第23話:「ふふふっ♪ 落とし穴大作戦、楽しみです!」
『ほぇっ? 魔物さんで重量調整した方が、確実に落とし穴が発動できるのですけれど……ダメでしょうか? 効果的ですよね?』
『……うん、とっても効果的だと思うよ?』
『むー! 何か、おにーさんから投げ槍な雰囲気が伝わってくるのですっ! 私ちゃんは説明をよーきゅーします!』
そう言ってぷくっと小さな頬っぺたを膨らませるディル。
ぱっと見た感じでは可愛いんだけれど、うちのお姫様には何と説明をしたらいいのやら……と思っていたら、エゼルが横から助け船を出してくれた。
『ディル~、囮に使う魔物は、バッドやレイスといった飛行系の魔物にした方が良いぞ? 侵入者の視線が上を向くから落とし穴に気付かれにくくなるし、落とし穴が発動してもゴブリンとかと違って巻き込まれないから、ウチの被害を減らすことができるからな♪ 落とし穴の発動条件で重さが足りない場合には、バッド系が勢いよく着地することで調整も出来るし』
『あ、それ良いですね! 毎回、ゴブリンさん達が怪我をするのは心苦しかったんです(///ω)』
『……』『……』
『――ちょっ、何でおにーさんもエゼルさんも静かになるんですかぁ!! 私ちゃん、DCとして何か間違っていますか!!?』
『いや、ディルは間違っていないと思うぞ? なぁ、水島おにーさん?』
『あ、ああ。ごめんね、ディル。俺、まだ新米DMだから、普通のDMやDCの感覚が分かっていなくて……』
『むーっ! その言い方、まるで私ちゃんが「魔物さんを物みたいに扱うDC」みたいじゃないですか!! これでも私ちゃんは、魔物さんは使い捨てにしないタイプの優しいDCなんですよ? メリハリをつけているだけです!!』
そう言って言葉を区切ると、ディルは続きを口にする。
『だって毎日、朝と昼と夕方に怪我をしている子達は回復させますし、夜には死んでしまった子を蘇生させますし、12時間以上の連続勤務は原則禁止していますし、勤務時間外はゆっくりと休めるように魔物さん達専用の宿舎も用意していますし、4日ごとに1日は完全に休日を取れるようにしていますし、筋肉痛に良く効く温泉も宿舎には用意してありますし、この間は娯楽室だって作ってあげましたし――』
唇をぷくっとアヒルさんにしているディルだけれど、その話の中身を聞くと「魔物達を大切にしている」というのは本当らしい。そこまでの福利厚生を充実させるDPはどこからやって来たのかなという不思議はあるけれど。
……うん、ごちゃごちゃ考えずにディルに謝ろう。
『ディル、ごめん。俺、ディルのことをちょっと勘違いしていたかもしれない。ディルは優しいDCなんだよね?』
『エゼルもだ。すまんかった(Tω)』
『いえ、私ちゃんの表現の仕方も悪かったかもしれません。――でも、これから一緒にダンジョンを運営していくんですから、色々と知っていて欲しいことがたくさん出てきました。たくさん、情報の交換をしないといけないです!』
そう言うと、ディルが優しい笑顔を浮かべる。
『今日は、料理が得意な非番の魔物さん達が、ダンジョン産の果物で「DM召喚成功のお祝いケーキ」を焼いてくれるって言っていました。ちゃちゃっと侵入者さんを片付けて、おにーさんやエゼルさんをみんなに紹介して、楽しい懇親会をしなきゃです♪』
その言葉に、エゼルの尻尾がフリフリと揺れる。
『ケーキを焼いてくれるのか!? 楽しみだな(≡ω)♪』
『はいっ♪ みんな食いしん坊なので、沢山作ってくれているみたいです!』
ふと、そこで心配になったのはDPアタックの件。
あれは消費DPの1/1000のダメージを半径500mの味方に与えてしまう。
『……ちなみにだけれど、俺達のDPアタックの影響、非番の魔物達にはなかったのかな? 回復させなくて大丈夫?』
『大丈夫ですよ? 宿舎の方は、ダンジョンでDPアタックを使っても余波が届かないように、5㎞以上離した場所に作っていますから♪ ダンジョンの領域をほそなが~く伸ばして、飛び地を作ってみたのです!!』
『了解。それじゃ、安心だね』
