第19話 山頂の激突と、勇者一行の実力(前半)
氷の魔神が守護する、魔王領の過酷な氷山山頂。
上空には重々しい雪雲が広がり、ちらちらと白く小さな雪が降り積もっていた。
「うーん、今日もいい天気だ。ヴェルダンの街も活気があっていい場所だったが、やはり身を置くならここがいいな。がははは!」
豪快に笑い声を響かせる氷の魔神・氷王。
そこへ、吹雪を割って一匹の兵士が慌ただしく駆け寄ってきた。
『氷王様! 侵入者です!』
声を上げたのは、氷王が自らの冷気と雪で作り出した精鋭『雪兵』だ。意思を持ち、並の人間兵士では束になっても太刀打ちできないほどの強さを誇る。
「侵入者ぁ?!」
『はい! 四人組の人間です!』
眉をひそめた氷王は、山頂から鋭い視線を下へと巡らせた。
白い雪原を進む四つの影を捉えるやいなや、ドォンと音を立てて山頂から飛び降り、一瞬にして五合目付近を進む四人組の目の前へと降り立った。
「侵入者よ。ここが魔王領と知っての訪問か?」
地響きとともに立ちはだかった3メートル近い巨躯の魔神に対し、先頭の青年が剣を抜いた。
「出たな! 魔王軍幹部『氷王』!」
「(……コイツは……!)」
勇者の後ろで、目を細めた銀髪の賢者が静かに息を呑む。
氷王は巨大な腕を組み、ニヤリと口の端を上げた。
「コワッパ……勇者か?」
「いかにも! 俺たちが貴様らの悪行を成敗してやる!」
「初めて氷王を見たが……こいつは武器を持たないんだな。モンクか?」
大剣を構える戦士の呟きに、後ろから女僧侶が記憶を辿るように付け加える。
「違うわ、文献によれば氷王は『魔法』を使うらしいよ!」
「魔法? ……がははは! お嬢ちゃん、もう少し勉強してから出直してきたらどうだ?」
「なっ……!?」
馬鹿にしたように豪快に笑い飛ばす氷王。
「お前ら、相手の氷魔法に気を付けろよ!」
「待て! 勇者! そいつは――」
「でやぁあああ!!」
賢者の制止も聞かず、勇者は猛然と突き進み、魔神に向かって鋭い剣の連撃を放った。
だが、魔神はその極小の刃をすべて素手――己の硬質な拳だけで冷酷に受け流していく。
「うおおおおお!!」
そこへ戦士が加勢する。新調したばかりの『巨人の剣』を上段から叩きつけた。
魔神は右手の拳で巨人の剣を受け止め、左手で勇者の剣をがっしりと受け止める。
「フンッ!!」
ふたりをまとめて吹き飛ばすように、魔神の全身から青白い凄まじい冷気オーラが解き放たれた。直撃を受けた勇者と戦士の身体を、強烈な冷気が襲い猛烈な衝撃とともに弾き飛ばされる。
「……仕方ない! 『真空鎌鼬』!!」
間髪入れず、後ろから賢者が鋭い一撃を放つ。
視認できない無数の風の刃が吹き荒れ、魔神の頑強な肉体を目がけて一直線に刻み込まれた。
ザシュッ、ザシュッ! と肉が裂ける音が響き、魔神の全身に無数のぱっくりと開いた傷口が刻まれる。
「流石賢者! ナイスだぜ!」
「はぁぁあああ!」
勇者の歓声も束の間、魔神は全身の筋肉をバキバキと盛り上げ、驚異的な細胞の再生と筋力圧迫によって、一瞬にしてすべての傷口を塞ぎ切ってみせた。
「雪兵よ!」
魔神が地面を踏みつけると、雪原から5体の雪兵が突如として出現。素早い動きで後衛の賢者と僧侶へ襲いかかる。
「きゃあああ!」
「『ファイアリーブラスト』!!」
賢者が短い詠唱とともに手をかざすと、凄まじい爆炎魔法が雪兵たちを包み込み、一瞬にして蒸発させて消し去った。
「す、すげぇ……。賢者ってこんなにも凄いのか……!」
圧倒的な手数の魔法に、弾き飛ばされた戦士が感嘆の声を漏らす。
傷一つなくなった腕を鳴らしながら、魔神は賢者をじっと見据えた。
「ほぉお……なかなかやるではないか」
関心したように頷き、魔神は言葉を続ける。
「しかし……お前以外のメンバーのレベルが低すぎるな」




