第86話 客寄せパンダの仕事でも、沖縄出張最高じゃん。えっ、日帰りっすか!?
民自党総本部、福島副幹事長室。
呼び出しを受けたるる奈が扉を開けると、福島は書類の山に埋もれながら、いつも通りの不機嫌な顔を上げた。
「千道。急遽だが、近日中に沖縄へ行ってもらう」
「え、沖縄!?」
るる奈の顔が、瞬時にパアッと輝いた。
「マジで!? 海! シーサー! あと、何あったっけ?でも、やった。ウチ、沖縄行ったことないんだよね!」
「おいおい、浮かれるな。仕事だぞ!」
「仕事でも何でも、沖縄行けるなら万々歳なんですけど! で、何する仕事すか?」
「⋯⋯知事選に出馬している、無所属の谷岡候補の応援演説だ」
「応援演説?谷岡候補って、無所属っすよね?民自党と関係なくないですか?」
「そうだ」
「それなのに、なんでウチが応援演説行くんすか?」
福島は、うんざりしたようにため息をついた。
「それは、政治的判断というやつだ」
「せいじてきはんだん?」
「谷岡が知事になった方が、我が党にとって何かと都合が良い。彼は無所属だが、我が党の政策には比較的協力的だ。知事になれば、国の交付金配分や公共事業の調整で、こちらの意向を汲んでもらいやすくなる。逆に対立候補が当選すれば、地域振興策で何かと横槍を入れられる可能性が高い」
「あー、なるほど。持ちつ持たれつってやつっすね」
「共存共栄だ」
「同じことじゃん」
福島は、るる奈の指摘を無視して続けた。
「表向きは無所属候補への純粋な応援だが、実態としては党の思惑が絡んでいる。分かったら、余計な詮索はするな」
「うぃ、了解っす☆」
るる奈は素直に頷いた後、恐る恐る手を挙げた。
「あの、ところで福島副幹事長」
「今度は、何だ?」
「これって、もちろん仕事っすよね?」
「当然だ」
「じゃあ、経費、出ます⋯⋯よね?」
福島の顔が、みるみる苦々しく歪んだ。
「当然、出る」
「ホントっすか!?」
福島は、いかにもといった様子で続けた。
「後日、まとめて代田事務長代理に領収書を提出しろ。立て替えた分は、ちゃんと精算される」
「あと、もう一つ聞いていいっすか?」
「まだ、あるのか」
「なんでウチが応援演説なんすか?ウチ、演説とか、マジで喋るのヘタなんですけど」
福島は、あからさまに面倒くさそうな顔をした。
「はっきり言おう。お前の演説力など、最初から一切当てにしていない」
「ひどっ(泣)」
「二十五歳の若い女性議員というのは、それだけで若年層への訴求力がある。それに、応援団に紅一点がいる方が、集会の見栄えが良い。」
「つまり、若さと女子力の客寄せパンダってこと?」
「はっきり言えば、そうだ」
「まあ、それならウチ、納得かも」
「とにかく、余計なことは考えず、応援演説だけに集中しろ。分かったな」
「うぃ、了解っす☆」
福島は、さらに付け加えた。
「今回は特別に、御子神の同行を許可する」
「え、御子神さんも来てくれるの!?」
「無論、御子神の経費も党が持つ。 ただし⋯⋯」
福島の声が、一段と鋭くなった。
「御子神の言うことは、絶対に聞け。さもないと、経費は一切出さんと思え」
「り、了解っしょ。肝に銘じます」
るる奈は、神妙な顔で頷いた。
だが、部屋を出た瞬間、その顔は再び緩みきっていた。
(沖縄!初めての沖縄!ちゃっちゃと、応援演説終わらせて、沖縄観光っしょ!)
