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第33話 ウチでも法律変えられるなら、日本もまだ捨てたもんじゃなくね?☆

「一期の比例単独ギャルが、選挙制度の根幹に長ネイルで土足で踏み込むとは、言語道断だ! 記者会見で勝手に大バズりしたツケを、ここで全部清算するつもりか!?」


「若者の政治参入とか、ポーズだけの耳障りの良い言葉を部会に持ち込むな!」


 民自党の選挙制度調査会PT。部屋を埋め尽くすベテラン族議員たちから、るる奈に向けて、怒号と冷笑が容赦なく浴びせられていた。

 だが、るる奈は表情一つ変えず、毒々しいピンクの長ネイルで、スマホのメモ帳に「おっさん、ハゲ、声デカい、だるい」と猛スピードで打ち込み続けていた。


 理不尽にキレ散らかすクレーマーのじいちゃん議員たちなど、地獄の闇金から生還したるる奈が習得した『プロニートのメンタル防御力』が、永田町の最高意思決定の場で静かに、そして完璧に無双していた。

 じいちゃん議員たちが怒鳴ってる間は、とりあえず神妙な顔をして、1ミリも話を聞かずに嵐が過ぎるのを待つ。これがるる奈の黄金律だった。


 十分以上、徹底的におじいちゃん議員たちから叩かれ、部屋の空気が「これでギャルも泣き出すだろ」と満足感に包まれたところで、るる奈はゆっくりと品よく小首を傾げて頭を下げた。


「皆様のガチなご指摘、マジ痛み入りまーす☆ 確かにウチ、バカだから理想論が過ぎちゃいました。マジさーせん!」


 るる奈の「秒での全面降伏の演技」に、おじいちゃん議員たちの承認欲求が満たされ、空気がわずかに和らいだ。

 その瞬間を見計らって、るる奈は竹中と御子神に持たされた本命の極厚資料を、テーブルの上にスッと滑らせた。


「そこでぇ、現実的な第一ステップとして、こちらの『ワンチャン案』を提案いたしまーす。現行、供託金没収の基準は有効投票総数の10分の1未満となっております。これを『5%未満』に引き下げる案です。でも、重複立候補者の足切りライン、有効投票総数の10%未満は据え置きッス☆ これにより、比例復活を狙った保険的立候補を一定程度抑制しつつ、ウチみたいな貧乏若者の供託金の壁を下げることが可能になると考えまーす!」


 会場が、水を打ったように静まり返った。るる奈はいつものギャル語で喋っているが、竹中と二人で夜遅くまで自室に残ってして作り上げた資料は、数字とロジックに裏打ちされた特大の爆弾だった。

 感情論は一切ない。

『諸外国の供託金制度比較』

『過去十五年の没収事例の統計分析』

『財政試算』

『想定される泡沫候補増加数のシミュレーション』

『最高裁判例との整合性』など、完璧だった。


 ニートギャルの口から、永田町のトップ官僚すら真っ青になるレベルの高度なデータ政治学が、スラスラと飛び出してきたのだ。

 ある強面のベテラン議員が、手元の資料をめくりながら、ぽつりと呟いた。


「……おい、これ……少なからず検討する価値があるぞ。ただのバカかと思ったら、背後のロジックが完璧だ」


 長谷川調査会長も、眼鏡を直しながら、渋々ながらも深く頷いた。


「5%案か。10%を半分にというのは大胆だが、比例復活当選の基準は据え置きでバランスを取っている……悪くない。青年局主導のプロジェクト案として、さらに精査を進めよう。関係部会とも連携する」


 るる奈は内心で(よっしゃ!! 竹中おじさんマジ神!! ウチ天才!!)とガッツポーズを決めながら、満面のギャルスマイルで深く頭を下げた。


「ありがとうございます! 今後も、ご指導のほど、よろしくお願いいたしまーす☆」


 政調審議会(政審)から総務会、そして閣議決定まで、るる奈のぶち上げた「供託金改革」は驚くほどトントン拍子で進んだ。

 だが、そこに「千道るる奈」というギャルの影はどこにもなかった。すべては、民自党青年局主導・選挙制度改革プロジェクトとして、党の公式看板に綺麗に塗り替えられていた。


