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第18話 国会デビューしたけど、やることボタン押すだけだった件w賛成ボタン押すだけなのに心拍数バグった

 衆議院本会議場――高い天井に赤い絨毯、そして整然と並ぶ議員席。テレビの画面越しに何度も目にしてきた光景ではあったが、実際にその席へ身を置くと、肌を刺すような独特の圧迫感を覚えた。


 千道るる奈は、自席に小さく腰掛けながら、おずおずと周囲を見回した。


(本当に、国会にいるんだ……)


 それは紛れもない現実だった。つい数か月前まで実家で昼過ぎに目を覚ます生活を送っていた元ニートのギャルが、今や衆議院議員としてこの厳かな議場に席を置いている。

 人生の一転、何が起こるか分からないものであると、彼女は深く実感していた。


 議場の前方では、法案の趣旨説明が厳かに続いていた。

 本日の議題は『災害時ペット同行避難支援法案』。

 避難所におけるペットの受け入れ体制整備や、自治体への支援策を盛り込んだ内容である。


 法案の概要については、昨日までに秘書たちから一通りのレクチャーを受けていた。

 そして、自身が取るべき行動の結論もすでに決まっている。

 所属する民自党の党議拘束――すなわち「賛成」である。

 るる奈に裁量の余地はなく、ただ賛成のボタンを押す。それだけの任務であった。


(うん、それだけ。簡単なはずなんだけど……)


 そう自分に言い聞かせるものの、法案の説明は長大だった。

 るる奈の体感時間ではすでに三時間ほどが経過したように思われたが、実際の壁時計はまだ四十分が過ぎたところを示しているに過ぎない。


(眠い……)


 込み上げる欠伸を必死に噛み殺しながら、周囲に目をやった。

 真剣な面持ちで資料を読み込む者、腕を組んで演説に耳を傾ける者、せわしなくメモを取る者。


(みんな、本当にすごいな……)


 るる奈も手元の資料を一枚めくってみたものの、わずか三行ほどで集中力が切れてしまった。

 再び前方に視線を戻すが、演説が途切れる気配はない。スマートフォンを確認したい衝動に駆られたが、当然ながらそれも許されなかった。


 この本会議場には秘書たちの姿はない。

 いつも傍らで的確にサポートしてくれる御子神も、丸目も、竹中もいない。

 この広大な議場の中で、自分はたった一人で座っている。

 その事実が、彼女の心細さをいっそう掻き立てた。


 やがて、議場内の空気が微かに張り詰めた。採決の時間が近づき、周囲の議員たちが一斉に手元の資料を閉じ始めたのだ。


(あ、いよいよ始まるのかな……)


 るる奈は慌てて背筋を伸ばし、事前に秘書たちから受けたアドバイスを頭の中で反芻した。


『先生、落ち着いてください』


『賛成ボタンを押す。ただそれだけですから』


『絶対に慌てる必要はありません。周囲の動きに合わせれば大丈夫です』


 事務所では「そんなの余裕だし!」と軽く笑い飛ばしていたが、いざその瞬間を迎えると、心臓がにわかに激しく鼓動を刻み始めた。

 議長が採決の開始を告げると、議場内の緊張感は最高潮に達した。


(えっ、今? もう押していいの?)


 一瞬の戸惑いの中、周囲の議員たちが迷いのない動きで投票装置へと手を伸ばす。


(やばい、遅れる……!)


 一呼吸だけ頭の中が白くなった。賛成か、反対か。確か、賛成だ。

 るる奈は必死に冷静さを取り戻し、指定された「賛成」のボタンへと指を走らせた。


 カチッ、と小さな電子音が響く。

 かすかな指先の感触。それだけのことだった。

 しかし、押し終えた瞬間に、全身の緊張が堰を切ったように解けていった。


(……押せた)


 間違いなく、正しく押せた。

 新人議員として臨んだ、初めての本会議。そして初めての電子採決は、何一つのトラブルも起こすことなく、無事に終了した。


 隣の席のベテラン議員たちは、まるで何事もなかったかのように平然とした表情を浮かべている。


(みんな、こういう空気に慣れっこなんだろうな……)


 るる奈は小さく息を吐き出しながら、胸の中でそっと思った。


(国会議員の仕事って、思っていたよりもずっと地味なのかもしれない)


 そんな新鮮な、そして少しの拍子抜けを伴う感想を抱きながら、彼女は議長が読み上げる可決の結果に、静かに耳を傾けていた。


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― 新着の感想 ―
政界の魔境ぶりをしっかり描こうとしてるところが面白かったです! 主人公、今のままだと「国会議事堂を出ていけ!」と言われるろくでもない議員だけど、成長できるのか!? まあ、大きな人間を見分けられる目は…
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