九日目 トルコ④ アイランでランラン♡
ビーチリゾートのモルディブとのんびりした岩山観光地カッパドキアから、私たちはついに国際的大都市イスタンブールに到着しました。アジアとヨーロッパの境のこの街は確かに都会なのですが、何だか日本人にとってはどこか懐かしささえ感じることのできる優しい街でもありました。
「今いる場所を写メで送ってくれってさ、…この人の名前は何て読むんだろう」
「ス、スアッ?…」
「このバス停ならわかりやすそうだ」
バスターミナルの時刻表が明るく輝く案内板のところで私は妻と並んで自撮りし、今夜の宿の管理人に送った。迎えに来てくれるらしい。
その1分後、妻が目を瞬かせる。
「ねえ、あ、あの人?」
「いやいや、今到着をメールしたところだよ。そんなに早くは」
「ハイ、jimaサン、オマタセ。ウエルコマ」
「えええええええ」
お迎えのあまりに早い登場に私たちは驚愕したのだった。
ここは夕刻のイスタンブール、カドキョイのバスターミナルだ。私たちは空港からハバイストと呼ばれる路線バスでこの港町にやってきた。途中は大渋滞で所要2時間ほどの予定が大幅に超過していた。
このカドキョイの民泊?を予約していた私たちは午後5時くらいには到着と事前に予告していたのだが、すでに7時を過ぎている。
バスの中、何度かWhatsAppというアプリで宿の管理人であるSuatさんと連絡を取り合った。
私「今空港に到着。予定通りのハバイストに乗車、ウェーイ」
Suat「連絡ありがとう。ようこそイスタンブールへいらっしゃいました。お待ちしています」
1時間後
私「大渋滞。到着予定を大幅に過ぎそうだぜ、ベイビー」
Suat「大丈夫。まったく問題ありません。慌てないようにしてください。お会いできるのが楽しみです」
さらに1時間後
私「バスまったく進まん。さらに遅くなりそう。ごめんなチャイ」
*チャイはトルコでよく飲まれるスパイス入りのミルクティ
Suat「渋滞の中、連絡ありがとうございます。私は大丈夫ですから、ゆっくりいらしてください。おいでになったあなたを美味しいチャイでおもてなしします笑」
このメールのやり取りを覗き込んだ妻が呟く。
「これはメチャクチャいいヒトだわ」
「何だかふざけた自分のメールが恥ずかしくなってきたよ」
面と向かってなければ、気が大きくなれるのが私の悪い癖なのだ。(何て陰険な)
本当に私たちが数時間単位の遅れで辿り着いたバスターミナルに彼はわざわざ迎えに来てくれたのだった。40代くらいだろうか、人の好さそうなヒゲ面だ(といっても、トルコの男性はたいがいヒゲ面だが)。いかにもキビキビした働き者っぽくて、『いいヒト』オーラが強く漂っている。
彼がニコニコしながら私に握手を求める。
「イスタンブラ ホシュ ゲルディニズ」(どうやら『ようこそイスタンブールへ』というようなことらしい)
「よくわからんが、ありがとう」
私が笑顔で言ってシェイクハンドすると、妻も右手を差し出し、握手しながら言う。
「遅れてごめんなさい。お迎えありがとう」
するとSuatさんはニコリと笑い、自分のスマホに何かしゃべって翻訳画面を私たちに見せた。
『私はスアットさんです。あなたたちの旅がいいものになることが私の願い。宿へ案内します』
私と妻は顔を見合わせる。
「どういうことだ。これはホントにいいヒトっぽいぞ。何かの間違いじゃないのか」
「いいヒトならいいじゃないの。何困っているのよ。イスタンブールいいとこだわ」
妻は完全にスアットさんのイスタンブールスマイルに篭絡されたらしい。
さっきまで空港のショップがめちゃ高いの、両替のレートが悪いのと口汚く罵っていたくせに、すっかりイスタンブール贔屓だ。
*ちなみにイスタンブール空港は『世界で一番物価が高い空港』だといわれる
「僕たちを2時間以上待って、笑顔でバス停まで迎えに来てくれたんだ。なかなか出来るこっちゃない。でもここはイスタンブールだよ。空港での仕打ちは忘れない。何か思惑が、そのつまり大きな罠が待ち受けているのかも」
「ホントに馬鹿ね。あなたがパスポート持たないでどっか行くから悪いんじゃない。自業自得って…えっ?ちょ、ちょっと」
「オクサン、コレ、モツネ」
私たちがさらにお礼を言う前に、妻のスーツケースを奪うようにして持ち、スアットさんは前をグングン歩き始めた。
「サ、イクネ、アハハハ」
「ほらほら、こっちです」(トルコ語)
スアットさんは多分こう言って、早足…というかほとんど走り始めた。
「おおおお」
せっかく感動していたのに、そんな暇を彼は与えてくれない。何なの。
