第7話 モブ冒険者、数年ぶりの魔王城で過ごす(ラスト)
和やかな空気が漂い始めた部屋に、コトコトと足音を響かせて一人の女性メイドがやってきた。凛とした佇まいで、美しく仕立てられたメイド服に身を包んでいる。
「魔王様、ロッシュ様、お食事の御用意ができました」
彼女はこの城の『カラクリメイド』。城中の家事を完璧に一人でこなす優秀な存在だが、ネクロアの小声の解説によれば「得意魔法は自爆魔法」という、どこか物騒な隠しステータスを持っているらしい。
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場所は移り変わり、豪華な食事が並ぶダイニングルーム。
テーブルの上を覗き込むと、そこには瑞々しい木の実や新鮮な果物、そして魔獣ではなく普通の家畜の肉料理が並べられていた。
――これらはすべて、昔ロッシュがこの城の住人たちに教えた食材だった。それまで人間を狩って食べていた魔王軍の食生活を、大きく変えたのは他ならぬロッシュの功績である。
メイドがグラスに水を注いだ、その時。
「おー! 小僧! 久しぶりだな! 城に来ていると聞いて飛んできたぞ!」
ドスンと地響きを立てて部屋に現れたのは、氷結の魔神――『氷王』だった。
身長は3メートル近くあり、青色の屈強な肌に、上半身は彫刻のように見事な筋肉。雪がかった白いロングヘアーに、同じく白い立派な髭面をした中年男性の姿をしている。
「おっちゃん!」
「見ないうちにまた背が伸びたのぉ! がははは!」
「おっちゃん! コップに氷入れて!」
「おうとも!」
氷王は豪快に笑うと、グラスの上に掌をかざす。瞬時にコップの中へ、キラキラと輝く美しい氷の粒がコロコロと注ぎ込まれた。
「見た目はすっかり大人びたが、中身はそのままで安心したぞ! ワシにこうして氷をねだるのは、世界中でこの小僧くらいじゃ!」
ガハハと豪快に笑う氷王の横で、いつの間にかダイニングルームの入口に佇む影があった。
魔王軍幹部が一人、首のない騎士――デュラハンだ。
彼は一言も発さず、扉付近からじーっとロッシュを見つめている。もちろん、左手にしっかりと抱え持った自身の「頭部」で、じっと観察するように。
「『顔無し』も久しぶり! 元気にしてた?」
ロッシュが明るく手を振ってみせるも、デュラハンはその視線を一瞥しただけでノーリアクション。しかし、どこか満足したような雰囲気を醸し出すと、そのまま静かに部屋を出て行った。
「……満足そうに出て行ったわね」
「いつもながら感情が分かんねーよ(笑)」
呆れ笑いを浮かべるロッシュの耳に、さらにもう一つの懐かしい声が届いた。
「やれやれ、若造が戻ってきたせいで、城がすっかり騒がしくなったわい」
「爺さん!」
ローブに身を包み、緑がかったシワシワの顔に眼球の無いアンデッド――『オーバーロード』。
魔王の側近であり、あらゆるアンデッドを生み出した「不死の王」である。
「まだ『お迎え』が来ないのかよ?」
「このバカ者め! ワシは不死じゃわい!」
「あはははは!」
アストラゼノスが楽しそうに声を上げて笑う。オーバーロードはカチカチと歯を鳴らすと、フンと鼻を鳴らした。
「……ま、せいぜい早く元気になって、さっさと自分の家に帰るんじゃな」
「ふふっ。……ロッシュ、みんなあなたに会いたがっていたのよ」
アストラゼノスは嬉しそうに微笑みながら、ロッシュのグラスに注がれた氷入りの水をそっと見つめるのだった。
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