第三十二話 楽園の向こう側(四)
(壱)
汲めども尽きせぬ。
果つることなき渇望と破壊へのやみがたき衝動が惑溺性すらともなって、少女を、そしてこの空疎な夢幻空間を支配する。彼女のなかで定められたプログラムが完全に作動しようとしていた。
プログラム名は無名もしくは終わりの刻 (ドゥームズデイ)。
(屠れ。惨殺せよ。その手にとどくすべてを)
(ただ殺戮のみが、魂をうち振るわせて歓喜を呼び覚ます。絶頂の極みでのみ到着しうる忘我の境)
ルラハ リル ラル リ ハルラリル ラル ルラ レ
ラルハ リ
見るも毒々しい硫酸とへどろの腐海。
その水面を海霧のごとく漂うのは、水底の黄泉つ国の挽歌。
破滅へと駆り立てる陶酔と幻惑の調べ。
その音楽の魔法によって、異形の獣人たちが巨人となって立ちふさがった。
「ちっ」
鬼神のごとき進撃を妨害されたゲイルの双眼が怒りに燃えた。
それは、陰気な土気色の男の顔を持つ獣や下等生物の一部が継ぎ接ぎされた四柱の巨大な獣神像。
スフィンクスもとい獅子人間ウリディンム、蠍人間ギルタブリル、魚人間クリール、牛人間クサリク。膝の辺りまでへどろに浸ったアーケイックでグロテスクな怪人たちは、時折締まりのない動きで周りを飛び交う戦闘機を煩わしい小蝿のようにはたき落としながら、岸壁に彫り込まれた古代の彫像のように屹立した。
贄として供された動物や人間の血肉を腐泥に練り込んだ体躯の放つその忌まわしい腥気に恐怖とは無縁の少女も嘔吐くほどの嫌悪感を抱いた。
少女は強く念じると再び青銅の大剣を手にした。
巨神たちの動きは驚くほど緩慢だった。いやむしろ、少女があまりにも俊敏だった。
少女は定められた座標を一足飛びにすり抜けて、ウリディンムの目前に現れると、果敢に、ひたぶるに、縦横自在に、虚空に影のごとき翼を翻して、愚鈍なる敵を翻弄した。その憂いを帯びた双眸に甘美なる絶望と凄然たる歓喜とを交互に燦めかせながら。
転位に次ぐ転位に獅子人間は眩き、捻れ、やがてその神性と獣性の織りなす世界像ごと解体されようとしていた。
「虚仮威しの木偶よ。貴様にふさわしい土塊になるがいい」
そう吐き捨てると、目にもとまらぬ速さでウリディンムの額に剣を突き刺した。少女の言葉通り土の塊のようにひび割れていく。魁偉なる巨神はもろくも崩れ落ちた。
だが、空爆部隊は途絶える気配を見せない。
終わりの見えぬ戦いは続く。
(キリが無い)
少女の銀光を発する両眼がかっと見開かれた。
放物線を描くベクトルはもはや見えない手によって繰り畳められ絡みついた。この輪環に結ばれた宇宙で時は収斂しはじめた。
やがて少女の存在は三つに分岐すると、ほぼ同時といっていい瞬間に残りの三体を撃砕した。
(すごいね。物理法則を改変する力すら身につけたよ)
(なによりもマトリクスを自在にゆがめるあの軌跡。まさに超速のスピードスターだ。彼女は時間と空間を制した)
(これはおちおちしてられない。座標が狂い始めた。いずれ隔壁が崩れてしまうよ)
ルラハ リル ラル リ ハルラリル ラル ルラ レ
ラルハ リ
少女の身体は再び統合された。
水底からは、巨人たちを生み出したと思われる深淵なるもの、海の魔女ラハムの歌声が聞こえる。
生まれたばかりの乾坤。
いまだ光は届かない。
地は混沌。
