第24話:「助けるから――あと3分だけ我慢してね?」
『ふふふっ♪ 落とし穴大作戦、楽しみです!』
――ディルがそう言ってから15秒が経過した。
時間にしては15秒。でも、思考を1000倍以上に加速させた俺達にとっては、約3時間に相当する長い打ち合わせだった。
打ち合わせの途中、「落とし穴じゃない方が良いかも?」という方向性に行くこともあったものの、最終的には当初の予定通りに「女勇者や騎士達を落とし穴に落として、後から助ける」というマッチポンプ形式で作戦を決行することになった。
思考加速を止めて、3人で顔を見合わせる。
「それじゃ、早速、女勇者さん達を落とし穴に誘導しますね♪」
「ああ。銀色スライムで誘導するのだ(≡ω)」
「魔物の誘導は、ディルに任せたから――エゼルと俺は、女勇者を助ける準備をしようか?」
具体的には、まずは服装を着替えないといけない。
エゼルは今の、天界に所属する天使の格好の方が、相手が油断してくれるからそのままで良いのだけれど……俺は着替える必要がある。
さすがに、今の格好のままで異世界人である女勇者の前に出ることは出来ない。
モニター越しに見える女勇者の外見は、黒髪で黒い瞳。召喚された転移者という条件で考えるなら、まさしく日本人のソレである。
俺が召喚された世界と同じ時間軸や世界軸の人間かは分からないけれど、残業中に来ていた服装のままこっちに召喚された俺の姿を見たら、俺が日本出身だとバレてしまう。
それは、今回の作戦的には不味いのだ。
「エゼル? 適当な中級冒険者っぽい装備をDPで出してくれるかな? 剣は使えないから、魔術師風な軽めの装備でお願いね」
「了解なのだ♪ 初DP取り寄せ、やってみるぞ(≡ω)b」
そう言って、ワクワクした表情でエゼルが空中に手を伸ばす。
思考加速中の打ち合わせで、俺と契約したエゼルもDP取り寄せが使えるようになったのだ。
ちなみに、別に手を伸ばさなくてもDPで物品を取り寄せることはできるのだけれど……まぁ、中二病ちっくなことが好きなエゼルだから、生温かい目で見守ってあげよう。
「魔黒狼のローブとブーツ、魔黒檀の杖と魔力増幅のアミュレットよ、エゼルの前に現れるのだ!! ど~ん(≡ω)!!」
エゼルの掛け声と同時に、黒いローブと黒い杖と赤色の宝石が付いた首飾りが空中にふわふわと浮いて現れた。
「水島おにーさん、受け取るのだ♪」
「ありがとう、エゼル」
そう言って空中に浮かんでいる装備品を受け取る。
「それじゃ、すぐに着替えてくるから。ディル、リビングで着替えても良い?」
「はい♪ 私ちゃんは覗かないので、安心して着替えてきてください!」
「その言い方、エゼルが覗くみたいじゃないか! エゼルも、覗かないぞ(≡ω)ノシ」
「あはは、まぁ、急いで着替えてくるから。ディルは誘導を引き続きお願い。エゼルは、いつでも出れるように装備品の確認をお願いね?」
「「了解です!!」」
2人の元気いっぱいな声を聞いた後、装備品と服を持った俺は作戦室からリビングに移動する。
別にローブを羽織って靴を履き替えるだけだから作戦室で着替えても良いのだけれど、何となくマナーとして違う部屋でした方が良いかなぁと思ったのだ。
「さて、ちゃきちゃき着替えましょうか」
最初にブーツに履き替えて、残業中に来ていた服の上着の上にローブを羽織って、首飾りを付けて、魔黒檀の杖を持つ。ローブの前を閉じれば、ぱっと見た感じでは日本の服装だとは分からなくなった。
「さぁ、準備完了かな♪」
時間としては、2~3分も経っていない早着替えだったと思う。そして作戦室に戻ると……あれ?
