七日目 トルコ➁ 気球に乗ってドンドコドコドコ
人生まるっきり上手くいくことなどないと判っているはずの私ですが、旅に出た時改めて学びます。
「思い通りになるほうが稀」「諦めが肝心」「それでも最悪のことは、滅多に起きない」
「おい、前の方でスタッフが何か言ってるぞ」
「モグモグ、こっちのパンも旨いとか言ってるのかしら」
「そんな感じじゃないぞ。怒ってる人もいる」
「ツアーの朝食なんてこんなもんよねえ。ハグ」
「モグモグハグハグ食べながら、しゃべるなよ」
私は気球ツアーの朝食をバクバク食べている妻に文句を言う。
あいかわらず酸っぱい。だが私の体調はいい。本日のお通じもモリモリだった。
バクバクだのモリモリだの平和な私たちだが、ツアーの方には暗雲がモクモクと垂れ込めていた。大勢の外国人が「オーノー」とか「オーマイガッ」とか「ファ〇ク」だとか騒いでいる。さっきまでもうすぐ気球に乗るんだもんね好きだよメアリー私もよジミーみたいなことを耳元で囁きあっていたウキウキのバカ外国人カップルも何か文句を言いながらバックパックを担いで移動を始めた。
「あなたちょっと聞いてきなさいよ。何言ってたのか」
急に皿から顔を上げた妻がトカゲのような眼で私を見た。なぜそんな眼を私に向けるのか。
怖気づいた私はテーブルを離れ、自分たちのツアー担当を探した。
ここはとあるホテルの朝食会場、私たちは予約済みのカッパドキア気球ツアーに参加していた。
朝4時起きでバスに乗り込み、このホテルでツアーに付随している朝食を食べていたところだ。
まあまあ結構な確率で中止となるこの「奇岩群を眼下に見下ろす感動のホットバルーンツアー」(だいたいこの時期の中止確率20~30%)、それでも集合して朝食をとって、後は現地に向かうばかりだ。ここまで来れば大丈夫だろうと胸をなでおろしつつ、例によって酸っぱいサラダやチーズやヨーグルトを摂取していた。様々な会社のツアー客がここで一緒になっているらしく、40~50人くらいがザワザワと食事している。
ほとんどの客が食事を取り終えたようで、中には気の早いことに、レストランの外でウキウキと出発を待つ人間もいた。そこに多分スタッフの一人であろう男が現れ、大きな声で「聞いてくれ」と言った。(予想)さらにこう言う。
「みんな、すまん。強風で今朝はバルーンが飛ばない。ここで解散だ」(予想)
あちこちからあがる落胆の声と少しばかりの怒声、そして何やら質問にスタッフの元へ近寄る者たち。前述の通り、私も自分のツアーのスタッフを探して確認した。
「ツアーは中止だそうだ」
「朝5時に集合して、朝食食べて終了なの?」
妻の前にはパンとサラダとヨーグルトの皿が重なっている。
だいぶ元は取っとるがな。
「天候が悪化している。急に風が強くなってきたらしい」
「だって昨日までは」
「うん、ホテルのフロントも言ってたな。最近は天候が安定していて、しばらく中止がないから明日も大丈夫だろうって」
「何てことなの。真っ暗なうちに起きて、ホテルの朝食はパスしたのよ」
「まあ、今戻ればホテルの朝食には間に合うけど…ここで食べちゃったね」
「戻ってホテルでも食べるわ。もちろん」
「…そうだな。僕もそうするよ」
「することもないしね」
「することがないと食べるのか。…まあ、このためにカッパドキアは三連泊にした。明日か明後日に飛んでくれれば大丈夫だ」
私も気を取り直して食器を片付け始めた。
もちろん私たちはまだこの時点では知らない。
ずっと天候良好で飛んでいた気球がこの日からちょうど3日間中止となることを。
(ちなみにその後は天候回復して、またしばらくは飛んだんだって)
戻りのバスの中は当たり前だが目的地へ向かう時より沈んだ雰囲気だった。
「明日はきっと大丈夫よね」
「中止の確率20%だそうだ。単純計算では3日間連続で中止になるのは125分の1だよ。ダイジョーブ、ダイジョーブ♡」
*そういう単純なものではない。天候の悪化は何日間か続く。したがって『3日中止でそれから15日間は実施』というような感じらしい。発言がいちいちフラグぽくなっている。
妻は私の顔をじっと見つめてからハアとため息をついた。何か失礼だと思う。
「あなたがそういうなら」
「うん」
「きっと駄目だわ」
「…」
妻は撤収のバスの中で立ち上がり、周囲の目も気にせず歌い始める。何が始まったのかと目を丸くして見る者、眼を合わせないよう寝たふりをする者、なぜかうっとりと妻を見つめる変人、世界にはいろんな人がいて、様々な嗜好があるものなのである。(久米明風に)
「♪夫はなぜか大空へ 昇ってみたくなるらしい 気球に乗れずホテルへ戻る あなたと煙は 高いとこが好き バスに乗って 返金もらい 宿まで帰ろう そこに朝食が待っているから」(『気球に乗ってどこまでも』)
何だ、『あなたと煙は』って。何だかうっすらとオレのこと馬鹿にしてないか。
*うっすらではない
2025年 10月7日 トルコ➁ カッパドキア
さて前日若干力み過ぎて寝不足の私だが、とにかく午前4時に起きて5時ホテル前集合に間に合わせる。「気球ツアー」は風が安定している早朝行われるので、こんな時刻になるのだ。
ツアーバスがあちこちのホテルに寄って参加者を拾い、どこかのホテル前の路上にとまった。ここで簡単な朝食(パンとヨーグルト、フルーツくらい)をもらう。別のツアー会社も沢山混じっていて、朝食会場には40~50人くらいがいたように思う。
