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第8章 笑われて鳴り響く不協和音

僕達は、小田急線で小田原駅で降り、JR線を使い、横浜駅に到着した。


年始ということもあり、横浜駅は人で溢れていた。


着物で優雅に歩く人や、スーパードライを片手にはしゃぐ若者達。

それぞれがそれぞれの年始を楽しんでいた。


僕達は、横浜市営ブルーラインに乗り、上大岡駅で降りた。


上大岡駅には、僕の大学時代の同期が住んでいる。


上大岡には、よく遊びに来たものだ。

駅前の映画館で、友達と映画を観たり、DOUTORでぶっちゃけ話をしてから麻雀もした。


僕は大学時代、アカペラサークルに所属していた。


アカペラとは、声だけで和音や低音、パーカッションを表現し、演奏する音楽だ。


僕は、ベースを担当していた。

中島みゆきの「糸」やGReeeeNの「愛唄」などを演奏した。


僕の中ではサークル活動は楽しかった。


元々エレクトーンを習っていたことや、高校時代はバンドでギターボーカルをしていたこともあり、音楽が好きだった。


当時ハモネプが流行っていたこともあり、僕は入学式後のサークル活動のチラシを部員から手渡され、そのままサークルに入った。


そこで出会った同期達と、今日は新年会をすることになっている。


懐かしい思い出を振り返りながら、上大岡駅を出てすぐにある傾斜10%の坂を登り始めた。


佳くんをエルゴの抱っこ紐で抱っこしながら登る僕は、腰と足の痛みに耐えていた。

新年から怪我はしたくない。

めでたく行きたいから。

今年もね。


僕達は、やっとの思いで坂を登り切り、目に入ったセブンで飲み物とお菓子を買った。


そのセブンから5分ほど歩くと、アカペラサークルの同期の家が見えてきた。


外観は白を基調としていて、駐車場には購入した時に僕に自慢してきた青のセレナが停まっていた。

ボディが光り輝き、昨日洗車したことが伺える。


庭にはブランコがあり、砂場もあった。

後で佳くんも遊ばせてあげるようにお願いしよう。


僕はインターホンを鳴らした。

インターホンから声が聞こえるよりも先に玄関が開いた。


「よぉ!いらっしゃい!」


出てきたのは大輝だった。


大輝はアカペラサークル内で僕と同じグループを組んで、EXILEの「Together」を演奏していたことがある。


LDHのVOCAL BATTLE AUDITIONに参加して、一次予選を突破したほど歌が上手く、EXILEのATSUSHIを尊敬していた。


その影響もあってか、少しぽっちゃりした体型にPOLICEのサングラスと金のネックレスに、EXILEの黒のライブTシャツを着ていた。


大学時代から変わらない姿に、僕は安心した。


僕達は、大輝の家の玄関まで歩み寄る。


「久しぶりだな。大輝」


そう言うと、僕達は固い握手を交わした。

大学時代を共に過ごしたからだろうか。

握手しただけで、大輝が去年どんな一年を過ごしたかが手に取るように分かった。


「おぅ!遠くからありがとな!」


大輝は僕達を家の中へと招き入れた。

「さぁ、入ってくれよ!みんな待ってるぜ!」


僕達は、脱いだ靴を玄関で綺麗に揃え、大輝の家の廊下を歩いてリビングまで進んだ。


リビングのテーブルには、既に2組の夫婦が座っていた。


一組は、顔の彫りが深く、強い情熱を秘めた目をしている細身でボーカルをしていた孝弘と、同じアカペラサークル部員だった茶髪のポニーテールとそばかすと笑顔が似合うコーラスを担当していた沙織。


もう一組は、一見弱々しそうな風貌だが、心優しいムードメーカーでボイスパーカッションを担当していた和馬と、和馬がマッチングアプリで知り合ったというモデルのような顔付きの茜さんだった。


孝弘と和馬は、教員免許を取得し、2人とも小学校の担任の先生をしている。


大輝は、貿易関係の仕事で、沙織は居酒屋のSVをしていた。


僕達は、約1年振りに再開した。

誰も変わっていなかった。

あの頃のまま。

大学時代に共に青春を過ごした時と同じだ。


僕達は空席に座り、たわいもない会話をしながらテーブルに並べてあったピザやポテト、お節を食べた。


和やかな雰囲気で、新年会はスタートした。

久しぶりに、こんな賑やかな時間を満喫出来て、心の底から楽しかった。


やがて、食後のシャトレーゼのショートケーキを食べながら、和馬が僕に向かってこう言った。


「そういや、悠太って、今何やってんの?」


僕は、久しぶりに自分の名前が呼ばれたことに少し戸惑った。


普段は、店長やパパ、お兄ちゃんしか呼ばれないから。


僕は口の端に付いたホイップクリームを人差し指で拭き取り、和馬に言った。


「今もドラッグストアの仕事をしているよ!やっと店長になれたんだ」


それを聞いたみんなは「おめでとう!」と拍手してくれた。


僕はこの時、やっとみんなに認められた気がしていた。


今の会社に入って、一般社員の時期が長く、周りのみんなは、それなりの役職についたり、年収が600万円を超えていたから、僕なりに焦りを感じていた。


けれども、今日は「昇進した」という事実を携えて来たから、この瞬間思いっきり胸を張った。


僕は本に出会って人生を変えた。

その想いを伝えたい。

僕は、想いのまま言葉にした。


「それでさ、昇進したのは本を読んだからなんだよ!」


みんなの空気が少し緩んだ。

なんだ?

何かが少し、おかしい…?

僕は気のせいだと思い、話を続けた。


「それでね、noteっていうSNSで僕の学んだことを投稿してるんだけどさ!これが面白くて、もう少しで10万PVにいきそうなんだよ!」


和馬の奥さんが、手元にあった紅茶のカップを持ち上げ、口元に運んだ。


大輝に関しては、目の前にあったケーキを再びフォークで食べ始めた。


やがて、孝弘がこう言った。


「本かぁ。俺あんまり本読まないからなぁ」


続けて頷きながら沙織が言った。


「そうそう。なんか面倒なんだよね。本読むのって。ダルイっていうか、疲れるっていうか」


心の中で、僕は必死に反発しようとした。

けど、この雰囲気を壊す勇気が、今の僕にはなかった。


続けて、やがてケーキを食べ終わった大輝が言った。


「まぁ別にいいんじゃない。悠太のやりたいようにやれば」


その言葉が、前向きなものじゃない雰囲気は手に取るように分かった。


やがて、大輝の言葉の後に、笑いが起き始めた。

その笑いが、僕の今までの努力を認めていないことは明らかだった。


そして、アカペラの演奏中でも感じたことのない不協和音が、僕の鼓膜にまで届いた。


僕の耳が、この笑い声を受け取ることを拒んでいる。


本能に抗おうと、僕は膝の上に置いた両手をグッと握りしめた。やがて、握る力が強すぎる余り、両腕が僅かに震え始めた。


あれだけ毎日本を読んでいるのに、みんなのために書いているのに…


なんなんだ…

なんなんだ…

これは……


実は、職場には僕のnote活動は、まだ言ってなかった。


10万回PVという実績がある状態で報告した方がいいと思ったからだ。


その前に、昔からの友人に報告しようと思ったのに、この様だ。


本の、僕の書いて来た日々の、一体何を知っているんだ?


千聖と佳くんが、心配そうに僕の横顔を見てきた。


その後の食事も、会話もよく覚えていない。

覚えていたのは、ただ虚しいという感情だけだった。

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