第78話 【自衛隊激励編】自衛隊激励!! ギャルのアゲアゲパワーで喜んでもらえそうっしょ!
議員会館の自室、るる奈はスマホでニュースアプリをスクロールしながら、思わず身を乗り出した。
画面に映っていたのは、迷彩服姿の隊員たちを前に凛とした表情で敬礼を返す、水谷防衛大臣の姿だった。
鷹町総理と、かつて総裁選を争ったこともあるという、四十五歳の実力派議員。
テレビで見るたびに、その端正なルックスと堂々とした佇まいが妙に印象に残る、スター性のある人物だった。
「うわ、これカッコよくない!?」
るる奈は思わずソファーから身を乗り出し、隣で書類を整理していた御子神たちに、その画面を突き出した。
「見て見て!水谷大臣が自衛隊の激励に行ってるやつ!ウチもこういうの、やってみたいんだけど!」
「……先生が、自衛隊の激励ですか」
御子神が、静かに眉をひそめる。
「うん!だってさ、隊員さんたちってめちゃくちゃ大変な訓練してるわけじゃん?そこに、ウチみたいなギャルが『みんな、いつもお疲れ様っしょ!ファイトー!』って言いに行ったら、絶対テンション上がるって!アゲアゲの応援って、需要あると思うんだけど!」
丸目が、思わず苦笑いを浮かべた。
「先生。そのノリで行くと、逆効果になる可能性もありますよ」
「え、なんで!?」
「隊員の皆さんは、日々規律と真剣さの中で任務にあたっています。もちろん激励は喜ばれますが、その場に相応しい振る舞いというものがあります」
御子神が、ここぞとばかりにいつもの鉄仮面で釘を刺す。
「率直に申し上げます。先生の『チヤホヤされたい』という動機が透けて見えるようでは、隊員の方々にも失礼ですし、党としても看過できません」
「べ、別にチヤホヤされたいとかじゃ……」
るる奈は言葉を濁したが、その目は完全に泳いでいた。
(正直言うと、ちょっとだけカッコいい隊員さんたちにキャーキャー言われたいなーとか思ってたっしょ……)
「先生」
丸目が、優しくフォローを入れる。
「気持ち自体は、決して悪いものではないと思いますよ。純粋な激励の気持ちがあるなら、それは大切にすべきです。ただ、伝え方や場の設定をもう少し工夫する必要があるかと」
「そう、それそれ!丸目さん、優しい!」
そこで、竹中がこれまで黙って話を聞いていたが、静かに手を挙げた。
「先生。一つ、ご提案があります」
「なになに?」
「どうせ激励に行かれるなら、女性自衛官の方々を対象にしてはいかがでしょうか」
「……女性自衛官?」
「はい。自衛隊には、陸海空それぞれに多くの女性隊員が在籍しています。近年、女性の活躍推進が政策課題としても掲げられている中で、先生のような同性の新人議員が女性隊員の方々を激励に訪れるというのは、意義のある取り組みになると思います」
その提案に、るる奈の目がパッと輝いた。
「それ、ナイスアイデアじゃん!女性隊員さんたちなら、なんか同じ女子として、親近感持ってもらえそう!」
「はい。ですので、内容も『アゲアゲの応援』というより、『同じ女性として、現場の話を伺い、励ます』という形にすれば、先方にも先生にも無理のない訪問になるかと」
「わかった!それでいく!」
るる奈は、勢いよく頷いた。
しかし、御子神がすかさず現実的な話に切り替える。
「先生、女性自衛官の方々の激励に行くにしても、まず必要な手順があります」
「え、なに?行きたいって言えばすぐ行けるんじゃないの?」
「そんなわけがありません」
御子神は、静かに断固として言い切った。
「まず、防衛省への一報と了承が必要です。そして自衛隊の施設への訪問には、党としての根回しと正式なアポイントが不可欠です」
「あ、そっか……。じゃあ、防衛省に連絡してくれるってこと?」
「……仕方ありません。私の方で調整いたします」
御子神は、やや呆れながらもいつも通りの淡々とした様子で、その場でタブレットを取り出し手続きを進め始めた。
数日後――。
「先生、防衛省より、一報がありました」
御子神が、タブレットを片手に報告した。
「ただし、『改めて、折り返しご連絡いたします』とのことです。まだ、確定ではありません」
「え、なにそれ?じらされてるってこと?」
「先方にも、調整すべき事項があるのでしょう。 今しばらく、お待ちください」
「うぃ……」
るる奈は、少し不満げに頬を膨らませたが、それ以上は何も言わなかった。
そして、さらに数日後――。
「先生、防衛省より正式な返答がありました」
御子神の声に、るる奈は勢いよく顔を上げた。
「どうだった!?」
「『視察激励が可能かどうかは、当日ご来省いただいた上で、内容次第で判断する』とのことです」
「……それ、来てみないと分からないってこと?」
「はい。正式な視察としてお迎えできるかどうかは先方の判断次第、ということになります」
「うわ、シビアじゃん……」
るる奈は、思わず苦笑いを浮かべた。
「まあ、いいや。とにかく、行けば分かるってことでしょ?丸目さん、当日の運転お願いしていい?」
「はい、僕がお供します」
丸目が、いつもの爽やかな笑顔で頷いた。
こうして、約束の日――。
るる奈は、丸目の運転する車に乗り込み、防衛省へと向かった。
車窓を流れる永田町の景色を眺めながら、るる奈は、少しだけ緊張した面持ちで呟いた。
「……今回は、ちゃんとまともな議員っぽいことするから」
「期待していますよ、先生」
丸目が、温かく答えた。
車は防衛省へと向かって、静かに走り続けた。




