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第13話 議員会館デカすぎてwwwでも、軽いノリで来る場所じゃなかったっポイ

 永田町は、初登院を控えた新人議員たちで異様な熱気に包まれていた。その中でも、千道るる奈は完全に浮いていた。


「ヤバ……マジで国会議員の建物じゃん……!」


 銀髪のエクステをふわっと揺らしながら、るる奈は議員会館の巨大なガラス張りのエントランスの前で目を輝かせていた。

 毒々しいピンクのネイルが、興奮で少し震えている。

 第一秘書の御子神は、いつもの無表情で冷静に言った。


「先生、入口を塞がないでください」


「だってすごいじゃん! 議員会館だよ!? ウチ、ここに入っていいの!?」


「あなたは今日から“住人側”です」


「意味わかんないんだけど……!」


 第二秘書の丸目が、苦笑しながらフォローした。


「最初はみんなそんな反応ですよ、先生」


「いや絶対違うって! 周りの新人、みんな落ち着いてるし!」


 実際、周囲を歩く他の新人議員たちは、落ち着いたスーツ姿で秘書と静かに会話を交わしながら進んでいた。

 その中で、派手な銀髪に派手なネイル、明らかに浮いた雰囲気のギャル議員は、まるで修学旅行生のようだった。

 受付を通過し、館内に入った瞬間、るる奈のテンションがさらに爆発した。


「うわぁぁ! 空港みたい! 超広いんだけど!」


「先生、館内での写真撮影は控えてください」


「まだスマホ出してないじゃん!」


「出そうとしましたね」


「……なんでわかるの?」


 議員会館の内部は、テレビで見たものより遥かに機能的で静かだった。

 長い絨毯の敷かれた廊下、無数の議員室、秘書スペース、会議室、コピー室。そして地下には食堂とコンビニ、さらには理容室まである。


「え、コンビニあるの!? 神じゃん!」


「長時間拘束されることが多いので、便利です」


「美容院もある……!? 何ここ、小さい町?」


 御子神が淡々と説明を続ける。


「ここは仕事場です。陳情対応、法案確認、記者対応、来客対応……すべてここで行います」


「……待って、ウチがそんなことする側なの?」


「残念ながらそうです」


「怖っ……」


 エレベーターで上階へ上がり、目的のフロアに到着した。静かな廊下の奥に、一つのプレートがあった。


『民自党 衆議院議員 千道るる奈』


 るる奈の足が、ぴたりと止まった。


「……え」


 数秒遅れて、現実が脳に染み込んでいく。


「……ウチの名前?」


「当然です」


「待って待って待って……」


 るる奈はプレートを指差し、声を震わせた。


「これ……本当にあるんだ……国会議員って……」


 御子神がカードキーをかざす。扉が静かに開いた。そこに広がっていたのは、約100㎡の広々とした議員室だった。大きな執務机、応接セット、本棚、会議用テーブル、国会中継用のモニター。窓からは国会議事堂がよく見渡せる。るる奈は数歩入ったところで固まった。


「……広っ……」


「標準的な広さです」


「これが標準!?」


 るる奈は恐る恐るソファに座り、ふかふかした感触に目を丸くした。


「ふかっ……!」


次に執務机の前に座り、「デカっ……!」


 そして窓際に立ち、景色を見下ろして、「景色ヤバっ……!」


 完全に田舎から出てきた新入生のようだった。


 丸目が笑いを堪えながら言った。


「気に入っていただけて何よりです」


 しかし、次の瞬間——るる奈はスマホを取り出し、ニヤニヤしながら構えた。


「待って、これ絶対映える! 『国会議員なう☆』って投稿しよーっと!」


「先生」


 御子神の声が、低く響いた。るる奈の動きが凍りつく。


「議員会館内部の写真を軽率にSNSに投稿するのは、安全保障上も問題があります。部屋番号、導線、警備体制……すべてが情報です」


「……あ」


「それに“浮かれた新人議員”という印象は、記者に極めて好まれます。すぐに炎上しますよ」


 るる奈はゆっくりとスマホを下ろした。


「……はい」


 部屋の空気が、少し重くなった。御子神は静かに、しかしはっきりと続けた。


「先生はまだ、この場所の重みを理解していません。ここは、国家予算の数十兆、数百兆円が動く場所です。一つの法案が、たくさんの人の人生を変える場所です」


 るる奈は黙ってプレートを再度見つめた。


『民自党 衆議院議員 千道るる奈』


 御子神の声が、静かに響く。


「遊園地ではありません」


「……なんか、急に怖くなってきた」


「それで正常です」


 丸目が優しく微笑んだ。


「最初から平気な人の方が、危ないんですよ」


 るる奈は自分の名前が書かれたプレートを、さらにじっと見つめた。まだ実感は湧かない。

 だけど、少なくとも——ここが、ただの派手な場所じゃないことだけは、ゆっくりと理解し始めていた。


 その時、机の電話が鳴った。るる奈がびくりと肩を跳ねさせる。


「うわっ!?」


 御子神が落ち着いた動作で受話器を取った。


「……はい。千道議員事務所です」


 その瞬間、るる奈はようやく実感した。

 自分はもう、「先生」と呼ばれる側に立ってしまったのだと。

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― 新着の感想 ―
良かった。 アホみたいにSNSに投稿してしまうクソ議員は生まれなかったんや……! るる奈に良識あったのが良かったです。
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