第22話:「ダメでしょうか? 効果的ですよね?」
『普段は死ぬことを嫌っているのに、本能レベルで死を恐れない軍隊は――最強ですよね?』
一瞬、返す言葉が口から出なかった俺。
けれど、エゼルは嬉しそうな声色でディルに返事をしていた。
『嫌らしいくらいに、最強だな~。良い考えだ(≡ω)b』
『ですよね! ありがとうございます! エゼルさん!!』
ドヤ顔と悪い顔ではしゃぐ2人に、そしてそれを自然と受け入れている俺自身に、良い意味で俺は驚いていた。
今、ディルが言葉にしたことは、俺がいた日本で口に出したらガチで引かれる内容だろう。過労死とかパワハラとか、いろいろと社会問題になっているし、死んでしまったら蘇生なんてできない世界だったから。
でも、今の俺達の立場を考えると、頼もしいという言葉に置き換わる。
ディルがダンジョンの魔物とどんな関係性を築いているのかは、まだ聞いていないので分からない。けれど、ここまでの会話で少なくとも、今日までの間に「4回以上蘇生召喚をした魔物」がそれなりの数存在しているということは事実らしい。
それは、俺の想像が正しければ――お金やDPで買えない、うちのダンジョンの必殺の切り札になりうるだろう。
『ディルは、凄いのな?』
『エゼルさん、褒め過ぎですよぉ~♪』
『いや、マジで凄いから。ゴブリンとかスライムを指揮するのは難しいからな?』
『えへへ~、ありがとうございます』
楽しそうにじゃれている2人のテレパシーを聞きながら、俺は鳥肌が立つような思いだった。
だって、普通なら「自己犠牲が出来る軍隊」は総じてコストが高いのだ。
兵士のモチベーションや作戦遂行能力を高めに維持するためには、それなりの知識や経験や報酬が必要だし、ベテランになればなるほど「それまでに掛かったコスト」があるので死なれると困るのだ。
でもそれを「低コストで復活させることが出来る軍隊」に一部でも置き換えられるとしたら? そして、低レベルと言われている魔物達全員の能力を、死を意識させることで底上げすることが出来たら?
――俺達のダンジョンの可能性や選択肢は、大幅に広がると断言できる。
そんな風に長考していたのをテレパシーで読んだのか、嬉しそうな声がディルから飛んでくる。
『おにーさんに、いっぱい褒めてもらえたみたいで嬉しいです♪ 魔物さん達には、これからもドンドン頑張ってもらいますね!』
『あんまり、過酷な任務はさせないようにね? やり過ぎて士気が下がるのは、避けたいから』
『分かっています♪ 飴と鞭は使い分けるのが、DCの腕の見せ所ですもんっ♪』
そう言って微笑むディルが頼もしい。俺も、すぐに追いついて見せる。
『ねぇ、俺にも後で魔物への指示の出し方を教えてくれるかな? DMが魔物を扱えないっていう訳にはいかないしさ』
『ハイッ、もちろんです! ダンジョンの魔物の指揮権は、本来はおにーさんの方が上ですから、任せて下さいっ♪』
『よろしくね。俺のDMの知識によると、ゴブリンやスライムへの指示の出し方って、コツがいるらしいから』
そう言って、俺は壁面のモニターに目線を送る。
モニターの情報によると、うちのダンジョンの魔物は「ゴブリン系、スライム系、コボルト系、バッド系、他少々」が現在いるようだ。しかし、ざっと見た感じでは、レベルや魔物としてのクラスは高いとは言えない。
魔物としてのクラスが一番高い子でも、サキュバスの『サキ姐さん』という名前の子――おそらく、魔物幹部4人のうちの1人――がいるくらいだ。
加えて俺が持つDMの基本知識には――「ゴブリンやコボルトとは普通に会話ができるし、スケルトンやスライムともテレパシーでやり取りができる。だが、基本的に彼らの能力や知能は低い」となっていた。そして、付け加えるように「言葉は悪いが、せいぜい5DP~20DPで召喚する、使い捨てや水増し用の雑魚である。指示や命令は簡単な事しか聞いてくれないので要注意!」――という情報までも、しっかりと入っている。
だからこそ、ディルがどうやって魔物達に指示を出しているのか興味があった。
『そうですね……おにーさんのDMの基礎知識や、私ちゃんがDC研修で学んでいた「低クラスの魔物さんの知能は低い」っていうのは、多分、私ちゃん達のダンジョンには全然当てはまらないですよ?』