『はいッ♪』
『それじゃケーキを楽しむためにも、早く侵入者を撃退するぞ(≡ω)』
待ちきれないと言った様子で尻尾をフリフリしているエゼルに、俺達は頷きを返した。
『それじゃ、一番近い落とし穴へ侵入者さんを誘導するということで、おにーさんとエゼルさんは良いですか?』
『んー、ディルに質問があるんだけれど。一番近い落とし穴って、落ちても即死することは無いのかな?』
女勇者に死なれると困るという俺の言葉に、ディルが大丈夫ですと首を縦に振る。
『はいっ♪ 基本的には、入り口近くのモノは「単なる深い穴」ですので大丈夫だと思います。土槍とかが生えている落とし穴は、最低でも3階層以降ですので』
その言葉に、エゼルが反応する。
『でも、打ちどころが悪いとレベルが低い女勇者は死ぬよな~(≡ω)? だったら、落とし穴の底に水を貯めてちゃダメか? それなら即死することは無いだろ?』
『そうですね! 酸性の消化液を入れておきますっ! それなら、即死することは無いですし――女勇者さんを助けた時の好感度も、何もしない時と比べて跳ね上がりそうです♪』
何気にディルが冴えている。多分、DCの研修で成績優秀だったのも、こういうプラスαなエグi――もとい、斬新な発想が出せるところが評価されたのだろうな。
味方でいてくれて、本当に頼もしく感じる。
……って、現実逃避している場合じゃない。
今の俺はDMなんだから、効率よく安全な狩りをする方法を考えねば!
『エゼルとディルのアイディア、良いね。俺も追加でアイディアを出させてもらおうかなと思うけれど……うちのダンジョンで「経験値が美味しい魔物」って何かいないかな? 経験値が美味しい魔物がいれば、侵入者はレベル上げのために来ているだろうから、きっと後を追いかけてくると思うんだ』
『あ~、分かるぞ。「はぐれ銀色スライム」みたいな感じだな♪ アレは経験値が美味しいから、エゼルもレベルが低い時には必死で追いかけて狩ったぞ(≡ω)!』
『はぐれ銀色スライムはいませんが、普通の銀色スライムならいますよ? ダンジョンの入り口付近ならDPアタックの余波からも生き残れた子達が何匹かいますし――そうですね! 1~2匹じゃなくて、まとめて5匹くらい囮に使っちゃいましょう♪ そうすれば、侵入者さん達は目の色変えて追いかけてきてくれそうです!!』
『これで落とし穴までの誘導は何とかなりそうだな♪ 水島おにーさん、落とし穴に落とした後はどうするんだ?』
ふむふむと頷いた後に、エゼルが俺に聞いてきた。ディルも興味深げな瞳で俺を見ている。
『そうだね、取りあえず落とし穴に落とせたら、次は女勇者だけ生き残らせる必要がある。具体的には、弓矢を持たせたゴブリンやコボルトを使って、穴の上から騎士達だけを攻撃させようと思うんだ』
『ふむ? それで? その後はどうするんだ?』
『きっちり騎士達をDPに変えた後、落とし穴の上のゴブリンと俺達が入れ替わる。あくまでも、冒険者が「偶然、落とし穴に落ちた別の冒険者を発見して助けた」という雰囲気に持って行こうと思うんだ』
俺の説明に、ディルが不思議そうな顔をする。
『……なるほどです。でもそれじゃ――騎士さん達がDPになる前に、女勇者さんが死ぬ可能性も高くありませんか? レベルが低いんですよね、流れ弾とかが危険そうですよ?』
『そうだね。いくつか作戦を詰めないといけないことが有ると思う。流れ弾の他にも、消化液を強酸性にしておくと女勇者のHPがもたないだろうから、濃度を調整した方が良いとかさ?』
『エゼル的には、落とし穴に全員はめる必要があるのか? とかも考えた方が良いと思うぞ。あえて分断したり、女勇者だけ落とさないのも、作戦としてはアリだと思うからな(≡ω)b』
『そうですね……分かりました、もう少し作戦を詰めましょう!!』
真面目な表情で色々と考えているディルの声。俺もエゼルも、そんなディルを見て首を縦に振る。
そしてディルが、紫色の瞳を輝かせながら――小さく微笑んだ。
『ふふふっ♪ 落とし穴大作戦、楽しみです!』
(次回に続く)