 まず政調審議会。党の政策決定の要であるこの場で、総務部会長が自ら資料を手に説明に立った。


「供託金の没収基準を有効投票総数の10%から5%へ引き下げる。だが、比例復活当選の基準は据え置き。これにより、若者や非正規層の立候補障壁を下げつつ、泡沫候補の乱立も抑制するバランス型改革である」


 出席した政調副会長の一人が、苦笑しながら言った。


「例の記者会見で大炎上して火をつけた、あのギャル議員の名前は出さん方がいいな」


「そうですね。党の品位に関わります」


 ドッと笑いが起き、いくつかのダメ出しはあったものの、全体として党の「若者受けを狙ったイメージ戦略」として大いにアリという空気が支配した。


 わずか二回の審議で、政審はあっさりと了承した。


 最大の山場は総務会だった。党の最高意思決定機関であり、全会一致が慣例とされる最終関門である。ここに党の重鎮、派閥の領袖、ベテラン幹事らがずらりと不機嫌そうな顔で揃っていた。


 会議室の空気は張りつめていた。長谷川政調会長が提案理由を読み上げ、質疑に入ると、すぐに厳しい声が飛んだ。


「若者対策の名を借りて、選挙の質を落とすつもりか? そもそも、あのニート上がりのギャルが発端の法案など、言語道断だ!」


 しかし、ここで事前に、るる奈の手柄強奪ルートの根回しを済ませていた福島副幹事長が、珍しく穏やかな口調で割って入った。


「諸君、この案は党として若者の政治参加を推進するという『鷹町総理(総裁)』のご指示に沿ったものだ。SNSでの世論の反応も悪くない。5%という数字は、諸外国の事例や過去の判例とも完璧に整合性が取れている」


 福島は計算し尽くしたタイミングで「総理の指示」という絶対のパワーワードを使った。さらに、竹中が作ったガチガチの統計データが重鎮たちの反論の余地を完全に塞いだ。

 抵抗していた数人の重鎮たちが、渋々引き下がった。結局、異論は出たものの、最終的に全会一致で了承された。

 総務会終了後、福島は副幹事長室に戻り、デスクの椅子に深く腰掛け、独り小さく鼻を鳴らした。


(……千道の火種を、完全に党の成果に変えてやった。あのニートギャルは自分の名前が消えて今頃泣き崩れているだろうが、政治の世界はこういうものだ。手柄はすべて、俺の物として内閣に並べる……)



——その頃、千道るる奈事務所。るる奈はソファにひっくり返り、ポテトチップスを口に放り込みながら、スマホの前で大歓声を上げていた。


「マジで!? ウチの名前、法案からマジで1文字も無くなったの!? きたこれ超ハッピーーー!!☆」


 丸目が呆然と口を開け、竹中が眼鏡を直しながら苦笑した。


「先生、普通は自分の手柄を党の他の議員達に強奪されたら、悔しくて枕を涙で濡らす場面ですよ?」


「はあ!? 何言ってんの丸目さん! 名前が出ないってことはさ、もしこの後この法律で大失敗して大炎上しても、ウチのせいにならないじゃん! 責任ゼロ! しかもめんどくさい国会答弁とか、全部党の偉いおじさん達が代わりにマイク持って喋ってくれるんでしょ? 最高のコスパじゃん、福島のおじさんマジでウチのパシリかよwww」


 御子神は静かに温かいお茶をすすると、窓の外の国会議事堂を見つめた。


(福島副幹事長……あなたは手柄を奪ったつもりでしょうが、この先生は『責任だけを押し付けてサボれる』と大喜びしていますよ……。やはり、最悪に厄介な先生だ……)


 千道るる奈、25歳。永田町の最高権力者たちが血で血を洗う「手柄の奪い合い」すらも、「動かずに得をしたい」というプロニートマインドで120%ご褒美に変換しながら、彼女の綱渡り政界サバイバルは、誰も追いつけない狂気のお気楽モードへと突入していく。

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― 新着の感想 ―
拝読いたしました。 ギャル×ニート×政治という、今まで見たことのないテーマで、最後まで楽しく読むことができました。 一番の魅力は、るる奈のキャラがブレないことではないでしょうか。 普通なら、序盤で…
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