スアットさんは歩行者用の信号も何もすべて無視してドンドン先へ進む。結構な交通量なのに躊躇なく大通りに突っ込んでいくのだ。
「うわわわわ。ちょっと待って」
私は狼狽えてつんのめり、あやうくバイクにひかれそうになった。
「赤よ、やばいわ。ぎゃあっ!」
妻が殺気立った二台の車から同時にクラクションを鳴らされて、悲鳴をあげる。
そんな後方を振り返っても、スアットさんはその速度を緩めることはなかった。
拝むように片手を前でヒラヒラさせ高らかに笑いながら、走ってくる車の前をどんどん横切っていく。
「キオツケテ、ワハハハハハ」
こいつホントにいい奴なのか。
案内されたアパートはさほど遠い場所ではなかったが、私はいろいろな意味でぐったりと疲れていた。
例によってスアットさんがスマホの画面を見せる。凄いスピードで矢継ぎ早に。
『無事についてよかったですね。アパートの説明をします』
『わからないことはいつでも何でもスマホで訊いてください』
『イスタンブールでの滞在が快適になるよう、全力でサポートします』
そして快活に笑った。
「アハハハハハハ」
私たちは戸惑う。
いいヒト認定はもう少し保留にした方がよさそうだ。
*数日過ごすうちに本当にめっちゃいいヒトだと判明。基本的にトルコ人は親日家が多いらしい。確かに日本人には特に優しい気もするけれど、旅人全体、あるいは誰にでも優しい人が多い感じだ。よく日本との歴史的な関りが指摘されるが、私には要するに国民的な人間性の温かさではないかと。
立ち去ろうとするスアットさんの前に立ち、妻が若干やつれた顔でニコリと微笑み返す。そして歌い始めた。さすがのトルコ人も呆気にとられている。
「♪あんまりスアスアットしないで あなたはいつでもキョロキョロ よそ見をしてたら事故るわ 旦那は誰より臆病♡」(『ラムのラブソング』)
何でその歌なんだ。 …ああそうか。イスラム圏なんでラムか…って、わかるかい!
2025年10月9日 トルコ④ カッパドキアからイスタンブールへ
様々な美しい思い出を残して…いや、ほとんどホテルとメシ屋を往復していただけのカッパドキア滞在も本日で終了、11時にホテルのトランスポートサービスで空港へ向かう。
朝食はもはやお馴染みというか、体に馴染みつつある酸っぱいヤツが中心の健康食だ。何か名前のわからない鉄板に乗った卵焼きを注文してみた。というか温かいメニューはそれだけだ。
テーブルについていれば持ってきてくれるらしい。
日本人の弱気で英語が苦手のサセ君がひとりで座っていたので私と妻は強引に『そこに座っていい?そういいの、ふんふん、ありがとう』などと返事を待たずに着席する。力なく微笑むサセ君、今日も可愛いぜ。
三人で今後の予定など話しながら、味のない野菜とヨーグルト風味の何やらを食べる。私のオムレツはいつ来るのだろうと厨房方面を見たら、昨夜私を香港映画風に撮ってくれたウーさんもトレイを持って並んでいた。
近寄って、挨拶すると例によって爽やかに『イエース、グッモーニン』とわかりやすく笑ってくれる。トレイには山盛りのキューリがのっかっていた。変な食事だけど、きっと国際派の美人とはそういうものなのだろう。きっとそうだ。
鼻の下を伸ばしつつ見とれているとサセ君がパンを取りに来つつ、教えてくれる。
「あのー、あれ、jimaさんの卵焼きじゃないですかね?」
何と言うことだ。サセ君の指した先には私の、多分『私のオムレツ(仮)』が後から来た家族連れの子供のところに運ばれている。
「サセ君、文句言って取り返してきてくれ。僕はもめごとは嫌いだし、そんな子供のオムレツ(仮)のことで騒ぐ器の小さい人間に見られたくないのだ」
「僕だって嫌ですよ。もうひとつ頼んだらいいじゃないですか」
「ううむ、冷たい。せっかく友人になれたと思ったのに、もう破局だな」
早くもこの歳の離れた友人関係は崩壊し、仕方なく私はもう一度オムレツ(仮)を注文し直した。
近くでことの成り行きを見ていたウーさんがケラケラと笑って、私たちのテーブルに引っ越してきた。
4人でまた旅のこと、自分の国での暮らしのことなどパラパラと話すとあっという間に時間が過ぎた。
ちなみにオムレツと思った卵料理はよくわからない薄焼きというにはやや厚いくらいの味のない卵焼きだった。そしてウーさんは途中でまたキュウリをまた山のように取ってきて、オリーブオイルをかけて食べていた。
「またね」とウーさんが手を振って食堂を出て行ったのをきっかけに、私たちもサセ君も手を振ってそれぞれ部屋に戻った。
『またね』と4人で言い合ったけれど、それきり二人に会うことはなかった。これも旅だ。
