第25話 火山の契約と、宿りし炎
灼熱の気が噴き出す火口の縁に立ち、北の勇者は歪んだ不敵な笑みを浮かべていた。
足元で沸き立つマグマの赤光が、彼の顔を暗く照らし出す。
「フフ……感じるぞ……ここに『魔人』の気配を感じる……!」
「は、はぁ……? そうなのか? 俺には何も感じんが……」
汗だくになった戦士が、首を傾げながら周囲を警戒する。勇者たちの背後では、賢者が展開した半透明の防御結界が、飛散する火山灰と熱風をどうにか防ぎ止めていた。
「賢者さんは何か感じる?」
恐怖に体を震わせる僧侶の問いに、賢者は静かに目を細めたまま、重く首を振った。
「……いえ……私にも何も感じられません。ですが――」
賢者は眉間に深くシワを寄せ、勇者の背中を見つめた。
「勇者には、魔人の存在を感得できる『何か』があるのでしょう……」
――ズズズ……ドォンッ!!
突如、火口の深部から巨大なマグマの柱が吹き上がった。
凄まじい熱波と灼熱のマグマが頭上から降り注ぎ、賢者の防御魔法に激しく衝突して甲高い蒸気音を上げる。
『――我と共鳴し、我を欲するのはお前か』
「――――っ!?」
勇者の脳裏に、直接重厚な声が響き渡った。鼓膜ではなく、魂に直接響くような禍々しい奔流。
『お前の望みはなんだ?』
「こ、氷の魔人の撃破と、魔族の全滅だ!」
勇者は火口に向かって力強く叫んだ。
「勇者……? 誰と話して……」
突然、誰もいない火口に向かって怒鳴り散らす勇者の異様さに、僧侶が引きつった声を漏らす。だが勇者には、もう仲間の声など届いていなかった。
『フハハハ……たやすいことだ』
「ほ、本当か!?」
『では――対価をいただこう』
「対価……?」
『そうだ、対価だ。対価は……**お前の身体だ**』
「!!」
『フハハハ、そう警戒するな……お前を殺しようというのではない』
「では一体……」
『お前の身体を借りたいのだ。眠りについてまだ数年……我には実体(肉体)が無い。ただの『器』を用意してほしいだけなのだ。お前の望みと比べれば、極めて小さな対価であろう?』
「な、なんか物騒な独り言をブツブツ言ってないか……!?」
様子がおかしい勇者に、戦士がジリジリと間合いを詰めようとする。
しかし次の瞬間、勇者はフッと冷酷な笑みを口元に浮かべた。
「フッ……なるほど。お前は悪魔ではなく『魔人』……対価としては妥当だな」
『ククク……契約成立だな』
――ガァンッ!!
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」
次の瞬間、勇者の全身から溢れ出した血のような赤いオーラが爆発的に噴き上がり、火山地帯全体に凄まじい絶叫が響き渡った。
「ゆ、勇者……!?」
「な、何が起こってんだ!?」
「ひいぃぃぃっ!?」
あまりの威圧感と禍々しい魔力に、戦士と僧侶は腰を抜かして地面に崩れ落ちる。賢者だけが凄まじい風圧に耐えながら、必死に手を伸ばしていた。
やがて、勇者の体を包んでいた赤い光がゆっくりと収束し、体内に吸い込まれていく。
静寂が戻った火口で、下を向いていた勇者がゆっくりと顔を上げ――三人を見据えた。
「……ゆ、勇者、お前……まさか『炎の魔人』と話したのか……!?」
賢者の声が震える。
勇者は一瞬の静寂の後――肩を揺らし始めた。
「フ、フフフ……ハハハハッ! ハーッハッハッハ!!」
「ゆ、勇者……!?」
正気を疑うほどの高笑いを響かせながら、勇者は真っ赤に光る瞳で賢者を見つめ返した。
「そうだ……その通りだ、賢者。――炎の魔人は、俺の中に居る」
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