第13話 王国の戦慄と動き出す世界(後半)
ヴェルダン城の独立宣言――その報告を受けた王国の国王は、怒りで顔を真っ赤に染め上げ、玉座の肘置きを力任せに殴りつけた。
「愚か者が……! 我ら王国を裏切り、魔王の威光に媚びを売るかッ!!」
国王は即座に直属の討伐隊1000人の増派を決定。
現地で足止めを喰らっていた1000人の部隊と合流させ、計2000人の大軍勢をもってヴェルダン城を即刻踏みつぶす作戦が下された。
その討伐隊の総大将に抜擢されたのは、王国軍第3師団長――『大剣のガルド』。
自身だけで100人の兵を易々と薙ぎ払う圧倒的な腕前を持ち、数々の凄惨な戦果を上げてきた男である。
「くははっ! 任せてくだせぇ、陛下。叛逆者の首を全員並べて見せて差し上げますよ」
狂気に満ちた笑みを浮かべるガルドを筆頭に、王国軍はヴェルダン城へと進軍を開始した。
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それから数日後。ヴェルダン城の王宮、玉座の間。
この城の城主であるアルベルトは、かつて大陸にその名を轟かせた元・Aランクの凄腕冒険者であった。高齢となった今なお現役時代さながらの体躯を誇り、有事の際には自ら先陣を切る剛腕の城主である。
そこへ、青ざめた側近が駆け込んできた。
「ご、報告します! 一度は引き返したと思われた王国軍の1000人が、さらに1000人の増援と合流! 計2000の軍勢となって城から数キロの平原に陣を敷きました!」
「なに!? 王国軍が……!」
報告を聞いたアルベルトは、恐怖するどころかニヤリと豪快な笑みを浮かべて立ち上がった。
「ハッ、面白い! 押し通ればこちらが折れるとでも思ったか! 久しぶりの戦じゃ、全軍出撃体制をとれ!!」
「お父様……ッ!」
玉座の脇から進み出出たのは、アルザード城主の娘セリアであった。
父から過剰なほどの愛を受けて育てられた彼女は、剣の才能こそなかったものの、類稀なる頭脳と気品を兼ね備えた美しい姫であった。
「全軍で打って出ては、港の守りが手薄になります! 敵の狙いは長期戦ではなく速攻……ここは城に立て籠もり、時間を稼ぐのが上策かと……!」
「心配するな、セリア。事前の情報通り、敵の本隊は1000人程度と思っておる。ならば目の前の敵、ひいては将の首さえ討ち取れば、恐れをなして即座に撤退するはずじゃ!」
「ですが……!」
「お前はこの城を守っておれ」
セリアの制止を聞き入れず、アルベルトは年甲斐もなく重厚な鎧を纏い、愛用の大剣を手に陣頭へと飛び出していったのだった。
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戦いは、城外に広がる見通しの良い平野で行われた。
数で勝る王国軍に対し、ヴェルダン軍は城主アルベルトが自ら陣頭で大暴れしたことで、序盤は形勢を逆転させていく。
「ハハハッ! どうした王国軍! このアルベルトの剣を受け止めてみよ!!」
かつての英名に恥じぬ凄まじい剣技で、次々と敵兵を斬り伏せていくアルベルト。ヴェルダン軍の士気が最高潮に達したその時――。
「へへ……威勢のいいオッサンだなあ」
押し寄せえる兵の隙間から、身の丈ほどもある禍々しい大剣を担いだ男――第3師団長ガルドが姿を現した。
ガルドは自らの大剣の腹をちろりと舌で舐めあげ、サディスティックな笑みを深める。
「この大剣で切れば……どんな良い音が鳴るんだろうなぁ……っ!」
「フンッ! この程度の青二才に遅れをとるワシではないわ!!」
激突する二つの大剣!
キンッ! ガキィンッ! と凄まじい金属音が平原に響き渡る。
数十回におよぶ死闘。最初は互角に見えた勝負であったが――歳月という壁は残酷だった。
激しい剣撃の応酬の中で、アルベルトの呼吸が乱れ、わずかに足元が揺らぐ。スタミナ切れを起こしたその一瞬の隙を、ガルドは見逃さなかった。
「終わりだぁッ!!」
「なっ……――」
閃光のような横一文字の薙ぎ払い。
ズバァッ!! と肉と骨を断ち切る嫌な音が響き、アルベルトの胴体は真っ二つに引き裂かれた。
「城主様が……! アルベルト様が討たれたぞぉぉッ!!」
主将を失ったヴェルダン軍は混乱に陥り、命からがら城内へと撤退。重い城門を閉じ、恐怖に震えながら籠城戦へと追い込まれることとなった。
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――そして、王宮の玉座の間。
「お父様ぁぁぁーーーッ!!」
父の惨烈な戦死の報せを受けたセリアは、床に崩れ落ち、声を押し殺すこともできずに泣き叫んだ。
愛する父を失った絶望と、迫り来る2000の王国軍。
ヴェルダン城に、漆黒の暗雲が立ち込めようとしていた――。