闇が深淵を覆う。
水面に漂うのは得もいわれぬ霊気。
ルラハ リル ラル リ ハルラリル ラル ルラ レ
ラルハ リ
ゲイルは、その蠱惑の調べから逃れるように上昇した。
漏斗形に逆巻く嵐雲の周りを旋回しながら、遙かなる上天を目指す。
その行き着く果てには、焄蒿悽愴を為す孤高の獅子ウガルーが放電する茜色の雲海を踏みしめ、咆哮を轟かせながら新たなる空爆部隊を生み出しているだろう。
だが、雲外へとたどり着く直前に目に見えぬ敵、凶暴剽悍なる暴嵐ウム・ダブルチュの太い腕に捕らわれた。形なき大渦に雁字搦めに締めつけられ、翼と四肢の自由を奪われた。綿のような羽が飛び散り、翼は無惨にもぎ取られた。激しく錐もみしながら少女の肉体は四方八方の見えない壁に叩きつけられた。
「まやかしよ、失せろ」
ゲイルは念じた。
そう、これは何ものかの夢、所詮想像の産物なのだ。
やがて少女のなかの内なる無があふれ出す。殺伐と、雑然と、醒めた感覚が個を飛び越えて世界を満たしていく。雑駁たる(無)が竜巻はおろか巨大な乱雲、そして世界の半分を占めたとき、少女は自らが生み出した虚無空間に呑み込まれた。
(なんてこった。座標ごとふっとんじゃった)
(やれやれ、この修復は容易じゃないね)
(容易じゃないどころか、このクラックは修復不可能だ。ああ、マトリクスがどんどん壊れていくよ)
(弐)
!
見えない指で既知のパラメータが投入されると、場面はあっさりとこの探索の旅の終局地点へと遷移した。
暗い、暗い地の底。
気がつくと、ゲイルの肢体は十字の形につり下げられていた。もはや翼は失われた。天上から垂れ下がる気味の悪い蔦が身体にきつく巻きついている。
地下牢は大地の子宮に見立てられた蛇穴のごとき丸いぽっかりとした空間で、わずかに光を通すぬらぬらと赤い岩壁が生きているかのようにどくどくと波打っていた。
「さすがだな、レッド・スワン」
予想通りその胸に嬰児を抱いた太母ティアマットが目前にいた。フードを深くかぶり表情は伺えなかったが、腕のなかの血にまみれたように赤い顔をした嬰児は何とも形容しがたい邪悪な表情をしていた。
「そなたの連れも答えをみつけたようだ」
ティアマットが指さすと、何もない空間に球体の立体映像が現れた。
水晶のごとき球のなかには、椰子の木陰で、若いイムナン・サ・リとエフェルメが一冊の本を共に読みながら寄り添う姿が浮かび上がっていた。少女はかっと身体が熱くなるのを感じた。
「だが、そなたの戦いはこれから」
ティアマットの指が立体映像に触れると、たちまち彼らは形を失い七色の粒子となって渦巻くとそのまま光の球となった。
「何をする!」
光の球はそのまま膨らんで、立体映像から飛び出した。
「プログラム、すなわちそなたの連れの意識と属性を転位しただけだ。あの役立たずのカーネルの最期の仕事だ。このままでもかまわんが、可視化した方がそなたにも解り易かろう」
ティアマットは光の球に手を伸ばして包み込むようになぜた。すると再び光は渦巻き、やがて一糸纏わぬ少年の形になり宙に横たわった。ほんの一瞬エフェルメの残像が少年の頬に口づけて消えていくのがみえた。
「さて、今からこの男の罪を数え上げよう。キングーや、お前の出番だ」