脳内では、青い海と白い砂浜と、シーサーの置物が、既にぐるぐると回転していた。
数日後、羽田空港。
早朝の出発ロビーは、いつも通りの喧騒に包まれていた。
るる奈は、御子神とともに、国内線出発カウンターの列に並んでいた。
「⋯⋯御子神さん」
「なんでしょうか、先生?」
「今回、ビジネスクラスは⋯⋯」
「ありません。国内線のエコノミークラスです」
「うっ」
るる奈の肩が、ガクリと落ちた。
(分かってた。分かってたけど⋯⋯)
脳裏に、フランス研修の記憶が蘇る。
優先レーンをスイスイ通り抜け、シャワー付きラウンジでクロワッサンを頬張り、フルフラットシートでシャンパンを傾けた、あの夢のような日々。
目の前にあるのは、一般乗客の長い列と、素朴な国内線用のチェックインカウンターだった。
「先生。手続き等は専用アプリで全て完結します。オンラインチェックインから、モバイル搭乗券も発行されます」
「それより、ウチ、フランスの時のこと思い出しちゃって、地味に凹むんだけど……」
「あの時が、特別だったのです。むしろ今回が、通常です」
「うっ、正論すぎて何も言えない」
保安検査場も、一般レーンに並んだ。
優先レーンなど、当然存在しない。
スーツケースをトレイに乗せ、ジャケットを脱ぎ、ベルトを外し、靴を脱ぐ。
順番待ちの列の中で、るる奈は小さくぼやいた。
「フランスの時は、靴も脱がなくてよかったのに」
「先生、後ろがつかえています」
「⋯⋯はーい」
搭乗口付近の待合スペースには、木目調の落ち着いた空間も、シャワー室も、シャンパンも存在しなかった。
あるのは、無機質なプラスチック製の椅子と、自動販売機、そして小さな売店だけだった。
「御子神さん、ここ、ラウンジは⋯⋯」
「ありません」
「あの、軽食とかも⋯⋯」
「ありません」
「せめて、コーヒーくらいは⋯⋯」
「あちらの自動販売機で、ご自身でお買い求めください」
「⋯⋯実質、有料じゃん」
るる奈は、財布から小銭を取り出しながら、小さくため息をついた。
しばらくして、搭乗案内のアナウンスが流れると、乗客たちは一斉に列を作り始めた。
優先搭乗も、特別な案内も、当然ない。
るる奈は、御子神とともに一般乗客の列の中に紛れ込むようにして、機内へと進んでいった。
機内に足を踏み入れた瞬間、るる奈は思わず、フランス研修の記憶と目の前の現実を、無意識に比較してしまった。
半個室のシートも、フルフラットのベッドも、大型モニターも、そこにはなかった。
あったのは、横並びの三席シートと、前の座席の背もたれに設置された小さなポケット、そして機内誌だけだった。
「せ、狭い!」
自分の座席に腰を下ろした瞬間、るる奈は思わず声を漏らした。
隣に座った御子神が、静かに指摘する。
「先生、国内線としては標準的な広さです」
「分かってるって。でも、フランスの時のシート、もう少し広かったんだよね」
「その通りです。今回が普通で、あちらが特別でした」
「もう、それ、何回も言わなくていいから」
機内食は、当然のように出なかった。
三時間弱のフライトでは、簡易的な飲み物のサービスがある程度だった。
客室乗務員が、小さなカートを押しながら通路を回ってくる。
「お飲み物は、いかがですか」
「あ、じゃあ、オレンジジュースで」
紙コップに注がれたオレンジジュースを受け取りながら、るる奈は小さく呟いた。
「ウィルカムドリンクも無いんだ」
「先生、そろそろ、その比較はやめてください」
窓の外には、青い空と、遥か下に広がる雲海が見えた。
るる奈は、御子神に渡された資料の束を、渋々開いた。
表紙には『谷岡候補・沖縄県知事選挙 応援演説スケジュール及び演説内容確認書』と、書かれている。
「うわ、また機内で資料か⋯⋯」
ページをめくると、谷岡候補の政策概要、これまでの経歴、演説予定日時、会場の詳細地図、想定される聴衆の年齢層と関心事、そして、るる奈自身が話すべき内容の草案まで、びっしりと書き込まれていた。
