第21話 半泣きのモブと、奇跡の魚(前半)
ヴェルダンでののんびりとした船釣りを満喫し、大量すぎる魚を抱えてギルドの街へと戻ってきたロッシュ。
「それにしても、この大漁の魚……どうしよう……」
いくらタコ助や海王ラクリマの加護(?)ですごい量の魚が釣れたとはいえ、個人の冒険者が消費しきれる量ではない。周囲に配るにしても限度がある。
半泣きになりながら街の外れを歩くロッシュの横で、アストラゼノスは「ふふっ、ダーリンが大漁で困ってる顔も可愛いわぁ♡」と呑気に目を細めていた。
その時、前からギルド長が冷や汗を拭いながら、青い顔をして早足で駆け寄ってきた。
そして、そのギルド長の背後には――言葉を失うほど大量の「人影」が連なっていた。
東の果てにある狩猟民族の村が、反王国の反乱軍の残党に襲われ、近辺に狩猟のできる森を奪われた者たちだった。
彼らは救いを求めて王国領の領主たちや王都へ使者を送ったものの、戦費に追われる王国側からすべて門前払いを食らい、数ヶ月もの間あてどなく流民としてさまよった末に、ようやくこのギルドの街へたどり着いたのだ。
しかし、現在のギルドの街はもちろん、ヴェルダンやアルザードに至るまで、魔王軍の傘下に入ったことで移住者が急増している。今の街の規模で、これほど大人数の難民を一度に受け入れることは物理的に不可能だった。
「ロッシュ君っ! 実はだな……!」
深刻な顔をしたギルド長が、助けを求めるようにアストラゼノスの隣にいるロッシュに話しかけようと口を開いた。
その背後にいる人々を見やったロッシュの目に飛び込んできたのは、数ヶ月の流民生活で身なりはボロボロに裂け、栄養失調でガリガリに痩せ細り、顔色の悪い人々の姿だった。
――これだけの人数が、食べるものも住む場所もなく路頭に迷っている。
その光景を見た瞬間、ロッシュの脳裏に「さっきから頭を悩ませていた大量の魚」と「目の前の飢えた人々」がガッチリと結びついた。
「これだ……っ!」
ギルド長が口を開くより早く、ロッシュは満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「――みなさん! 魚…魚、食べませんかっ!?」
その言葉に、ギルド長が「はっ?」と固まる。
そして、これまで王国から冷遇され、散々な目に遭わされ続けてきた狩猟民族の人々は、あまりに突拍子もない提案に「い、いきなり何を……?」と目を丸くしてポカンと立ち尽くした。
だが、ロッシュは彼らが驚いて固まっているのを「もしかして、腹がいっぱいのか……?」と勝手に勘違いし、断られるのではないかと恐怖に駆られる。
「さあ! さあ! 遠慮しないでください! 俺もすぐ火を起こすのを手伝いますよ! ゼノス! 君もぼさっとしないで手伝って!」
「えっ、あ、うん! 」
戸惑う人々をよそに、ロッシュは半ばパニック状態で勝手に話を進め、馬車から山盛りの魚を下ろし始める。
「ほら、新鮮な魚だぞ! 焼いて、今すぐみんなで食おう!」
十分な食べ物にありつけず、飢えと絶望の淵にいた狩猟民族の者たちは、目の前で必死に魚を振る舞おうとしてくれる青年の姿に――これまでの苦難が走馬灯のように蘇り、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。
「うっ……うっ……、こ、こんなに良くしてもらえるなんて……!」
「ありがたい……! ありがたやぁ……っ!」
次々とその場で膝をつき、歓喜の涙を流して感謝の声を上げる難民たち。
「な、んで泣く!?」
なぜか感謝されて大慌てで焦るロッシュと、それを微笑ましく見守る魔王。
こうして、ギルドの街の入り口で、難民と魚をめぐる想定外の大騒動が幕を開けるのだった。
お読み下さりありがとうございます!
もし「焼き魚を食べたいなぁ」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク追加】や【評価ポイント(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