部屋で荷造りを終えてホテルのフロントに行ったのは11:00のことだ。ホテルのフロントの兄ちゃんが業務用のPCでゲームしてたので『ユーシュッドワークハード』と小声で言ってやると笑って手を振り、『シーユー』と言う。そうだなあ、一生に一度のカッパドキアと思っていたけれど、まだ気球には乗っていない。いつかまた来よう。うん。
無事イスタンブールに再上陸し、空港のATMでは現金もゲットできたし、日本大好きの遺失物係の兄ちゃんと遊びながらタブレットも返してもらった。珍しく順調に事が運ぶ今日だ。
…と思っていたら、空港バスが大渋滞し、私たちは宿があるイスタンブール市街のカドキョイにつくまで4時間を要した。
さぞ担当者は怒り心頭であろうとおびえていたのだが、前述のごとくメチャクチャいいヒトのスアットさんがバスターミナルまで迎えに来てくれた。
『レンタエステイト』というこのアパート?は不動産屋さんの事務所の2階にあった。3泊して4万円ちょっと、台所やシャワー、洗濯機もちゃんとついている。ありがたい。
荷ほどきもほどほどに私たちは近所のトルコ料理屋さんに向かい、ピデというピザの小っちゃいヤツみたいのをパクパク食べる。酸っぱくない。まあ、悪くはない。いや、旨いかも。さらにアイランというトルコ独特のヨーグルトドリンクも貰った。塩味のヨーグルトドリンクだ。酸っぱい。そしてゴメン、私の口には合わない。不味い。
よくわからないが、一勝一敗だ。早く宿に戻ろうそうしよう。私と妻は明日の朝用のサラダとパンを包んでもらい、さっさと引き揚げた。
明日は朝からアヤソフィアとスルタンアフメト・モスク(ブルーモスク)の見物に行く予定だ。朝イチ以外は凄く混むという噂だから早めに行きたい。そしてその為にはこの近くにある港からフェリーに乗らねばならない。さらにその為に『イスタンブールカード』という交通カードをゲットせねばならない。でもって、どうやらそのカードの販売機周辺には『購入を手伝ってあげよう』というお節介サギがいるという噂だ。
気合を入れないと辿り着けない気がしてきた。
疲れて早めにベッドに入ったはずの私だったが、例によって不安と気合で目が冴え、眠れなくなっていた。
<Tips10> 「WhatsApp」
日本ではメッセージアプリといえば『LINE』ですが、海外のほとんどの地域ではこちら、『WhatsApp』が主流でした。
*ヨーロッパ、南米、それから今回の旅では行きませんでしたが、東南アジアでもこのアプリを使用しているところが多い印象です。
LINEは日本とタイ、台湾で多くの人が、LINEの故郷韓国ではKaKaoTalkというアプリが主流のようです。
余談ですが、数年前バリ島に行ったとき、まだ使い慣れないこのWhattAppで『バトラー』(部屋に専属でついているお世話係)と連絡を取り合うシステムでした。『今からコーヒーを飲みに外へ行きたい。カフェへ連れてって。景色の良いとこ』とかメッセージすると、『喜んで。三十分後にフロントでお待ちしてます』などと返事がくるので感動しました。そんなわけで私はこのアプリには好印象を持っているのです。優しくされるとすぐ好きになっちゃいます。(何の話だか)
このホテルは『ワカ・ガンガ』今でもお気に入りのホテルです。
さて、さらにちなみに北米はiMessageというiPhoneの標準機能で搭載されているメッセージアプリを使う人がほとんどだと言います。Apple社というかiPhoneの強さがわかります。しかもですね、Android携帯を使っている人のメッセージは色が違って表示されるらしいんです。理由はわかんないのですが、何かちょっとやな感じです。フン。
Booking.comで予約したホテルや民泊などでもWhatsAppでやり取りすることが多かったです。使い方はほとんどLINEと変わりません。じゃあ英語への翻訳機能が優れているかというと、そういうこともないようです。
*むしろLINEの方が手軽に英語変換してチャットできる感じです。
ただしWhatsAppには広告がなく、また余計なサービスが少ないため、とてもシンプルで使いやすく感じました。LINEのタイムラインとかニュース機能とか友達登録とかいろんなスタンプとか、何かそういうの大好きな人もいると思うので結局好みの問題でしょうが、個人的には旅行ではこちらの方がいいなと。
読んでいただきありがとうございました。
私たちはこの謎の男、スアットさんのおかげで快適な数日間を過ごすことが出来ました。失礼なことを書いてしまって、申し訳ない気持ちです。次回は私の長年の念願、ブルーモスクを訪ねる旅です。よければまたお付き合いください。