ティアマットは赤子の両の足首を片手でつかむと、もう一方に握ったナイフでその喉を掻き切った。それは見るもおぞましい光景だった。鮮血が赤い肌をさらに赤く染めた。赤子は最期まで不敵な笑いを浮かべたままだった。
赤子は八つ裂きにされると、みるみるうちに頭上から逆しまに生えた石榴の木に変化した。石榴は濃緑の葉を密に茂らせ、梢の先に十顆の丸い果実を実らせていた。この解体と変容の魔法を通して、赤子はいまや無意識の森に深く秘匿されていた神話的な隠喩となった。あらゆる悪と罪とを含意する……。
「ここは、シトラ・アフラ。楽園の真下にある逆しまの闇の国。そしてこれは悪の木クリフォト。この実ひとつひとつが殻。生命の木の実の余剰なる部分が流れ出たもの。そして、同時にこの男の犯した罪でもある」
ティアマットは石榴の実をひとつもぎ取った。
「第一のクリファ、サタンの無神論。神無き世界。この男の無意識の底を浚い、薄らいだ記憶も修復してある。まずはこれが始まりだ。」
丸く膨らんだ果実がパチンとはじけると、少年の記憶の断片が血のように紅い果肉の粒となってこぼれ落ち、少女は意識を失った少年の心象世界のなかに引き込まれた。
ざっくりと割られた石榴の実のように紅い未明の荒野。
硝煙の燻りのなか、黒い瞳の幼い少年は、よく似た小さな少女を連れて必死に逃げていた。金や銀の光る眼を持つ恐ろしい殺戮者たちから。だが、あっけなく捉えられた。
夜明け前だった。もうすぐ無慈悲な太陽が東の果てから昇る。
「このチビどもを逃げられないよう鎖につなげ。こいつらは末恐ろしき魔性の子らだ。情けなどいらぬ。陽のひかりで焼き殺せば我らにラ・ウのご加護があろうよ」
幼子に非情なる刑を命じる声はよく知るものであった。顔を見ずとも解った。それは若き日の父アルムントだった。
(ルー、大丈夫だよ。ルー、お前は僕が守る)
殺戮者たちが立ち去ると、少年は小さな身体で精一杯少女を覆った。致死光線がじりじりと少年を射貫いた。恐るべき拷問。少年はうめき声をもらさぬよう歯を食いしばった。
かろうじて生き残った少年の救い無き物語はつづく。
ベルゼバブの愚鈍、ルキフグスの拒絶、アスタロトの無感動、アスモデウスの残酷、ベルフェゴールの醜悪、バールの色欲、アドラメレクの貪欲、リリスの不安定―――被爆の後遺症、兄たちとの軋轢、錠前屋の愛人時代、満たされない想い、虚脱と怠惰に満ちた自堕落な日常、実らなかった初恋と悲劇的な結末、やがて訪れた流血の大惨事。
石榴の紅い実がもぎ取られるたびに、少年の秘めやかな罪が明らかとなり、タルクノエムを放逐されるまでの不幸な軌跡がやるせなく通り過ぎた。見るものの憂愁の情を掻き立てずにはおかない眩く幻灯のように。そのひとつひとつの絵が鋭い痛みを伴ってゲイルの胸に突き刺さった。
もうこれで充分だった。それ以上知りたくなかった。
「第十のクリファ、ナヘマーの物質主義。すなわち信仰の、愛の欠如。これが最後だ」
とどめを刺すかのような勝ち誇った声が響いた。
サイラスの都。色のないセピアの闇のなか。
タルクノエムを放逐された少年は心地よい小部屋に設えられた寝椅子にしどけなくもたれかかると、その涼やかな美貌を皮肉めいた嘲笑でゆがませていた。
「真面目に聞いているのか、お前の使命は―――」
異形の女が少年の目前にいた。