「御子神さん、これ、全部読むやつ?」
「はい。フランス研修の時と、同様です」
「うわ、これがデジャ・ブ(既視感)か」
るる奈は、フランス行きの機内で紫村と一緒に資料を読み込んだ、あの十二時間フライトの記憶を思い出し、思わず遠い目をした。
(あの時は、資料は重かったけど、シートはふかふかだったんだよね。今回は、資料は軽いのに、シートが硬い⋯⋯)
「先生、集中してください」
「うぃ」
るる奈は、渋々ページをめくりながら、谷岡候補の経歴や政策を、一行ずつ確認していった。
御子神は、隣で丁寧に、時折解説を加えながら、るる奈の理解を助けていく。
3時間弱のフライトの内、1時間は資料の読み込み、残りの2時間は現実逃避の居眠りで、るる奈は時を過ごしていった。
那覇空港に着いたるる奈は、機体の扉が開いた瞬間、湿り気を帯びた温かい風を頬が感じた。
「⋯⋯あっ」
那覇空港のボーディングブリッジを渡りながら、るる奈は思わず声を漏らした。
東京とは明らかに違う、粘りのある湿度と、強い日差し。
窓の外には、青々とした空と、遠くに見える山の緑が広がっている。
「⋯⋯なんか、空気の匂いが違う」
「亜熱帯気候ですので」
「そういうやつじゃなくて⋯⋯、でも、なんか良く分からないけど、不思議な気分って感じ」
到着ロビーへと進むと、そこには東京の空港とはまた違った、独特の雰囲気が漂っていた。
天井から吊るされたシーサーの装飾、壁面に描かれた紅型模様、そして、島唄をアレンジしたBGMが、控えめに流れている。
土産物店の店先には、紅芋タルトやちんすこう、泡盛のミニボトルがずらりと並んでいた。
「うわ、めっちゃ沖縄感すごい!シーサーだ!紅芋タルトだ!修学旅行生みたいな団体もいるし」
るる奈は、思わずスマホを取り出しかけたが、御子神の視線に気づいて慌てて手を止めた。
「写真、まだダメ?」
「仕事中です」
「⋯⋯うっ、分かってる」
手荷物受取所でスーツケースを受け取り、到着ロビーへと歩き出すと、空港の外から、じりじりと肌を焼くような強い日差しが差し込んでいるのが見えた。
ガラス張りの向こうには、ヤシの木らしき街路樹が、緩やかな海風に揺れている。
「ウチ、今、本当に沖縄にいるんだ」
るる奈は、思わずしみじみと呟いた。
フランスの時のような、非現実的なきらびやかさはない。
だが、じんわりと肌に伝わってくる南国特有の空気の温度が、ここは日本の中でも特別な場所なのだということを、るる奈に実感させていた。
「先生、感傷に浸るのは結構ですが⋯⋯」
御子神が、腕時計にちらりと目をやりながら言った。
「谷岡候補の事務所へのアポイントは、正午前です。移動時間を考えると、そろそろ出発しませんと」
「あ、はーい」
るる奈は、慌ててスーツケースを引きながら、御子神の後を追った。
空港の外では、レンタカー会社の看板と、タクシー乗り場の列、そして、独特の抑揚を持つ沖縄方言混じりの案内アナウンスが、るる奈たちを迎えていた。
(さて、谷岡候補の事務所、どんな感じかな。ていうか、歓迎されなかったらどうしよう)
那覇の強い日差しの中を、るる奈と御子神を乗せたタクシーは、静かに走り出した。
車窓を流れる青い空と、遠くに見える海の色だけは、フランスのどんな豪華な景色にも負けないくらい、確かに美しかった。
那覇市内にある谷岡候補の選挙事務所は、繁華街から少し外れた雑居ビルの一角にあった。
入り口には、『谷岡たかし』の大きなポスターがお出迎え。
るる奈が御子神とともにドアを開けると、中から一斉に、明るい歓声が上がった。
「わー!本当に来てくれた!千道先生ですよね!」
「うわ、こんな遠くまでありがとうございます!」
「みんな、若い先生が来てくれたよ〜!」
地元のボランティアスタッフや、谷岡候補本人までもが、るる奈を出迎えるために事務所の入り口に集まっていた。
(うわ、めっちゃ歓迎されてる……!)
