人類の歴史を書き換えるサカロの碑文
2060年
人類は第三次世界大戦の真っただ中にあった。
イラク・エリドゥ遺跡
【アリスティデス】
(……)
もう二週間以上。
(……)
この場所を調査し続けている。
(……)
世界は戦争の渦中にあるのに。
(……)
人間の愚かなエゴのせいで。
「あれは……。」
「アミール、こっちへ来てくれ。」
「何も変わったものは見当たらないよ、アリスティデス。」――アミール
「違う。
この地形だけ不自然なんだ。
掘ってみてくれ。」――アリスティデス
(……)
間違いない。
(……)
ここには何かある。
「慎重に掘り進めてくれ。
絶対に壊さないように。」――アリスティデス
――二か月後――
「発掘深度八十メートル地点で未知の構造物を確認しました!」――発掘責任者
「アリスティデス先生、アミール先生!
こちらへ!」――作業員
「説明できない構造物が見つかりました!」
「……これは。」
「エリドゥ神殿だ。」――アミール
【アリスティデス】
(……)
私の知る限りでは。
(……)
神話ではセトが築いたとされている。
「降りられます。
内部へ入れます。」――発掘責任者
「行こう。」――アリスティデス
大阪
平和コンサート
「それでは、歌手の澤田ユイナさんをお迎えします。どうぞ大きな拍手でお迎えください。」――司会者
「皆さん、おはようございます。
この歌には、一つだけ願いがあります。
戦争が終わり、世界に再び平和が訪れることを願って歌います。」――澤田ユイナ
—ユイナ、愛してるよ!—観客
—私もみんなのことを愛しています。ありがとう!—澤田ユイナ
ドイツ
イデオロギー戦争の最前線
【ルナ・ヤコフ】
「ルナ中尉。」――上官
「はい。」――ルナ
「この戦争に終わりは見えない。
どちらの陣営も降伏する気はない。」――上官
(……)
選択肢は二つ。
(……)
このまま戦い続けるか。
(……)
それとも、東側諸国に支援を要請するか。
「東側諸国の反応は?」――ルナ
「現時点では参戦する意思はない。
平和を訴えるコンサートを開いているそうだ。」――上官
イラク
エリドゥ遺跡
【アリスティデス】
(……)
これは何だ。
(……)
この物質は地球上のどの鉱物とも一致しない。
「説明がつかない……。」
「どうした、アリスティデス?」――アミール教授
「この神殿の壁を構成している物質が、既知の元素と一致しない。」
「地球上の鉱物データベースと照合してみよう。それでも一致しなければ……。」――アミール
(……)
何かが刻まれている。
「研磨道具を持ってきてくれ。」
「慎重にな。」――アミール
(……)
これは……。
(……)
シュメール文字じゃない。
「何か分かるか?」――アミール
「幾何学模様と周期を示すような線ばかりだ。
まるで天体の運動を記録しているみたいだ。」――アリスティデス
(……)
これは軌道か。
(……)
いや……。
「教授、見てください。」
「ニビルは惑星ではない。」
「どういうことだ?」――アミール
「これは惑星の軌道じゃない。
巨大な人工天体……
いや、宇宙船の航路だ。」
(……)
共同研究者たちが息をのむ。
「解読できるのか?」――共同研究者
「まだ断片的だ。
だが、この碑文にはこう記されている。」
『はるか昔、二つの銀河種族が存在した。
一つは侵略を続ける帝国。
もう一つは、その支配から逃れた種族。』
「そんな……。
人類史そのものを書き換える内容じゃないか。」――アミール
(……)
もしこれが本物なら。
(……)
世界中の常識が覆る。
「だが、もっと重要な記述がある。」――アリスティデス
「何だ?」――共同研究者
「私のパターン解析では……
この碑文は、ニビルが2080年に太陽系へ到達すると予測している。」
(……)
慎重に分析する必要がある。
(……)
もしこれが本当なら――。
「碑文全体を撮影してくれ。」――アリスティデス
「はい。」――研究員
