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 中学2年生になって生活は忙しくなった。

 勉強は予習する事を止め復習だけに徹するように学習方針を変え、短縮された時間のほとんどは部活に回された。

 元来の上手さに1年間の基礎が身について芯久は部の中でも指折りの選手だった。

 レギュラーは確実だった。


 病院に行く時間は減った。変更されたスタイルに慣れるまでに丸1ヶ月以上は必要で時間があけば行きにくくなった。

 ちょうど性を意識し始めた事も手伝って偀と会う事もめっきり減った。




 夏休み前は忙しさのピークで余裕もなかった。テスト、大会、主なイベントはこれくらいだが中学校生活なんて勉強と部活で構成されていると言っても過言じゃない。

 芯久は見事レギュラーを勝ち取った。義務教育なので試合の際、保護者の同伴が必要だったり遠い会場まで送ってもらう必要があったりもした。そのたび両親の返事は芳しいものではなかったけれど共働きの家の人も同じような境遇だったし、小学校からの交流もあって、久乃の事情を知っているお母様方が手伝ってくれた。

 困る事はなかったが、肩身が狭かったのも事実だ。

 芯久は極力自分の母親にしてもらいたかったが、母親も久乃の看病で疲れている。

 何もしていない時は暇なのではなく休んでいるのだ。

 もちろんそんな事まで芯久は考慮してやれない。物分りが良かろうが大人びていようが所詮はまだ中学2年生の子供なのだ。

 喧嘩する事が増えた。



 ――― 仕方ないでしょ!?

 ―――何とかなってるからいいじゃない

 ―――自分のことでしょ、そんな事までおしつけないで



 ふざけるな。ふざけるな。

 仕方ないのはあんたの見解で俺にとっちゃあんた次第でどうにでもなる問題だ。

 何とかなってるのは何とかしてるからで必ずしもそれがベストだから好んでしているわけじゃない。

 自分の事だと?そりゃそうだ、俺のことだ。子供が親に何かを頼むのは全部一概にわがままか。



 ―――そんな風に言うなら辞めてしまいなさい。たかが部活でしょうが



 あんた俺に何言ってるのか分かってるのか。そっちのほうがよっぽど横暴な事言ってるって分かってるのか。

 たかが部活だろうが俺にゃされど部活だ。俺の友人関係、学校生活、どう形成されてると思ってんだ。

 ああ、そうか――――――――



 ―――久乃の事があるの!それくらいわかるでしょ!



 母さん、あんた俺にあまり関心ないんだな。

 芯久は泣きたいようなすっきりしたような変な感覚に襲われた。


 久乃。


 その名を出すのは卑怯だ。何も言えなくなる。

 反論できなくなる。

 両親にとって大切な愛娘であるように芯久にとってもたった一人の可愛い妹なのだ。

 泣きたいようなすっきりしたような感覚――正確には失くしたような感じだろうか。




 芯久を襲ったのは虚無感だった。




 11月23日。久乃の誕生日。

 1冊500円程度の文庫本を3冊、誕生日プレゼント代わりに1本のリボンでラッピングしたものを片手に久乃の病室に向かった。

「お兄ちゃん!」

 ドアを開けると久乃は嬉しそうに大きく手を振った。

 隣で気まずそうに偀が身じろぎした。

「久しぶり、紅君」

「・・・・久し、ぶり」

 聞こえるか聞こえないかのくらいの小声でそれだけ言うと久乃の方へ話をふる。

「誕生日おめでとう、これプレゼント」

「本当!?お兄ちゃんが!?ワンダホ-」

 プレゼントを受け取ると久乃は爆笑した。

「これが男の感性か」

 むき出しの本にリボン1本という大胆さ。偀も顔がほころんだ。「これぞ男!って感じ」と感想をもらす。

「文句あるか」

「ないです」

「ならごちゃごちゃ言うな」

 大体包装紙で包んだところで中身はどうせ出すんだからゴミになるだけじゃねぇか

 そう愚痴ると久乃はまた笑いこけた。

「女心をマスターしたまえ我が兄貴」

「どの口が女心などぬかしやがる。今日でやっと12になったガキが」

「お兄ちゃんだって14歳じゃん、ハナちゃんと同じ」

「それでもてめぇより立派な年上だ」

 屁理屈、と久乃はまた笑った。どうやら今日の久乃はすこぶる調子がいいらしい。せっかくの誕生日なのでそれに越した事はない。

 偀との距離感も分かってきて3人で楽しく談笑していたところに両親が入ってきた。

「あ、芯久も来てたの」

「さっきね」

 母親が困ったように眉根を寄せた。

「どうしましょう、芯久来ないと思ったから偀ちゃんの分も合わせて人数分しかないのよ」

 ケーキの箱を抱えながら無邪気に問いかけてくる母親に、心が冷えた。



 どうして ――――こいつは。


 俺が場違いみたいに言うんだな。

 俺の話、何も聞いていないんだな。


 偀が「あのっ」と席を立った。

「あの私の分は別に全然っ・・・・!ていうかお邪魔ですよね」

 帰ろうとする偀を母親が止める。

「そんな事ないのよ。ただ・・・どうしましょう・・・」

 チラリと芯久を見る。

 顔が熱くなった。




「帰るよ」




「お兄ちゃん」

「紅君」

 ほぼ同時に久乃と偀が声を出した。

「帰るの?」

 白々しい母親の言葉に思いっきり睨みつける。

 病院なだけに大声を出す事も出来ない。それも計算済みなのか。



 荒々しい感情を押し殺して芯久は家へ帰った。




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