第5話 遠方派遣と最悪のエンカウント(その6)
一行は森を抜け、アルザード城へと向かって歩を進めていた。
城までの道中、隣を歩くラージが不安そうな顔でロッシュにそっと耳打ちしてくる。
「なあ、ロッシュ。いくらなんでも魔獣王を城に連れて行くのはマズイんじゃないのか……?」
ロッシュたちのすぐ後ろでは、魔獣王レガリアがのそのそと歩いている。その広い背中には、助け出された十歳の男の子が「乗り心地いいー!」と無邪気に揺られていた。
そしてそのさらに後ろを、エルが魂の抜けたような顔でフラフラと足元を覚束なくさせながら歩いている。
「俺達が領主に『魔獣たちのために料理を作ってくれ』と言ったところで、素直に聞くと思うか? ただの魔獣相手なら『被害を受けた人々の無念を晴らす!』と言って問答無用で攻撃して終わりだろ。なら、圧倒的な力の差を見せて、半ば強制的に和解のテーブルに着かせるしかないと思うんだ」
「……確かに。市民の中には、過去に家族や仲間を魔獣に殺された人も居るだろうしな……。そんな彼らを、言葉だけで説得するのは無理か……」
「うん。俺だって、こんな脅しみたいなやり方はしたくないよ」
溜め息をつくロッシュを見て、ラージは少し驚いたように目を細めた。
「……しかし、意外だったな」
「ん? なにが?」
「魔王軍の幹部である『魔獣王』と知り合いだって俺達に知られたら……普通なら口封じに殺すだろ?」
「ああ……。俺はそんな舞台ドラマみたいに、簡単に人殺しなんてできないよ(苦笑)」
「……そっか」
ロッシュのどこまでもまっすぐで、どこか呆れるほどお人好しな言葉に、ラージは緊張をほぐすように苦笑した。だが、すぐに思い直したように首をかしげる。
「……しかし、ロッシュは一体何者なんだ?」
「ん……まあ、小さい頃にたまたま彼女らと鉢合わせて、遊んだ仲なんだよ(苦笑)」
さらりと明かされた衝撃の過去に、ラージは言葉を失って絶句した。
「いやいやおかしいだろ! 普通は食べられるだろ!? さっき『昔は俺の腕を見てヨダレたらしてた』って言ってたじゃないか……!」
「はは、まあ、運が良かったのかな」
「……運が良かったで済むレベルじゃねえよ……」
ラージは頭を抱えて深いため息をついた。
――当然、ラージたちは知る由もなかった。
ロッシュが小さい頃に鉢合わせて遊んでいたのは、魔獣王レガリアだけではない。その隣には、幼少期のアストラゼノス――現在の『魔王』も一緒だったという恐ろしい事実を……。