「ええ、解っていますよ。フィポスメリアのウズリン族の居住地に潜入し、アルムントの年若き世継ぎとその妹を共に籠絡させるのでしょう。とても退屈な任務だ。兄は切れ者らしいから多少骨があるでしょうが、田舎娘までとは、ね。しかもまだほんの子どもだという話だ」
「良いか、重要なのは娘の方だ。人形遣いよ、お前の美貌と能力を惜しまずに娘を掌中に収めるのだ。決して背かぬよう身も心も奪え。成人した暁には文字通りお前の人形となるよう」
「まあ、いいでしょう。でも、どうやってその閉鎖的な蛮族に潜入するのです。商人、癒し手 (ヒーラー)、呪術医、いいや、この際だからはったりをきかせて、おどろおどろしい妖術使いにでも扮しましょうか。そうだ、それがいい。我ながら名案だ。だが、問題があります。ケスの民はまだ谷の記憶から完全に消えてはいない。特に討伐隊の首領だったアルムントはいまだ健在。僕の素性に疑問を持たれたらやりにくい」
「奴らはお前たちを生きたまま陽の光で灼こうとした。あの状態でケスの世継ぎが生き残ったとは思わんだろう」
女は硝子の薬瓶を少年に差し出した。
「なんのために、わたしがお前にありとあらゆる毒性学、暗殺術を伝授したと思う。怪しまれぬよううまくやるのだ」
少年は所在無げに薬瓶を手にすると、眼を眇ながら黄みを帯びたナトリウム光に透かした。
「砒素ねぇ、これはますます気が滅入る任務だ」
「解っているだろうが、アルムントはお前にとって慈悲をかける必要などない男だ。事は急ぐな、怪しまれぬよう緩慢に命を奪うのだ」
少年の貌にいわく言い難い虚無的な表情が浮かんだ。
「まあ、せいぜいうまくやりますよ。お祖母様」
(参)
苦き水から形成された太古の海。
ゲイルを取り巻く世界はいつのまにか暗い夜の海に変じていた。
かすかに鼓動にも似た波音が聞こえる。
幼いイムナン・サ・リを無惨にも処刑しようとしたのは、あろうことか彼女の父だった。そして、幼い彼が命を縮めても守ったのはあの憎むべき兄嫁ルー・シャディラ。彼が生涯をかけて愛しているのはおそらく不幸な恋の相手のエフェルメであり、ゲイルといえば復讐の相手であり天空の鍵を開ける道具にすぎなかった。そして父アルムントの末期的な病状は、おそらく冷酷な暗殺者である彼の手によって・・・・・・。
黙過しがたき真実の暴露に少女は悄然とうち萎れた。
解っていたはずだ。初めから世界が違いすぎた。彼と少女の生きる道は何ひとつ重ならない。共通のことなど何もないのだ。魂もまた。
先ほどの椰子の木陰に憩うふたりの情景が否応なく思い起こされた。彼らは彼女が決して理解し得ない高い次元の精神性で強く結ばれていた。
無音の世界に波音がかすかにさざめく。
しめやかな夜凪の海。
沈黙と反復とがゆらいで、響き合うこの無上のハーモニー。
寄せては返すその癒しの調べは少女の苦悩にひっそりと寄り添い、慎ましく同期する。
与えられた事実の衝撃から、絶望に裏打ちされた圧倒的な虚無感が深く静かに少女を包み込もうとしていた。いまや彼女を取り巻く世界はぼやけ、ゆっくりとかき消えようとしていた。
その時、ぽたりと水滴が落ちた。滴る雫は足下を満たす静かな夜の海に吸い込まれていく。
ゲイルは自らが泣いていることに気づいた。
この空疎な世界を占めるのは、喪失の虚空ではなく落涙の海原だった。
この涙は誰のもの?