「アミール、科学者チーム全員を集めてくれ。」――アリスティデス
(……)
あり得ない。
(……)
調査キャンプ
「この文字体系は、地球上のいかなる言語とも一致しません。」――古代文字学者
「それだけではありません。
この鉱物も地球上には存在しない物質です。」――考古学者
【アリスティデス】
(……)
つまり。
(……)
ここに真実が刻まれている。
「解読を始めましょう。」――古代文字学者
「翻訳します。
『我々は脅威から逃れ、この星系へたどり着いた。
当時、この惑星の住民はまだ狩猟採集生活を送っていた。』」
「年代を推定できますか?」――アミール
「約紀元前一万三千年です。」――古代文字学者
「エリドゥ文明の成立時期とも一致します。」――考古学者
(……)
さらに別の記述があります。
「数千万年前、この星系へ到着した際、巨大生物が地上を支配していた。
我々は衝撃波兵器を使用し、その脅威を排除した。」
(……)
「待ってください……。」――アミール
「それは恐竜を指しているということですか?」――考古学者
「もしこの記録が事実なら……
恐竜を絶滅させた原因は小惑星ではない。」――アリスティデス
「彼らの兵器だったということになります。」
(……)
実に破壊的だ。
「この兵器を使用したのは、ニビル人だと記されています。」――古代文書分析官
「つまり……私たちは絶滅の危機にあるということか。」――考古学者
(……)
「もし、この兵器が数千万年前のものだとすれば……。
彼らは今では、はるかに進歩した兵器を持っているはずです。」――アミール
「まだ断定はできない。
しかし、一つだけ確かなことがある。」――アリスティデス
(……)
「ニビルの到達まで、あと二十年しかない。」
(……)
「アリスティデス教授。
この事実を全世界へ公表すべきです。」――アミール
「あなたほど論理的に説明できる人はいません。」
「公表すれば、世界は変わるでしょう。」――考古学者
(……)
それしかない。
(……)
戦争は終わる。
(……)
だが、それ以上の脅威が始まる。
エリドゥ遺跡
記者会見場
「皆さん、おはようございます。
エリドゥ遺跡より、アリスティデスです。」
大阪
第三回平和コンサート
「皆様、申し訳ありません。
緊急ニュースが入りました。」――司会者
【ユイナ】
(……)
何が起きたの?
(……)
私のコンサートが……
中止になった。
「本日、エリドゥ遺跡において、地球上には存在しない鉱物で作られた碑文を発見しました。」――アリスティデス
(……)
「碑文には、アミールとニビルという二つの星間文明について記されています。」
「アミールは人類文明の誕生を導いた種族。
ニビルは、銀河を侵略し続ける戦士種族です。」
「私たちの分析では、この碑文は本物である可能性が極めて高いと判断しています。」
ベルリン
統合作戦司令部
【ルナ・ヤコフ】
(……)
何を言っているんだ?
(……)
司令部の大型スクリーンを見る。
「さらに碑文には、こう記されています――。」
「ムスリム軍、ユダヤ軍、双方の司令部から声明が届きました。」――副官
「内容は?」――ルナ
「両軍とも、恒久的な停戦を宣言しました。」――副官
「各国の代表を招集しろ。
停戦協定に署名してもらう。」――ルナ
――一時間後――
「本日、ムスリム軍サファイ司令官、ユダヤ軍ヤヴェ司令官、そして各国代表は、恒久停戦協定に署名しました。」――報道官
大阪
【ユイナ】
「何が起きているの……。」
(……)
戦争が終わった。
(……)
それなのに。
(……)
誰も笑っていない。
(……)
誰も歓声を上げない。
(……)
人類は絶滅の瀬戸際に立たされているから。
エリドゥ遺跡
【アリスティデス】
(……)
残された道は一つ。
(……)
備えること。
(……)
あるいは――
(……)
私のパターン解析は、一つの答えを示している。
(……)
オリオン。




