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3

 体中から力が抜けて、芯久は両手をおろした。

 俺はまた、誰かを傷つけるのか。そう感じると涙がでた。


 おかしい。俺はこんなに涙もろくなかったはずだ。こんなすぐに泣ける性格はしていない。

 俺が弱くなったのか。

 それとも、それだけ、



 ――――大切だったという事か。



 芯久はビルの側面に背もたれた。

 コンクリートの冷たさと濡れた服の冷たさと―――けれど芯久の背中もとっくに冷えている。

 空を見上げた。

 雨が降っているので自然と目を閉じる。


 涙が溢れた。


 誰よりも1番、痛いところに君はいたんだ。

 大切だとか傷付いたとかどの口がそんな事を言う。

 無神経な言葉、放つだけ放って、守る事さえしなかった。

 守る事さえ出来なくて――――俺は弱くなったんじゃない。



 はじめからずっと弱かった。



「―――――っ」

 強かったら。

「もっと俺が、強かったら」

 そしたら何度、涙の代わりに笑っていられたんだろう。

 一体どれだけ、君は負わなくていい傷があったんだろう。




「・・・強くて、どうするの」

「え」

「強さは、痛いよ」


 芯久はまじまじと秘色を見つめた。

 迷いのない秘色の瞳。


「強さは、痛いよ」

 秘色は再び繰り返した。

「強さは弱さを伴うから」


 強くなるためには弱さを乗り越えなくてはいけない。

 強さを証明するためには弱さを虐げなければいけない。

 強さに守られても、弱さは傷付かなければならない。


「強くなるために、弱さを捨てて、どうするの・・・?優しい気持ちも、なくしちゃう。強さを示して、どうするの・・・?誰かを、弱さを排除して、踏みつけて、それが、証明?」

「違う・・・俺は・・・」



 ただ、強ければ、守れると。



 自分よりも年下の男の子―芯久は15歳。秘色の年齢は分からないが外見から判断すると10歳前後―を相手に、芯久は情けなく首を振った。


「強い誰かに守られても、弱さは強さが傷付けることで傷付くよ」

 弱さはそれほどまでにも儚く、脆い。

 たとえ芯久が強くて、弱い「君」を守れたとしても、涙を避ける事は出来ない。



 ならば、どうすれば。


 守れたというんだ。強さという手段さえ奪われて。



 芯久の心の声が聞こえたかのように秘色は切なそうな顔になった。

「・・・守りたかったんだね」







 決壊が切れた。



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