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第43話 【フランス研修編】パリからLINE送ってみたけど、日本が真夜中って完全に忘れてたわ ……

「人生って、マジでバグってる」


 その言葉だけが、パリの夕暮れの風の中に、静かに溶けていった。

 しばらく、オレンジ色から深い紫へと移り変わる空を眺めていたるる奈だったが、ふと思い出したように振り返り、部屋の中にいる紫村に声をかけた。


「……あの、紫村さん」


「はい、何でしょうか?」


 紫村は、ベッドの脇にスーツケースを置き、荷解きの準備をしながら顔を上げた。


「ウチ、実家の親とかにLINEで連絡取っても大丈夫かな? ほら、一応『無事にフランス着いたよー』的な、安否確認的なLINEをさ」


 るる奈は少し遠慮がちに、自分のスマートフォンをいじりながら尋ねた。

 一応は公務の視察だ。ギャルとはいえ、情報漏洩だの何だのと怒られるのは勘弁だった。


「できたらさ、このバルコニーから見えるエッフェル塔をバックに、ウチの画像も一緒に送りたいなー、なんて思ったりして……」


 紫村は小さく微笑み、眼鏡のブリッジをそっと押し上げた。


「あくまでご家族への無事到着されたというご報告内容程度でしたら、常識の範囲内ですし、全く問題ありませんよ。行程の詳細や、他国の大臣などの機密に関わる写真でなければ大丈夫です」


「マジ!? やったわ!」


 るる奈はパッと表情を輝かせると、バルコニーから室内に滑り込むように戻り、紫村に自分のスマホを突き出した。


「じゃあさ、紫村さん! ウチのスマホで画像撮ってよ! エッフェル塔が綺麗に入る感じで!」


「ふふ、お安い御用です。では、バルコニーへどうぞ」


 スマホを受け取った紫村に促され、るる奈は再び夕風の吹くバルコニーへ。

 エッフェル塔を背に、手すりに軽く寄りかかりながら、完璧な角度でピースサインを作った。

 銀髪が夕日に透けて、どこか非現実的な美しさを醸し出す。


 カシャ、と上品なシャッター音が響いた。


「確認してください。綺麗に撮れましたよ」


「おー、最高! 紫村さん天才じゃん!」


 画面を覗き込んだるる奈は満足そうに声を上げると、慣れた手つきで家族のライングループに画像を添付し、『パリ着いた!ホテルやばい!』と一言添えて即座に送信した。


 既読がつくのを今か今かと待ち構えるるる奈を見て、紫村が少し困ったように時計に目を落とした。


「……千道先生。現在の日本時間は、全くの深夜ですよ」


「あ……」


「ですので、お返事はまず遅れるかと思います。皆さん、さすがに眠っていらっしゃるでしょうから」


 紫村の冷静な指摘に、るる奈はあからさまに肩を落とした。時差という概念を、完全に忘れていたのだ。


「あー……そっか。日本、真夜中じゃん……。あーあ、せっかくのパリなのに、時差マジだるいわー……」


 少しがっかりした様子で唇を尖らせたるる奈だったが、「ま、いっか! 寝てんなら仕方ないし!」とすぐに気持ちを切り替えた。


 そしてスマホをサイドテーブルに放り出すと、そのまま、部屋の中央にあるふかふかのキングサイズベッドへと豪快にダイブした。


「んあー! ベッド最高すぎる! ウチ、もう一歩も動けなーい!」


 白いシーツに顔を埋めてもがくギャル議員の姿に、紫村は呆れつつも、どこか楽しそうにクスクスと笑うのだった。

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