魔王様求婚
「俺の妻になれ」
…ん?
魔界に来たからだろうか…耳の調子がおかしいのかもしれないな…魔王様の言った言葉がどうにも理解できない。
妻?…いやまさかな…
ツマ…とか?
考えれば考えるほど混乱してしまう。
「…ツマとは?」
俺は考えることを諦めた。
「隼人様…戸惑うお心お察し致します。魔王様は生涯の伴侶として、隼人様を必要としておられるのです。」
なんと素晴らしきことでしょう…とうっとり微笑むレヴィさんに俺の脳内はさらに混乱した。
生涯の伴侶…ってあれだよな…え?
ツマって…え?妻…?
奥さん…!?
でも俺男だし奥さんにはなれないし…初対面だし…魔王だしっ!
ちらりとサタン様を見れば、
「っ…」
ギラギラとした瞳で俺を見ていた。
瞳の色が色なだけに怖さ倍増している…
やばい、やばい…これは下手なことを言ったら星にされるかもしれない…
サタン様の腰に下げた刀の鞘が視界の片隅に入る。
…さすがに…いや、わからない。
相手は魔王だ…まだ死にたくない。
「あ、ありがとうございます…?」
気づけば何故かお礼を述べていた…
「嗚呼。」
満足そうに笑うサタン様…これは本格的にやばい…
「あ、あの…!俺、お、男なんですけど…」
「知っている。」
あ、そ、そうきたか…え、えっと…が、がんばれ俺…
「そ、その…奥さんにはなれな…ひっ」
奥さんにはなれない。
その言葉はサタン様に遮られた。
サタン様の指が俺の口元に触れた。
皮の手袋の感触が伝わる。
「ほう…なるほどな。」
ギロりとした視線が俺を見つめる。
絶対零度とはもしかしたらこういう感じなのかもしれない…
冷たい視線を受け固まる。
やはりサタン様は怖い…
さすが魔王…空気が張り詰める。
…
「クッ…」
へ…?
突然途切れた沈黙。
声の方を見ればサタン様が口元を多いながら笑っていた。
ど、どうしたのだろう…
「ククク…面白い。益々気に入った。」
未だ呆気に取られている俺にサタン様はしばらく笑い続けると満足そうに俺の頭に手を置いた。
ぽんっと優しく置かれた手は大きく、何故かとても落ち着いてしまった。
「隼人。…俺はお前を手に入れる。…確実にな。」
ふっ…と優しい微笑みを落とすと魔王様は目を細めた。
それは愛しいものを見るようなとてもとても優しいもので…
絶対零度からのこれは…ずるいを通り越して、危険だ。
「お、お手柔らかにお願い致します…」
震える声を振り絞る。
…嗚呼
誰か助けてくれ。