第17話 懲罰委員会に行ったら政治界のレジェンド大集合で草 wwwみんな経歴盛りすぎじゃない
議員会館の廊下を小走りで進みながら、るる奈は手元の資料を必死に眺めていた。
丸目が昨夜遅くに用意してくれた「懲罰委員会メンバー一覧」だ。
「……ちょっと待って丸目さん、これ何?」
るる奈は廊下を歩きながら、プリントアウトされた名簿を丸目に突きつけた。
「衆議院懲罰委員会の委員名簿です。先生の初めての常任委員会ですよ」
「知ってる。知ってるけど……」
るる奈は指で名前を一つひとつ辿った。
「石田……茂男? え、前の総理じゃん」
「そうです」
「貴司……文男? その前の総理じゃん」
「そうです」
「福田……一郎? 誰?」
「元衆議院議長です」
「川中……勇紀? 80歳じゃん」
「そうです」
「田所星……名前だけ知ってる女性の人……」
「元総務大臣です」
るる奈は名簿から目を離し、丸目を真顔で見た。
「ねえ。ウチ、場違いすぎない?」
「そうです」
「即答しないでよ!?」
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衆議院第十六委員室は、他の委員会室と比べてもひときわ重厚な空気をまとっていた。
楕円形の大きな会議テーブルを囲む椅子は、すでに半分以上が埋まっている。
るる奈が扉を開けた瞬間、室内の視線が一斉にこちらを向いた。
(死ぬかと思った)
胸の内でそう呟きながら、るる奈は御子神に言い含められた通り、背筋を伸ばして入室した。
スーツの着こなしは及第点。ネイルはベージュ系で無難。髪は一つにまとめてある。
しかし室内を満たすのは、現役・元総理大臣、元衆院議長、元閣僚、そして永田町を何十年も泳いできたベテラン政治家たちが醸し出す、分厚くて濃い「政治の空気」だった。
(この空気、闇金事務所とは全然違う種類の圧だ……)
おそるおそる席へ向かうと、隣の席にどかりと腰を下ろした白髪の大柄な男性が、穏やかな目でるる奈を見た。
「やあ、千道先生。初めまして。石田です」
石田茂男だった。前総理が、にこにこしながら挨拶している。
「……ッ! せ、千道るる奈です……! よ、よろしくおねがいします……!」
るる奈は直立不動でお辞儀した。角度は御子神特訓の成果で完璧だったが、声が微かに裏返った。
石田は鷹揚に頷き、手元の資料に目を落とした。その横顔に「緊張しているんだな」という気遣いは見えても、それを声に出して指摘するような野暮さはなかった。
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向かいの席では、貴司文男がすでに落ち着いた様子でお茶を飲んでいた。
るる奈と目が合うと、元総理は静かに微笑んで軽く会釈した。
(笑顔がめっちゃ優しい……でもテレビで見るより全然怖い……なんで?)
隣には田所聖が座り、書類に赤ペンで書き込みをしている。彼女はるる奈が入室した際に一度だけ視線を上げ、ゆっくりと頷いた。
言葉はなかった。しかし「見ている」という静かな圧があった。
最奥の席では、福田一郎が目を閉じて腕を組んでいた。80歳とは思えない背筋の伸ばし方だった。
川中勇紀は隣の委員と低い声で話し込んでいて、るる奈のことなど視野にすら入っていないようだった。
(全員、レベルが違いすぎる……ウチの議員バッジ、こんなところで使っていいの……?)
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定刻になり、委員会室の雰囲気が引き締まった。
事務局職員が起立を促し、最初の議事が始まった。
まず、委員長の互選が行われた。
「委員長の互選を行います。ご推薦はございますか」
沈黙が一瞬流れた後、川中勇紀が落ち着いた声で口を開いた。
「福田一郎先生を、ご推薦申し上げます」
その声に、室内の空気がすっと動いた。反対意見はない。
「ご異議ございませんか」
「……」
「異議なしと認めます」
福田一郎が委員長席へ移った。
るる奈は隣を盗み見た。石田は微動だにしない。貴司も表情を変えていない。
(これが……永田町のプロの、「普通」の顔か……)
委員長が着席し、一礼した。
「委員長に選任されました。どうぞよろしくお願いいたします。引き続き、理事の選任を行います」
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「理事の選任につきましては、委員長にご一任いただけますか」
委員長の問いに、またしても自然な「異議なし」が返ってきた。
委員長は淡々と理事の名を読み上げる。
指名された五人は、それぞれ一礼した。特段の感慨も、喜色もない。ただ職務として受けたという静かな表情だ。
るる奈はその様子を、息を殺して見つめていた。
(なんか……カッコいいな)
テレビや選挙特番でしか見たことがなかった政治家が、目の前で普通に仕事をしている。
永田町の中心で、権力の歯車がいま静かに噛み合っていく。
その一角に自分の名前が名簿に載っていて、自分がこの席に座っている。
(ウチが……ここにいる)
実感が、遅れてじわりと滲んできた。
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初会合はほどなく終わった。
「本日はこれにて散会とします」
委員長の声とともに、議員たちが静かに席を立つ。
るる奈は少し遅れて腰を上げ、資料を集めていると、隣の石田がゆっくりと立ちながら言った。
「……千道先生。懲罰委員会は、まあ正直あまり動かない委員会でしてね」
「は、はい……」
「ただ、だからこそ委員の顔ぶれが面白い。色んなキャリアを持った人間が集まっています。せっかくですから、色んな人の話を聞いてみるといい」
それだけ言って、石田は穏やかに去っていった。
説教でも、気遣いの過剰な言葉でもなかった。ただ自然に、先輩が後輩に言うような口ぶりで。
(……前の総理に、アドバイスもらった。ウチが)
るる奈は呆然とその背中を見送った。
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廊下に出ると、御子神が壁際で腕を組んで待っていた。
「所作は及第点でした。入室の礼は合格です。発言はゼロ、これも正解です」
「褒め方が消去法すぎる……」
「次回から石田先生の隣は避けてください。緊張でお顔が引きつっていましたよ」
「バレてたの!?」
丸目が苦笑しながらコートを差し出した。
「でも先生、最後まで逃げ出さなかったじゃないですか。それで充分ですよ」
るる奈はコートを受け取りながら、ふと振り返った。
がらんとした委員会室の扉が、静かに閉まっていく。
「……ね、御子神さん。貴司先生って、会釈するとき目が優しいのに、なんか怖いの、なんで?」
御子神は少し間を置いてから、静かに答えた。
「あの目は、多くの修羅場を笑顔でくぐり抜けてきた人間の目です」
「……どんな説明だよ」
「いずれ分かります」
御子神は踵を返した。
るる奈は小走りでその後を追いながら、今日初めて知った感覚を心の中で転がした。
(怖かった。でも……なんか少しだけ、面白かったかもしれない)
廊下の窓から、国会議事堂の白い塔が夕日を浴びて光っていた。




