表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/48

第29話 ギャル議員、初めて政治を知る。ルール変えられるのは先生だけとか急に重すぎっしょ

 議員会館・千道るる奈事務所。窓の外には不夜城・霞が関のビル群が広がり、その中心に国会議事堂が鎮座している。

 るる奈はソファにだらしなく寝そべり、ポテトチップスを齧りながら、目の前に立つ秘書3人を睨みつけていた。


「……で、あの子ども食堂代表の人が言ってた『金がねぇ』ってやつ。どこに言えばいいわけ? 財務省? それとも総理大臣?」


 御子神が冷たく眼鏡を押し上げた。


「担当は『家庭子育て庁』です。令和5年に、子ども政策の司令塔として創設された新しい庁です」


「かていこそだてちょー……。そこがちゃんとお金渡せば解決じゃん。ウチ、そこに電凸(電話突撃)して文句言ってやるわ。『ガキが腹減ってるっつってんだろ、ちゃんと仕事しろ!』って」


 丸目が慌てて手を振った。


「先生、電凸はダメです! 炎上しますから!」


 竹中が苦笑しながら、分厚い資料をテーブルに置いた。


「先生、文句を言うだけなら誰でもできます。ですが先生には、もっと強力な『権利』があるんですよ。……家庭子育て庁の官僚をここに呼び出し、直接レクチャー(説明)をさせ、問い詰める権利がね」


 るる奈はポテチを口に運ぶ手を止めた。


「は? ウチが? あの、テレビで見る頭良さそうな官僚を? ……呼べるの? マジで?」


「先生は与党の国会議員です」


 御子神が淡々と言った。


「依頼すれば、彼らは資料を揃えて飛んできます。それが国会議員の『基本』ですよ。議員研修で伝えたはずですが?」


「あはは、覚えている訳ないじゃん! ウチ、その時は、ただの枠埋め要員だって福島のおじさんに言われたし!」


 るる奈は困惑した。だが、自分が「呼べる側」だという事実に、背筋が少しだけゾクりとした。



 三日後。議員会館の自室には、家庭子育て庁支援局の課長補佐・中村と係長の高橋が、緊張した面持ちで座っていた。向かいには、気合を入れて(といっても少し派手な)スーツを着たるる奈と、補佐役の竹中。


 中村補佐が、タブレットを操作しながら説明を始めた。


「千道先生、本日は子どもの貧困対策についてご説明します。現在、家庭子育て庁では『こども大綱』に基づき、教育、生活、就労、経済の四本柱で支援を行っております……」


「ストップ」


 るる奈が、中村の言葉を遮った。


「難しい言葉はいいから。ウチが知りたいのは一点だけ。なんであの子ども食堂、潰れそうなわけ? 貧困率は下がってるとか言ってるけど、現場の冷蔵庫、空っぽだったよ?」


 中村補佐と高橋係長が視線を交わした。


「……鋭いご指摘です。補助金の多くは『事業費』、つまりイベントや学習支援にしか使えないルールになっています。光熱費や人件費、つまり『建物を維持するための金』に使おうとすると、会計検査院から『不適切支出』として怒られるんです。我々も柔軟にしたいのですが、法的に縛られていて……」


「意味わかんないんだけど!」


 るる奈が机を叩いた。


「ハコが潰れたら、イベントも何もないじゃん! あんたたちが作ったルール、バカなの? 現場死にかけ寸前よ?」


 中村補佐は、一瞬怯んだが、意を決したようにるる奈の目を見て言った。


「先生……正直に申し上げます。その『ルール』、つまり法律を作ったのは、我々ではありません。国会です。我々行政は、先生方が決めた法律を1ミリも外れずに執行するロボットのような存在です。現場を救うために『使い道を自由にする包括補助金』を作るには、法律そのものを変える必要がある。……そして、それができるのは、我々官僚ではありません。千道るる奈先生、あなた方『国会議員』だけなんです」


「……」


 るる奈は、息を呑んだ。


 官僚たちが自分を見つめている。それは「無知なギャル」を蔑む目ではなく、「法律を変える鍵を握る権力者」への切実な眼差しだった。


「官僚のスピード感が足りない、という批判は甘んじて受けます。ですが、最終的にハンコを押すのは政治家です。予算の壁、法律の壁……それを壊せるのは、現場を知っている先生のような方ではないでしょうか」



 レクが終わった後、るる奈は自室の鏡に映る自分をじっと見つめていた。胸の奥に刺さったあの「棘」が、ズキズキと熱を持って疼き始めていた。


「……ねえ、竹中さん」


「はい、先生」


「ウチ……ただのバカだけど。法律変えるとか、そんな大層なことできるわけ?」


 竹中は眼鏡を拭きながら、静かに答えた。


「一人では無理です。でも、先生が声を上げ、党の部会を動かし、世論を味方につければ、山は動きます。……まあ、福島副幹事長が『余計なことするな』とキレるのは確定ですがね」


 るる奈は鼻で笑った。


「おじさんの怒鳴り声なんて、闇金地獄に比べりゃ子守唄っしょ」


 彼女はスマホを取り出し、あの子ども食堂で撮った「映えない」写真を眺めた。


 手取り63万円を守るためだけに座っていた赤い椅子が、急に重く、熱く感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