るる奈は、内心でほっと胸を撫で下ろした。
(正直、ウチ、二十五歳の元ニートとかいう肩書きで、迷惑がられるんじゃないかって、ちょっと不安だったのに……)
「初めまして、谷岡です!本日は、東京から遠路はるばる、本当にありがとうございます!」
谷岡候補は、五十代後半とおぼしき、日焼けした温厚そうな男性だった。
地元で長年、建設会社を経営してきたという経歴通り、がっしりとした体格に、人懐っこい笑顔を浮かべている。
「千道るる奈です!今回は、よろしくお願いします!」
るる奈が元気よく頭を下げると、事務所内の空気が、さらに明るくなった。
「いやあ、正直、助かりましたよ」
谷岡候補が、しみじみとした様子で言った。
「うちの陣営、おじさんばっかりでね。若い、しかも女性の先生に来てもらえるだけで、事務所の雰囲気がパッと華やぐんですよ」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、よかったです」
るる奈は、少し照れくさそうに笑った。
「千道先生には、同世代の若い方や、女性の有権者さんに、アピールしてもらえるとありがたいんです」
谷岡候補の妻であり、陣営の実務を取り仕切っているという女性が、そう付け加えた。
「はい、任せてください!」
るる奈は、快く頷いた。
(ウチ、正直、政策とか難しいことは全然分かんないけど……。同世代に声かけるのとか、若い子に話しかけるのとかなら、なんとかなるっしょ)
午後、るる奈は那覇市内で行われる街頭演説と、チラシ配りの手伝いに向かった。
事前に、御子神から徹底的に叩き込まれた応援演説の内容は、当たり障りのない、ごくシンプルなものだった。
「谷岡候補は、この沖縄で長年、地域の発展のために尽力されてきた方です!その実行力とリーダーシップに、ぜひご注目ください!」
るる奈は、原稿通りの言葉を、明るくハキハキとした声で読み上げた。
演説の合間、るる奈の目がはいるギリギリの範囲で、御子神がレフリーのような視線で見守っていた。
(粗相しないように、マジで気をつけないと……)
るる奈は、内心で緊張しながらも、なんとか無難に演説を終えた。
続いて、チラシ配りが始まる。
「谷岡たかしを、よろしくお願いします!」
るる奈が、通行人に向かって元気よくチラシを差し出す。
最初は、若い女性や、同世代の男女がちらほらと受け取ってくれた。
「わー、若い女性のボランティアさんだ。頑張ってください」
「え、わざわざ東京から応援に?凄いですね」
若年層からの反応は、上々だった。
だが、意外にも――。
「おお、お嬢さん。こんな暑い中ご苦労さん」
初老の男性が、にこにこしながら、るる奈からチラシを受け取っていく。
「若い子が頑張ってるとねぇ、応援したくなるさぁ」
「あら、可愛らしいわねぇ」
なぜか高齢の男性たちからも、次々と好意的な反応が返ってきた。
(……あれ? なんかウチ、おじいちゃんたちにも、めっちゃウケてる?)
るる奈は、少し戸惑いながらも、これも谷岡さんの票になるならと、その状況を素直に受け止めた。
「あの、谷岡さんの事も、よろしくお願いしますね!」
るる奈がそう声をかけると、高齢男性の一人が、にこやかに返した。
「うんうん、頑張ってね、スタッフのお嬢さん」
「……え?」
るる奈は、思わず固まった。
(スタッフ……? もしかして、ウチのこと)
別の通行人にも、同じように話しかけられる。
「ボランティアの方?ご苦労様です」
「……あ、はい。頑張ります」
るる奈は、笑顔を保ちながらも、内心で密かにショックを受けていた。
(……ウチ、一応国会議員なのに。誰も、そう思ってないんだ)
考えてみれば、当然のことだった。
地盤も看板もない、東京の比例単独議員。
沖縄の有権者にとって、るる奈は単なる元気な若手ボランティアにしか見えないのだろう。
(……ていうか、ウチSNSで何回か炎上した事あるのに、みんな覚えていないか、忘れているのか、案外リアルじゃその程度なのかな)
るる奈は、その疑問をそれ以上に気にすることなく、気を取り直してチラシを配り続けた。
炎天下の中、汗だくになりながらも、笑顔を絶やさず、一枚一枚丁寧に手渡していく。