前述のように30分くらいして、スタッフから本日中止の連絡が入りバスでホテルへ戻った。
ホテルでもう一度朝食をもらい、さらに私の胃腸を健やかにした後はもうやることがない。私たちは街をブラブラすることにして、この旅で集めようと思っている各地のマグネットを探し回ることに決めた。
ホテルを出る前にフロントに寄り、明日の気球ツアーの予約を改めてお願いした。
まずATMへ行って少し現金を用意しようとしたが使えない。何度やっても「使用不能」のメッセージが出てくるのだ。街角のATMなので何かあったらと思うと怖くていろいろ試すということが出来ない。
ランチは『ハーモニー』という店に入り、チキンプレートとサラダを貰って休憩した。カッパドキアは何でかルーフバルコニーに店を構えるレストランが多かったように思う。どこへ入っても眺望はすこぶる良好だった。あ、それでか。
このレストランもフツーの味だったが、相変わらずドレッシングはかかっていないので、塩とオリーブオイルで食べる。飽きたな。
いったんホテルに戻るとホテルのフロントで伝言を受け取った。
『天候(強風)の関係で本日より3日間気球ツアーは中止』とのこと。大ショックだ。明日も明後日も飛ばない。私たちはこのさほど大きくもない街で何をしたらいいのだ。
午後もウロウロとお土産物屋でマグネットを物色し、いくつかの(大丈夫そうな)ATMを試し(駄目でした)、カフェでバクラヴァとチャイをもらって休憩し…などという一日を過ごした。何だ、結構充実している。
*バクラヴァはトルコの伝統的なお菓子。ナッツ類をパイで包んでシロップ漬けしたもの。最初は甘ったるいしか感想がなかったが、美味しい店で食べると癖になる。
ちなみに夕食は『ターキッシュマントウ』という店でマントゥとファラフェルなど。解説と感想はない。
夕食後、私たちはフロントに向かい、この近辺の遺跡や奇岩群を廻る明日の現地ツアーを申し込んだ。もちろんガイドは英語オンリーだ。大丈夫だろうか。大丈夫ではない予感以外はしない。
<tips8> 「現地ツアー」
世界一周航空券を購入し、一応ホテルの予約を済ませて…それから、ということで私が頭を悩ませたのはこの「現地ツアー」です。自分では行ける気がしないところ、個人で訪れるのにはハードルがいかにも高いと思われるところがいくつかあります。
もっとも厳しいだろうと予想したのはやはり南米です。アメリカからペルーに渡って陸路を鉄道でマチュピチュへ移動すること、そこから二本のローカル空路を乗り継いでウユニ塩湖を訪れること…それは自力では無理だろうなと。南米周遊のツアーを使って連れてってもらうことにしようそうしようと思い、例えばリマから出発する「マチュピチュとウユニを巡る5泊6日」みたいなのがないかと探しました。
結論を言いますと、ほぼ個人で手配し、ウユニでの現地ツアーのみ予約しました。(ウユニの街から塩湖を巡ってもらう4WDを二度)
南米を回るにあたって自分たちの旅の順路にフィットするツアーがなかったことと、やはりコスト的に厳しかったことが「だいたい個人旅行」になった理由ですね。
ドキドキの体験でしたが、何とかなりました。特にマチュピチュ行きのペルーレイルを日本から予約するのは『きっと多分これで大丈夫…だと思うぜ!』くらいの強気な感じ。
*私が心惹かれたのは『Oooh』という会社のリマ発「ウユニ&マチュピチュ7日間空路の旅」です。主に空路を使用してくれること、当然目的地までガイドが同行してくれること、オプションで日本語ガイドもお願いできることなど、魅力的です…が、二人で6400ドルから(だいたい100万円!)泣
そんな強気?な計画の南米に対して、つい弱気にまるまるお任せツアーにしてしまったのがイタリアです。当初はローマからフィレンツェ、ミラノと鉄道で旅しようと楽しみにしていたのですが、出発直前スーツケースやバックパックの荷造りシミュレーションをやっている段階でにわかに不安になったのです。この大荷物を抱えてスリが多いと聞いているイタリアの諸都市を電車で回るのかと。さらに諸都市をつないでいる高速鉄道がデモ多発中というニュース、おまけに今年がキリスト教の25年に一度の聖年ということであちこちにイベントがある、などと一般観光客にとってはネガティブな要素が次々に耳に入ります。私は結局イタリアを「ランドクルーズ」というHISのバスツアーで回ることにしました。
*同様のツアーはJTBにもあり…というか同じバスじゃないのかな?よくわかりませんが。
結局私たちはこの『トルコの気球』あと『イタリア三都市バス周遊』『ウユニ塩湖ワンデイ&星空ツアー』『グランドキャニオン一日弾丸ツアー』を予約しました。
ほとんどは『Get Your Gide』というサイトを使いましたが、ウユニ塩湖だけは現地も現地、ウユニにある『穂高岳旅行社』に直接メールでガイドをお願いしました。日本人御用達のめちゃ親切な旅行社です。こちらについてはだいぶ後ほど南米編の時にまたご紹介します。
ツアーは安心感がある反面、いろいろな不自由さも含みますよね。私はビビりのくせに集団行動が苦手という難儀な性格なので、旅の前に不安になって団体ツアーに申し込み、そしてその不自由さに後悔するという身勝手かつ不経済なことを繰り返しています。
読んでいただき、ありがとうございました。この話…旅に出てからまだほとんど何もしていません。食って寝ているばかりです。もっとアクティブな旅行になる予定だったのに。




