
彼らは何も学んでいない。
(……)
もう限界だ。
「黙れ、この愚か者ども! これから訪れる事態の深刻さが、まだ分からないのか! それなのに、くだらないイデオロギーをめぐって争い続けている!」
「しかし……」――イスラム教指導者
「『しかし』など聞きたくない! 何百万人もの命が失われた。原子力発電所は破壊され、広大な土地が居住不能となり、双方の都市も廃墟と化した。それでも、まだ争いを続けるつもりか!」
【ヤコフ・ルナ】
(……)
その通りです。
「教授のおっしゃる通りです。もし彼らと真正面から戦えば、人類は絶滅するでしょう」――ヤコフ・ルナ
(……)
願っています。
(……)
この問題が解決することを。
「アリスティデス教授、あなたの提案は何ですか?」――ユダヤ人指導者
「宇宙への遠征です。」――アリスティデス
(……)
「しかし、全員が参加できるわけではありません。」――スミス将軍
「だからこそ、一部は地球に残って戦い、もう一部は人類の未来を守るために旅立つのです。それが最も合理的な選択です。」――アリスティデス
(……)
我々は共に戦う。
「戦場は違っても、目的は一つです。それぞれの戦線が人類を救うことになるのです。」――アリスティデス
【ヤコフ・ルナ】
(……)
天才だ。
(……)
論理的に考えれば、
(……)
感服する。
「今、教授のおっしゃる意味が分かりました。両陣営は互いの希望となるのですね。彼らが先に地球へ到着するのか、それとも遠征隊が途中で遭遇するのかは分かりませんが……」――ヤコフ・ルナ
「その通りだ。」――アリスティデス
「誰と対峙することになるのかも分かりません。」――アジャバ中尉
「その通りです。しかし、我々は何を持っているのか、そして宇宙について何を知っているのかは分かっています。その知識こそが、我々の最大の武器です。確かな基盤の上から出発しなければなりません。」――アリスティデス
(……)
容赦がない。
(……)
「先生、あなたは天才です。」――ヤコフ・ルナ
エルサレム研究所
専門家会議
【アミール教授】
(……)
困惑している者が多い。
(……)
冷静なのは、アリスティデス教授と私だけだ。
「鉱物の年代測定はできません。この物質は、私たちが知るどの元素とも反応が異なるためです。」――地質学者フォネスカ
「さらなる実験が必要です。」――ラビ・グラッジ
「これまでに何回の実験を行いましたか。」――アミール教授
「正確には五回です。しかし、五回とも結果は一致しませんでした。」――地質学者フォネスカ
【アリスティデス】
なんて懐疑的な人なんだ。
(……)
「まさか、あなたは聖書を信じていないのですか。」――教皇ヨハネ・パウロ10世
「信じています。しかし、聖書には歴史的事実と信仰に基づく記述、その両方が含まれていると考えています。」――アリスティデス
「詳しく説明してください。」――教皇ヨハネ・パウロ10世
「最後までお聞きください。聖書には大洪水が記されています。もしそれが実際の出来事であったなら、その時代は氷河期の終わりと重なる可能性があります。そして、私たちが発見した遺跡や碑文は、その時代を新たな視点から説明できるかもしれません。」――アリスティデス
沈黙。
(……)
沈黙こそが答えだった。
「アリスティデス教授のおっしゃる通りです。」――アミール
「では、世界の宗教はどう理解すべきなのでしょうか。」――ラビ・グラッジ
「それを決めるのは私ではありません。私の役目は、証拠から歴史を再構築することです。」――アリスティデス
「地質学的証拠が異なる年代を示しているという事実は、我々がまだ知らない真実の上に立っていることを意味します。」――地質学者フォネスカ
【アリスティデス】
(……)
まさにその通りだ。
(……)
皆を落ち着かせなければならない。
「この問題の深刻さをご理解いただくために、一点補足させてください。」――アリスティデス
「どうぞ、お話しください。」――イスラム教指導者
「まずはリー博士、お願いします。」――アリスティデス
「ありがとうございます。碑文の文字には、シュメールの粘土板やエジプト、マヤ、インカの文字と共通する特徴があります。しかし、その構造は明らかに異なります。私の結論では、これは地球外文明の文字です。」――文字学者リー
「では、私たち人類とは何なのでしょうか。」――教皇ヨハネ・パウロ10世
「それは、まだ答えの出ていない問いです。しかし一つだけ確かなことがあります。地球が生命を育む環境を持ち、月が地球環境の安定に重要な役割を果たしているからこそ、私たちは存在しています。」――アリスティデス
数時間後
「陪審員の皆様、最終的な結論が出ました。」――アキラ教授
(……)
ついに。
(……)
「収集されたすべてのデータを総合すると、結論は三つあります。
第一に、この鉱物は地球外起源であること。
第二に、この鉱物を作り出した知的文明が存在したこと。
そして第三に、碑文の内容と照合した結果、『アミール』と『ニビル』という二つの文明が実在した可能性は極めて高い、ということです。」――アキラ教授
「さらに、私の論理的な結論として申し上げます。そのような文明が存在する以上、宇宙には地球と同じように知的生命を育む条件を備えた惑星が、他にも存在すると考えるのが最も合理的です。」――アリスティデス
1月18日
世界首脳会議
【ルナ・ヤコフ】
(……)
大混乱だ。
(……)
誰もが議論している。
(……)
扉が開く。
(……)
静寂。
「皆さん、お聞きください。専門家会議では三つの結論に至りました。
第一に、その鉱物は太陽系のものではありません。
第二に、その碑文は知的生命体によって刻まれたものです。
第三に、宇宙には我々以外の高度な文明が存在し、さらに同様の文明が他にも存在する可能性があります。」――アリスティデス教授
「それだけで世界を変える理由になるのですか。」――ショーン・コロネ
「問題は生命が存在することではありません。その文明が、我々よりはるかに進んだ技術を持っているという事実です。」――アリスティデス
(……)
会議室が静まり返る。
「私が申し上げたいのは、この美しい地球と人類を未来へ残すため、今こそ世界が団結すべき時だということです。」――アリスティデス
「そのために、人類は二つの技術を同時に発展させなければなりません。一つは防衛技術。そしてもう一つは宇宙航行技術です。」――アリスティデス
「宇宙は極低温の世界です。生命を維持するには熱の制御が不可欠になります。」――アリスティデス
「つまり、防衛のために、今ある技術を総動員すべきということですか。」――各国代表
「はい。AI技術と熱制御技術を直ちに発展させ、宇宙空間だけでなく地球上でも生存と防衛を両立させる技術を確立すべきです。」――アリスティデス
「素晴らしい。二つの戦線を築くという発想ですね。」――シャン将軍
「一方は地球を守る。もう一方は人類の未来を守る。互いが互いの希望となるでしょう。」――シャン将軍
「さらに、もう一つ情報があります。世界中のピラミッドの配置を分析した結果、オリオン座の三ツ星が共通して示されています。私は、そこに知的生命が存在する可能性があると考えています。」――アリスティデス
「ならば、人類の一部をそこへ送りましょう。各先進国が宇宙船を建造し、未来を託すのです。」――アミール教授
【アリスティデス】
(……)
一つ、思いついた。
「この計画の名称は――『TECIARACL』です。」――アリスティデス
「具体的には、どのような技術ですか。」――各国代表
「人工知能と熱制御を融合した新たな技術です。」――アリスティデス
「AIは各乗組員専用に設計され、副操縦士として学習し、判断を補助します。」――ロビンソン・ゲルダー
「革命的な発想です。」――ロビンソン・ゲルダー