俺の頭の中を読んだのだろう、少し真面目な声で、ディルが俺に話しかけて来た。
『そうなの? そりゃ、インプットされたDMの知識が全て正しいとは、俺も思ってはいないけれど……?』
『はい。だってうちの魔物さん達は、みんな読み書きや簡単な計算が出来ますし、中には読書や漫才が趣味っていう子もいますから♪』
『へ~、読者や漫才をするんだ?――って、ゴブリンが漫才するのっ!?』
思わず聞き返した俺の言葉。それに被せるように、エゼルも驚きの声をあげていた。
『ちょっ! そんなの、エゼルも聞いたことないぞ!!?』
『はい、私ちゃんも不思議だと思うんですが……この前、私ちゃんが一人で退屈してた時に「なんか芸して欲しいですっ♪」って適当なゴブリンさんとスライムさんにお願いしたら、結構笑えるドツキ漫才をしてくれましたよ?』
ディルがゴブリンとスライムに無茶振りした事実は横に置いておいておく。
『……エゼル的には、どんな中身か気になるぞ?』
『気が合うな、俺もエゼルと同じ意見だよ。でも、今は侵入者がいる状態だから、話を脱線させる訳にはいかない。後で、本人というか本ゴブリン&本スライムに実演してもらおう??』
『それ、良いな(≡ω)♪』
俺達が後で無茶振りする事実も置いておく。……っていうか、うちのダンジョンの魔物達は賢すぎないですか?
『ちなみに、ディルに参考までに聞いておきたいけれど――ゴブリンやスライムが漫才出来るようになった理由について、思い当たる節はある?』
『……チラッ……ありませんよ?』
何か、ディルのテレパシーが明らかに乱れた。
うん、何かしたんだよね、ディルさん? やっぱりというか、何というのか。
『本当に何も思い当たらないの? ……怒らないから、本当のこと教えて?』
『うぐっ……』
いやほら、俺達、DCとDMで運命共同体ですよね? ダンジョン関係の隠し事って、しちゃ不味いと思うんですけれど?……っていうか、隠さないといけないことなのだろうか? おにーさん、ちょっと心配になってきた。
『……そうですね……えっと、魔物召喚をする時の魔法に「パラメーターのランダム調整」ってコードがありまして……』
『ふむふむ、パラメーターの調整ね? それで?』
『本当は、召喚魔法のパラメーター、冥界の神々が設定しているところだから……多分触っちゃいけない部分なんですけれど……そこの数値を、全部MAXになるように、ちょこっと書き換えてみたら――』
『書き換えてみたら?』
小さく一呼吸置いて、ディルの可愛い声が聞こえて来た。
『召喚される魔物さんが、み~んな強くて賢い子になっちゃいました! てへっ♪』
ディルは可愛いなぁ……うん。
『――エゼル、ごめん。どの子でも良いから、うちのダンジョンの魔物のステータスをモニターで見てくれないかな?』
『ん、見たぞ?』
『で、どれだけかな?』
『軽く2~3倍は違うな~(Tω)ノシ 多分、コレ、天界や冥界の神々にバレたら怒られるぞ?』
『でも、エゼルは瞬殺していたよね? なんかおかしいって気付かなかったの?』
『いや、いちいち雑魚だと分かっている相手を鑑定すると思うか? 出会った瞬間に、光魔法で消し飛ばしていたから気付かなかったぞ。マジで!』
『でも、普通の人間なら?』
『……明らかに、強すぎるってバレるな♪』
どうしようと固まった俺とエゼルの頭に、ディルの明るい声が聞こえて来た。
『あの、良いこと思い付きました! 侵入者さんを落とし穴に嵌める時には、魔物さんに落とし穴へ誘導してもらうのはどうでしょうか?』
『うん、さっきの話を聞いていて、俺もそれが「簡単に」出来そうだなって思ったよ……』
脱力しかけた俺でも理解できる。
絶対、即席でドツキ漫才出来る魔物なら、上手に落とし穴まで侵入者を誘導してくれるだろう。
『ええ♪ 落とし穴の強度を4~5人以上乗ったら崩れるようにしておけば、逃げる魔物さんを追いかけて来た侵入者は、魔物さんごと一網打尽ですね♪』
『『えっ!? そんなことさせるの!?』』
……何気に、うちのディルさんが怖いんですけれど? いつも天然系なのは人工だったのでしょうか?
『ほぇっ? 魔物さんで重量調整した方が、確実に落とし穴が発動できるのですけれど……ダメでしょうか? 効果的ですよね?』
(次回に続く)