その様子を、少し離れた場所から見ていた御子神が、静かに近づいてきた。
「先生」
「なに?」
「今日の応援演説、そしてチラシ配り、大変よくやっていただきました」
「……え、褒めてくれるの?」
「はい。粗相なく、谷岡候補の印象を高めることに、十分貢献されたと思います」
その言葉に、るる奈は少しだけ表情を明るくした。
「まあ、ウチ、ネットで炎上ギャル議員って言わてても、リアルじゃこんなもんだしね。スタッフさんと間違われても、しゃーないっしょ」
「先生の真心は、ちゃんと有権者たちに届いていますよ。自信を持ってくださいませ」
御子神は、るる奈の純真な心掛けに、素直に敬意を払った。
午後四時過ぎ、選挙応援活動が一段落した事務所内で、谷岡候補と陣営スタッフ一同から、丁重な感謝の言葉が贈られた。
「千道先生、本当にありがとうございました!」
「先生のおかげで、事務所の雰囲気も、演説会の集客も、全然違いました!」
「あ、ウチ、そんな大したことしてないですけど……。それじゃあ、谷岡さん、皆さん、今後も頑張ってください!」
るる奈は、照れくさそうに手を振りながら、事務所を後にした。
外に出た瞬間、るる奈は思わず声を弾ませた。
「仕事、終わり。じゃあ、少し観光しよっか!」
「先生」
御子神が、すかさず静かに割って入った。
「本日は、最終便で東京に戻る予定です。空港までの移動時間を考えますと、自由に使える時間は、2〜3時間程度が限度です」
「えっ!?たった2、3時間!?」
「はい。もし最終便に乗り遅れれば、福島副幹事長の逆鱗に触れることになります。その場合、今回の出張費用は全額、先生の自腹となる可能性が高いです」
「……ぜ、絶対に乗り遅れるわけにはいかない、ってことね」
るる奈は、瞬時に表情を引き締めた。
「分かった。今回は国際通りだけを、ちゃちゃっと回る!」
こうして、るる奈と御子神は、タクシーで那覇市内随一の繁華街、国際通りへと向かった。
国際通りに降り立った瞬間、るる奈は目を輝かせた。
道の両側にずらりと並ぶ、色鮮やかな土産物店。
シーサーの置物、琉球ガラスのグラス、紅型模様の小物入れ。
どこからともなく、三線の陽気な音色が聞こえてくる。
空気には、サーターアンダギーの甘い香りと、じりじりと照りつける南国の熱気が入り混じっていた。
「うわ、テレビで見たまんまじゃん!これぞ、まさしく、ザ・沖縄って感じ」
るる奈は、思わず声を上げた。
「先生、時間がありません。効率よく回りましょう」
「わ、分かってるって!」
るる奈は、まず近くの土産物店に駆け込んだ。
雪塩ちんすこう。
元祖紅いもタルト。
琉球石鹸。
琉球びんがたのコースター。
琉球漆器の箸。
かりゆしウェアなど、両親や妹りり華へのお土産の目処はついた。
そして、兄しし男には、さんぴん茶のペットボトルをチョイスした。
るる奈は、大量のお土産を、レジへと運んでいった。
会計を済ませたるる奈は、店の外に出ると、通り沿いの屋台で売られていたブルーシールアイスクリームに目を留めた。
「あ、これ食べたいかも!」
「先生、取り敢えず食べる時間はありそうですが」
「歩きながら食べるから大丈夫しょ!」
(国会議員とあろう者が食べ歩きとは……)
御子神のため息をよそに、るる奈は紫芋味のアイスクリームを頬張りながら、賑やかな国際通りの景色を、名残惜しそうに見渡した。
「……もっと、ゆっくり見て回りたかったなあ」
ぽつりと呟いたその声には、少しの未練が滲んでいた。
「機会があれば、また訪れることもできるでしょう」
御子神が、珍しく柔らかい口調でそう言った。
「うん……。今度は、プライベートで家族も連れて、ちゃんと来たい」
るる奈は、アイスクリームを食べ終えると、御子神とともにタクシーに乗り込んだ。
那覇空港へと向かう車窓から、夕暮れに染まり始めた沖縄の街並みを、るる奈はじっと見つめていた。
わずか半日ほどの、慌ただしい沖縄滞在。
国会議員としては、スタッフやボランティアと間違われる程度の、地味な貢献しかできなかったかもしれない。
それでも、るる奈の手には、家族への土産と、小さな満足感がしっかりと残っていた。
「……また、来られるといいな」
るる奈は、窓の外に流れる景色に向かって、そっと呟いた。




