第18話 モブの日常と、氷の魔神の過去(後半)
アストラゼノスの口から語られたのは、今から数年前――ロッシュの知らないところで起きていた壮絶な戦いの記憶だった。
「数年前、東の地で魔神たちが突如として現れてね。私たちの魔王領を襲撃してきたのよ」
「魔神が……魔王領を?」
「ええ。彼らは世界を侵略するつもりだったみたい。でもね、侵略戦争に反対だった氷の魔神が、火の魔神と激しい戦いになっちゃってね。そこへ私率いる魔王軍幹部たちの討伐隊が到着したの」
苦戦していた氷の魔神を救出し、そのまま火の魔神を撃破。
勢いそのままに、襲い来る風の魔神、地の魔神、光の魔神を次々と撃破していったのだという。
「まあ、光の魔神は驚くほど弱かったんだけどね(笑)」
「は、はあ……」
世界の脅威であるはずの魔神を「弱かった」と切り捨てる魔王様に、ロッシュは乾いた苦笑いを浮かべるしかない。
「そして最後、最凶と呼ばれた闇の魔神を撃破して……『魔神侵略戦争』は終結したわ。それ以来、氷の魔神は私に忠誠を誓ってくれてね。魔王軍の幹部として、あの氷山の守護に就いてもらっているの」
「へー……俺、そんな大きな戦いがあったなんて全然知らなかったよ」
「すべて私たちの領土内で起きた出来事だからね。人間たちには気付かれなかったんでしょう」
「確かに……数年前、ゼノスが全然会いに来ない時期があったなぁと思ってたんだけど、それが原因だったのか」
「そ。あの時はね、早くロッシュに会いたくて『早く終わらないかなぁー』ってそればっかり考えて戦ってたの(笑)」
「お、おう……」
一歩間違えれば世界滅亡の危機だったはずなのだが、彼女の原動力はどこまでもロッシュへの愛だったらしい。
「……でもね、彼から気になることを聞いたの」
「……なに?」
急にアストラゼノスの声のトーンが落ち、真剣な眼差しがロッシュに向けられた。
「彼はね……『一万年前に、人類は完全に絶滅したはずだ』って言っていたの」
「……!!」
思いも寄らない言葉に、ロッシュは目を見開いた。
「待て待て! この世界が始まってから、まだ数千年しか経ってないはずだぞ……!?」
「ええ。……それは私たち魔族にとっても同じよ」
「もしかして……この世界は、一万年以上前から始まっていた……!?」
「……そう考えるしかないわね……」
ロッシュは頭をフル回転させ、一つの仮説を組み立てていく。
(一万年以上前からこの世界には生命が誕生していて……一万年前に魔神たちによって完全に絶滅させられた。その後、役目を終えた魔神たちは長い眠りについたんだ……)
そして数千年の時が流れ、再び人類と魔族が誕生した。
目覚めた魔神たちが再び世界を滅ぼそうと復活したものの――今度はアストラゼノスや魔王軍幹部たちによって返り討ちに遭い、撃退された。
(……衝撃の事実だけど……い、今が平和ならいいか……。おっちゃん以外の凶暴な魔神たちも倒されたみたいだしな……)
世界の秘密の一端に触れ、背中に冷や汗を流しながらも、ロッシュはなんとか自分を納得させようと吐息をついた。
「倒されたというか……『存在が消えた』だけなんだけどね。……まっ、そういうこと! だからこれで、毎日ロッシュとデートができるわ♡」
「なんでそうなる……」
シリアスな世界の謎から一転、嬉しそうに腕に抱きついてくるアストラゼノスに、ロッシュは呆れたようにツッコミを入れるのだった。




