第26話 溢れ出る難民と、山賊の砦(その1)
「な、なんで俺に聞くんですかっ!?」
冒険者ギルドのロビーにて。ロッシュは情けない声を上げながら、後ずさりした。
彼の目の前では、ギルドの街のギルド長と、シルヴァ村(黄金の森の村)の族長という立場ある二人の大人が、まるで縋りつくような上目遣いでロッシュを見つめていたのだ。
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時を遡ること、数時間前。
出来上がったばかりのシルヴァ村に、王都から約1000人もの難民が一挙に押し寄せるという大事件が発生していた。
事の発端は、先日のシルヴァ村討伐戦。魔王の伴侶から「宴の残り物」という名の破格の慈悲と極上の酒肉を賜った王国軍精鋭兵士3000人のうち、約300名が「もうあんな王国の圧政には付き合っていられない」と、家族や親族を総連れにして魔王軍(シルヴァ村)の噂を聞きつけ、降伏・移住のために逃げてきたのだ。
しかし、シルヴァ村は開拓されたばかりで、とても1000人もの大人数を一気に受け入れるキャパシティなど存在しない。
途方に暮れた族長は、すぐさまギルドの街のギルド長へと相談に駆け込んだ。だが、街も移住者でパンク状態。八方塞がりとなったギルド長は、たまたま冒険者ギルドのロビーで雑務の報告をしていたロッシュを見つけ出し、捕まえて頼み込む……という流れに行き着いたのだった。
「そこをなんとか頼むよぉ、ロッシュ君……!」
「た、頼むって言われても俺にそんな権限――」
冷や汗を流すロッシュの元へ、前衛戦士のラージと女魔法使いのエルが近づいてきた。
「どうした? ロッシュ」
「あっ、うん。なんかまた王都から難民が1000人も来ちゃったらしくて……」
「それは流石に多いわね……村も街も入りきらないわよ」
エルが眉をひそめる中、ラージはあごに手を当てて「ふむ」と頷いた。
「それくらいなら、いい場所があるぜ」
「え? どこ?」
ロッシュが目を丸くすると、ラージは自慢げに胸を張った。
ラージの説明によれば、少し前に山賊討伐の依頼を受けた際、標高が低く登りやすい『グラニート山』の中腹で、山賊たちが秘密裏に建設を進めていた中規模な要塞(砦)を攻略したのだという。
「少し前だから、もしかしたらまた山賊の残党が、その建設途中の砦に集まって来てるかもしれんがな」
話を聞いたギルド長が、カウンターから広大な周辺地図を広げる。
「……ふむ、グラニート山か……」
地図の一点を指さし、ギルド長は渋い顔を作った。
「そもそも、なぜ以前そこに討伐依頼が出たのだ?」
「ああ、なんでも王都の商人組合から、こちらのギルドに直接依頼があったそうですよ」
「商人組合は最初に王国軍へ相談したらしいんですけど、『魔王軍の脅威でそれどころじゃない』って冷たく追い返されたらしくて……」
その頃の王国中枢は、アルザード城やヴェルダン城の連続独立・傘下入り、そして軍団長や師団長の相次ぐ戦死によって空前の混乱状態に陥っていた。民を脅かす山賊の討伐など、後回しにするどころか構っていられる余裕すら無かったのだ。
「王国が山賊を放置なんて酷い話だな……」
ロッシュが呆れたように呟くと、ラージがニッと鼻を鳴らした。
「で、その放置された依頼を、俺たちが華麗に遂行してきたって訳だ!」
「華麗にって……ラージはお尻に矢が刺さって『ひぎぃっ!』って悲鳴上げてたじゃない」
「お、おい! 余計なこと言うなよエル!」
二人の漫才を余所に、ギルド長は深いため息をつきながら長考に入っていた。
グラニート山の砦跡地は、地理的には依然として「王国領」の扱いである。もしそこに1000人の難民を住まわせれば、シルヴァ村の時と同様、王国軍が「領土侵犯」とみなして再び討伐軍を派兵してくるかもしれない。
(……これはロッシュ君個人の判断だけでなく、魔王様側に一言添えておかないと、また王国の高官どもが暴走して手に負えなくなるぞ……)
ギルド長が頭を抱えていた、まさにその時であった。
ギルドの開け放たれた入り口の外から、無邪気で明るい少女の声が響き渡った。
「ロッちゃんいるー!?」
声の主を聞きつけたロッシュは、助かったとばかりにギルドの外へと飛び出した。
「ん? どうしたんだテンペ?」
そこに立っていたのは、鳥の身体に可憐な金髪少女の顔を持つ魔翔王の娘、テンペスタであった。テンペスタは翼をパタパタと羽ばたかせながら、可笑しそうにクスッと笑った。
「なんかねー、魔王様が『ダーリンがお家に遊びに来てくれなきゃ死んじゃうぅー』って言ってるよー(笑)」
「なんだよそれ……」
「あとねー、『来てくれなきゃデュラっち(デュラハン)の頭部とロッちゃんの頭部を交換するぅー』って言ってるよ!(笑)」
「冗談でも怖いこと言うなよ……!」
キャハハと無邪気に笑うテンペスタの元へ、ギルドの中から汗だくになったギルド長が猛ダッシュで飛び出してきた。そしてテンペスタの前に膝をつくと、拝むように手を合わせた。
「テンペスタ様……! ど、どうか……どうか難民たちをお救いください……!」
突然の大人の切実な懇願に、テンペスタはパチクリと丸い目で首をかしげた。
「ん?」
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