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体中から力が抜けて、芯久は両手をおろした。
俺はまた、誰かを傷つけるのか。そう感じると涙がでた。
おかしい。俺はこんなに涙もろくなかったはずだ。こんなすぐに泣ける性格はしていない。
俺が弱くなったのか。
それとも、それだけ、
――――大切だったという事か。
芯久はビルの側面に背もたれた。
コンクリートの冷たさと濡れた服の冷たさと―――けれど芯久の背中もとっくに冷えている。
空を見上げた。
雨が降っているので自然と目を閉じる。
涙が溢れた。
誰よりも1番、痛いところに君はいたんだ。
大切だとか傷付いたとかどの口がそんな事を言う。
無神経な言葉、放つだけ放って、守る事さえしなかった。
守る事さえ出来なくて――――俺は弱くなったんじゃない。
はじめからずっと弱かった。
「―――――っ」
強かったら。
「もっと俺が、強かったら」
そしたら何度、涙の代わりに笑っていられたんだろう。
一体どれだけ、君は負わなくていい傷があったんだろう。
「・・・強くて、どうするの」
「え」
「強さは、痛いよ」
芯久はまじまじと秘色を見つめた。
迷いのない秘色の瞳。
「強さは、痛いよ」
秘色は再び繰り返した。
「強さは弱さを伴うから」
強くなるためには弱さを乗り越えなくてはいけない。
強さを証明するためには弱さを虐げなければいけない。
強さに守られても、弱さは傷付かなければならない。
「強くなるために、弱さを捨てて、どうするの・・・?優しい気持ちも、なくしちゃう。強さを示して、どうするの・・・?誰かを、弱さを排除して、踏みつけて、それが、証明?」
「違う・・・俺は・・・」
ただ、強ければ、守れると。
自分よりも年下の男の子―芯久は15歳。秘色の年齢は分からないが外見から判断すると10歳前後―を相手に、芯久は情けなく首を振った。
「強い誰かに守られても、弱さは強さが傷付けることで傷付くよ」
弱さはそれほどまでにも儚く、脆い。
たとえ芯久が強くて、弱い「君」を守れたとしても、涙を避ける事は出来ない。
ならば、どうすれば。
守れたというんだ。強さという手段さえ奪われて。
芯久の心の声が聞こえたかのように秘色は切なそうな顔になった。
「・・・守りたかったんだね」
決壊が切れた。




