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第5話 遠方派遣と最悪のエンカウント(エピローグ)

領主から領民に向けて「魔獣との和解と食料提供」についての発表がなされた翌日。

城下町ではさっそく、市民たちの手による魔獣たちのエサ作りが始まった。最初は恐る恐るだった人々も、お行儀よくお座りして料理を待つ魔獣たちの姿に少しずつ毒気を抜かれ、街全体にどこか温かい活気が生まれ始めていた。


一方、ロッシュは変わらず城壁の補修作業に汗を流していた。

だが昨日までと違ったのは、ラージやエルをはじめとする『援軍・戦闘班』の冒険者たちまでもが、自らコテとハンマーを手に取り、ロッシュの補修班に合流してきたことだった。


「ね、ねえ……ロッシュくん。これ、飲む……?」


おずおずと冷たい水が入った水筒を差し出してきたのは、女魔法使いのエルだった。

昨日の一件以来、露骨にロッシュへの態度を改めた彼女だったが、その内心は(機嫌を損ねたら魔獣王に頼んで殺されるかもしれない……!)という圧倒的な恐怖で冷や汗をダラダラと流していた。


「あ、ありがとうエル」


ロッシュが差し出された水を飲み干す横で、ラージが豪快に汗を拭いながら声をかけてくる。


「ロッシュ、お前ほんとスゲェよ。あの魔獣王と領主様を結びつけて、本当に和解させちまうんだからな」


ラージはロッシュと魔獣王の過去について野暮に深入りすることはせず、持ち前のサバサバとした性格もあって、目の前で起きた快挙に純粋に感動しているようだった。


「ああ。でも、俺一人だけの力じゃないさ。あの場にラージ達も同席して、俺の言葉を否定せずにいてくれたからこそ、領主様も信じて説得に応じてくれたんだと思うよ」


「……へへっ。ホントいい奴だな、お前は」


どこまでも謙虚なロッシュの言葉に、ラージは照れくさそうに鼻を擦った。


「さあ、早くここを補修してしまおう! 街に戻ってギルドに報告したら、みんなで盛大に打ち上げだ!」


「「「おおーっ!!!」」」


ラージの呼びかけに、周囲にいたギルドの冒険者たちからワッと歓声が上がる。現場の空気は、これまでになく一つにまとまっていた。


――同じ頃。アルザード城から少し離れた深い森の中。


「ええ~っ!? そんな面白いことがあったの~!? 見逃した~……っ! オーバーロードのジジイめ、余計な見張りなんか立てるから……!」


分身を咎められて遠出を制限されていたアストラゼノスは、地べたに身を投げ出して悔しそうに地団駄を踏んでいた。そんな彼女の隣で、レガリアが下半身のライオンを横たえながら、まったりと語りかける。


「やっぱ天才よぉ、ロッシュは。魔王様とお似合いだねぇ」


「!……んもぉ、レガリアったら……お世辞が上手なんだからぁ♡」


頬をポッと赤く染め、両手で顔を覆ってモジモジと照れるアストラゼノス。


「アーシも、ロッシュが魔王様と一緒になってくれたら心強いよぉ」


「ふふっ、でしょう? ……だけど、うーん……」


急にアストラゼノスの表情から笑みが消え、思案するように眉をひそめた。


「北の『勇者』が、ちょっと厄介なのよね……。私が直接乗り込むのは城中の幹部どもが総出で反対するし……かといって、中途半端な討伐隊を送ったところで返り討ち。魔翔王を向かわせたら、狡猾に転移魔法で逃げられるし……」


「アーシも一人殺ったんだけどぉ、結局逃げられたよぉ……」


レガリアも巨大な斧の柄を弄くりながら、面倒そうに息を吐き出す。


「はぁ……」


北の勇者の存在と、思うように動けない自身の立場に、アストラゼノスは空を見上げて深々と溜め息をつく。

ロッシュと過ごす愛おしい時間と、魔王としての憂鬱な現実。二つの間で揺れながら、最高の未来が巡ってくることを密かに願う魔王様であった。

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