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「風邪、ひいちゃうよ」

「・・・はっ」

 思わずもれた嘲笑は、後悔からか。後ろめたさからか。多分―――――両方だ。

 秘色が怪訝そうに眉根を寄せる。

「雨にぬれただけで、風邪を引くほど人は弱いのか」

 誰に言うわけでもない、ただポツリと。

 本当に独り言だった。

 秘色の表情はレインコートで隠れて窺えない。


「ここじゃ冷えるよ」

「構うものか」

 ―――――俺の事なんて、今更。

「でも、傷がうずく」

「大した事ない」

「痛そう」

「大した事ないって言ってんだろ!」

 芯久は叫んだ。


 事実、傷は痛くなかった。

 長時間雨に曝させた体はとっくに温もりを失っていて、痛覚神経は麻痺していた。

 きっと痛いんだろう。

 でもその痛みさえ、もう浸透しきってしまった。


「・・・・大した事ない」

 念を押すように呟いた。

 大した事ない。こんな傷。

 いずれ癒える傷だ。


「どうして・・・・」

 こんな雨にうたれても。痛みを失うほどの傷を負っても。

 こうやって生きているのに。

「俺が・・・・」

 俺が。―――――あいつじゃなくて、俺が。



「俺が、壊れればよかったのに」



 どうして、白い、きれいな世界に住むあいつが。

 絞り出すようにそう吐き出した芯久を見て秘色は悲しげに顔を歪ませた。

「大切な人、だったんだね」


 雨音。


「・・・知るか」

「でも、傷ついてる」

 瞬間、頭に血が上った。


「お前に何が分かるんだ!」


 知った口で。一体何を。

 芯久は秘色の胸倉をつかんだ。レインコートのボウシがずれ落ちて秘色の頭に雨が直にあたる。

 振り上げられた芯久のこぶしが中途半端な高さで止まる。

 視界が歪む。


 こぼれた涙は一雫。



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