第5話 遠方派遣と最悪のエンカウント(ラスト)
アルザード城の城下町に一行が姿を現した瞬間、街の喧騒は嘘のように静まり返った。
レガリアの上半身は十代の可憐な少女だが、下半身は筋肉隆々の巨大なライオン。その全高は二メートル近くにも達し、手には巨大な鉄斧。そんな規格外の「魔獣王」が堂々と街道を歩いてくるのだ。住民も兵士たちもあまりの圧迫感に圧倒され、腰を抜かすかのように身じろぎ一つできずに固まっていた。
さらに城外を見渡せば、数百頭に及ぶ凶暴な魔獣の群れが、行儀よく『お座り』の姿勢でじっと整列して待機している。異質すぎる光景に、城壁の兵士たちの顔からは血の気が引いていた。
やがて、ロッシュたちとレガリアは城の応接間に通され、この領地を治める領主と対面した。
豪華な椅子に座る領主は、目の前の魔獣王の圧倒的な存在感にガタガタと全身を震わせ、今にも気絶しそうな表情で汗を流している。
そんな中、ロッシュが進み出て、静かに口を開いた。
「領主様。まず最初にお伝えしておきますが、俺はただの冒険者であり、この魔獣王とは一切の関係がない第三者です。この度魔獣王とたまたま会話が出来る機会がありました」
「あ、ああ……」
「その上で、提案があります。魔獣という生き物も、人間と同じように食べ物を口にしなければ命を落とします。実は今、北の地での戦乱により、多くの魔獣が『難民』としてこの近くの森へ逃げ延びてきています。彼らがこの城を襲ったのは、憎しみからではなく、深刻な食糧難による生存のための決死の行動だったのです」
ロッシュは言葉を選びながら、双方の立場を客観的に解説していく。
「そこで……人間側の過剰な食料や木の実などを、彼らと分かち合うことはできませんでしょうか。もしそれを受け入れていただけるなら、二度とこの領地を襲わないと、魔獣王自らに約束させます」
ロッシュが視線を送ると、レガリアは巨大な斧を脇に置き、ニッと牙を見せてうなずいた。
「ロッシュの言う通りだよぉ。ご飯をくれるなら、アーシたちはこの街の人間には手を出さないし、なんなら他の悪い奴らからこの城を守ってあげてもいいよぉ」
「……っ!」
最初は恐怖で震えていただけの領主だったが、ロッシュの筋の通った説明と、魔獣王自身の素直な言葉を聞くうちに、少しずつその瞳に理知的な光を取り戻していった。
(魔獣を倒し続けることには限界がある……だが、食料の提供と引き換えにこの圧倒的な戦力が城の防壁となるならば……!)
領主は深々とため息をつき、自らの恐怖を押し殺して力強く頷いた。
「……理解した。我が領地は、彼らに必要な食料を分かち合うことを約束しよう。その代わり……二度と我が民を傷つけぬと誓ってほしい」
「約束するよぉ!」
レガリアが無邪気に笑い、領主としっかりと握手を交わした。
――こうして。
一人のモブ冒険者の奇策と仲介により、長きにわたる種族の対立を乗り越え、『人類史上初となる人間と魔獣が共存する領地』が、このアルザード城にて誕生したのだった。
お読み下さりありがとうございます!
もし「レガリアみたいな獣人の女の子でもありじゃ…?」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク追加】や【評価ポイント(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