「あ、お帰りなさい、おにーさん♪」
「水島おにーさん、見てくれ♪ あいつら全員、落とし穴にきれいに落ちたぞ(≡ω)v」
エゼルが指さしている先には、腰まで消化液に浸かって、慌てている騎士達と女勇者の姿。
「お~、ちゃんと生きているっぽいね? ゴブリンとコボルト部隊は?」
「あと15秒で落とし穴の上に到着します!」
「銀色スライムは、落とし穴には落ちなかったんだよね?」
「はい! 銀色スライムは、素早くて軽いですから無事でした♪ ――あっ、ゴブリンとコボルト部隊の包囲が完了です!! 弓矢を射かけても良いですか?」
「うん、作戦通りにやっちゃって♪」
「了解です。――ゴブさん、作戦開始です!!」
『了解デス、御嬢。お前ラ、作戦開始ダ!』
テレパシーでゴブリン&コボルト混成部隊のリーダーのゴブさんから返事が返ってくる。語尾がちょっと片言だけれど、ディルのことを「御嬢」と慕っている忠誠心の高い部下である。
今回の作戦は、落とし穴に落とした騎士達を無力化させて、生きた状態で全員を捕縛することが肝心だ。最初は騎士達はコロコロしてDPに変える予定だったけれど、とある理由から生かすことになったのだ。
そのため、まずは戦闘力のある騎士達から、冷静な判断力を奪わなければならない。
『『『ゥオォォォーーン!!』』』
コボルト達が威嚇の声をあげて「矢じりのついていない」矢を射る。
あえて遠吠えをさせることは俺達の作戦通り。洞窟に反響する声を利用して、落とし穴の上に沢山のコボルトがいると騎士達に錯覚させるのだ。
矢じりを付けていないのにも理由がある。捕縛した後に、話し合いの中で騎士達に警戒されたり、意固地になられたりするのを防ぐためだ。
「――っ!? 落とし穴の上に、ゴブリンアーチャとコボルトアーチャがいるぞ!?」
「リカルドとサフランは盾を構えて勇者様を守れ! 俺は魔法障壁を張る――っ!? 魔法が使えないだと!!」
「ちょっ、ケイン、早く障壁張ってよ!!」
「ダメだ! 魔力が吸い取られる! この落とし穴、魔法無効化空間になってやがるぞ!!?」
「――うそっ!? このままじゃ、私達、弓で殺されるわよ!?」
「っ!? ――石まで投げて来やがった!! このままじゃ、俺達、生き埋めだ!」
「いやぁぁぁっ!! 私、こんなところで死にたくないっ!!」
「勇者様、大丈夫です、私達がお守りします!」
良い感じに修羅場になったところで、ゴブさんが「とある魔道具」を落とし穴の中に放り込む。
ソレは消化液の中に落ちた瞬間、ぶしゅーーという激しい音を立ててガスを吐き出す魔道具。
「っ!? 毒ガスか!?」
「不味い、息を止め――」
「っく、眠りのガスを、何故ゴブリンなんかが持ってiru――」
騎士達3人が昏倒して消化液に頭から突っ込んだ状態になった中、状態異常耐性の装備品を持っていた女勇者だけが意識を保っている。
「ふぇっ!? ど、ど、どうしよう!?」
3人の騎士が昏倒したところで、投石や矢を射るのは中止させている。当初の計画では3人の騎士を、ここで矢で射ってからトドメを刺して、DPに変える予定だった。でも今回の作戦では、全員を生かして捕縛しないといけない。
「……うぐっ……ひぐっ……このまま、溶けて死ぬなんて、いやぁ……」
さて、全ては作戦通り。
この後、もう少しだけ精神的に追い詰めてから、俺とエゼルが『偶然』通りかかることになる。
「さて、エゼル、落とし穴の近くに転移しようか?」
「了解なのだ(≡ω)b 転移魔方陣は、右から2つ目だったよな、ディル?」
「そうですよ♪ 右から2つ目です!」
ディルの言葉に頷いて、俺とエゼルは部屋を出る。
向かう先は、転移魔方陣の部屋だ。うちのダンジョンには、DCやDM、そして配下の魔物達だけが使える転移魔方陣が張り巡らされている。そして、このディルが作った拠点にも、ダンジョンの中を行き来することが出来る転移魔方陣は用意されていた。
部屋を出る時、モニター越しに泣いている女勇者の声が聞こえた。
「サフランさん、リカルドさん、ケインさん、起きて下さいっ!!」
ちらりと画面を見ると、倒れて消化液に顔が浸りそうな状態になっていた3人の顔を、女勇者が必死に上に向けていた。
正直、ちょこっとだけ罪悪感を覚えてしまう。
「ごめん。もう少ししたら、助けるから――あと3分だけ我慢してね?」
思わず、小さく呟いていた。
(次回に続く)