ああ、お前のものだな、サ・リ。
お前は自らの境遇を悲しむことも、受け入れることもなかった。愛を請う絶望的な希求のなかでひたすらに怒りと憎悪を持てあまし、いつだって自暴自棄で、自らを傷つけ、誰かを憎むことしかできなかった。
だから、お前の代わりにわたしが悲しもう。
満たされぬ想いを埋めるように、ひたひたと悲しみの感情が押し寄せてきた。
それは、慈愛にも似た不思議と柔らかく暖かな感情だった。その温もりは清らかなる祈りとなって、彼女自身の凍える魂を優しく抱擁した。
突然脈絡もなく、少女は子どもの頃のある記憶を思い出した。今となっては遠く懐かしい思い出だった。
懐かしいフィポスメリアのさやけき星空のもと。
いつもの石切場で男は少女に星々の興亡の歴史を話してきかせた。そのお返しに、少女は彼女しか知らない世界の秘密を教えてやることにした。
北の果てに大風を起こす木が生えている。それはそれは大きな橿の大木で、その大枝が揺れると風が巻き起こるのだ、と。
少女が語る幼い神話に男は笑った。不用意に笑ったことで少女の機嫌が損ねられたことに気づくと、慌てて言った。
「では、いつかふたりで風を起こす木を探しにいきましょう」
「約束だぞ」
「ええ、約束します」
そうだ。ふたりはずっと同じ景色を見てきた。
あの闇に閉ざされた荒野で、暗い夜の狭間で、同じ未来を夢見てきたのだ。
そうだ、未来へと。
やがて、絶望のなかにぼんやりと光が見えてきた。
人生の暗い航路を導く一筋の光芒、イシス、イシュタル、アフロディーテ、マリア―――名立たるオリエントの女神たちの一つ星、金星すなわち海の星。
どれほど遠く幽けき光であったとしても、それは闇に暗れ惑う心に癒しと赦しを与える奇跡の星。
「答えをみつけたようだな」
しめやかに注ぐ慈雨のような霊気が空間に満ちると、凝縮された影からやがてティアマットの姿が顕れた。先刻と変わらずフードを目深に被っていたが、その口調は凪いだ海のように穏やかだった。
「悲しみこそ海の星、文字合わせ錠の解であるミリアム、すなわちマーテル・ドロローサ、七つの悲しみを背負った聖母マリアの本質でもある。原初の女神の系譜を引き継ぎつつも、官能の女神たちの悪と罪を昇華した新時代の女神の誕生だ。そして悲しみはまたこの悪の木 (クリフォト)に本来存在しえぬ隠された殻。神の試練であり真意。この男の罪は悲しみを受容するお前の涙によって赦され、対になる樹、生命の木 (セフィロト)へと連なる・・・・・・」
彼女を拘束していた蔦は消え、暗い夜空の向こうに明るい地上が透けて見えた。
光と闇。裏と表。鏡合わせの世界。
奈落の向こう側、光満つる楽園には林檎の木が一樹、石榴とは逆方向に生えていた。
二柱の世界樹の根幹は合一といってよいほど密に絡み合い、互いを支えていた。
いまや慈母のごとき態度でティアマットが頭上を指さすと、黄金色をした林檎の実がゲイルの掌に収まった。その楽園の果実のえもいわれぬ清々しい芳香に少女はおもわずうっとりとした。
「これは第十のセフィラ、王国。王座につく乙女で表される。お前の求める鍵であり、お前自身でもある。第十のクリファ、物質主義に対応する。物質世界における自由意志ともいえよう」
太母ティアマットはそう厳かに宣告した。
「さあ、出立の時は来た。お前たちはダール・ヴィエーラという揺籃を抜け出て、外界の世界へと旅立ち、自らの王国を打ち立てるのだ」
横たわる少年の胸から、すでに解が嵌合された文字合わせ錠が現れた。
黄金の林檎の実は少女の手から離れて錠前にぴったりと合う鍵となった。
「鍵と錠前はそろった」
鍵が錠前に差し込まれると、カチリと解錠された。
「天空の鍵は開かれよう。七日と七夜の猶予を与える」
(四)
椰子の木陰。
愛を囁く恋人たちはもはやいない。
ただ一冊の書だけが残されていた。
やがて、時空がゆらぐと一陣の風が吹き渡った。
その涼やかな風に眩いて、聖句の連なる頁がパラパラと捲れた。
わたしは、あなたに天国のかぎを授けよう。そして、あなたが地上でつなぐことは、天でもつながれ、あなたが地上で解くことは天でも解かれるであろう。(マタイによる福音書 十六章 十九節)




