第5話 遠方派遣と最悪のエンカウント(その5)
人間側には守る事情があり、魔獣側には勇者に追われ飢餓に苦しむ事情がある。
状況を整理したロッシュは、腕組みをして「うーむ」と思考を巡らせていた。
「あ、あ、アタシは……食べない……よね……?」
その時、腰を抜かしたままの女魔法使いが、震える声で恐る恐る尋ねた。
その言葉を聞いた瞬間――
――ガァァァンッ!!
レガリアは手にした巨大な斧を、勢いよく地面へと突き刺した。
凄まじい衝撃波と地鳴りが森を揺らし、その振動だけで女魔法使いと男戦士の体が宙に数センチ浮き上がる。
「「ヒッ……!?」」
ちなみに、腕組みをして思案していたロッシュの体も一緒にポーンと数センチ浮き上がっていた。
レガリアは下半身のライオンをゆったりと進め、女魔法使いの目の前まで歩み寄ると、その華奢な上半身をぐぐっと近づけた。
「食べられたいのぉ?」
「ひ、あ…………っ」
至近距離で放たれる魔獣王の圧倒的な威圧感と肉食獣の臭い。女魔法使いは恐怖の限界を迎え、そのままチョロチョロと失禁してしまう。
「あははは! 冗談だよぉ。ロッシュのトモダチならアーシは食べないよぉ」
けらけらと無邪気に笑うレガリアに、ロッシュが声をかけた。
「レガリア」
「なぁに?」
「この子達は雑食か?」
「基本的にはなんでも食べるよぉ。でもユウシャって人は、木の実でさえこの子達に食べさせないように焼き払っちゃうんだよねぇ」
「だったらさ、さっきの城に来いよ。領主様に頼んで、何か食べ物を作ってもらおう」
「……」
提案を聞いたレガリアは、一瞬だけポカンと固まった。
技能や武力ではなく、あまりにも根本的な解決策。
そして次の瞬間、パッと表情を輝かせると、ロッシュに向かってニコニッコリと満面の笑みを向けた。
「やっぱロッシュは天才だなぁ! 昔からそうだぁ。アーシ達に木の実を食べる事を教えてくれたのもロッシュだったなぁ」
「懐かしい話だな(笑) 思い出したよ。あの頃のレガリアは、ずっと俺の腕を見ながらヨダレたらしてたもんなぁ(笑)」
「あはは、だって美味しそうだったんだもーん!」
異次元すぎる和やかな会話に、周りの魔獣たちも「グゥ~」とお腹を鳴らしながら大人しくお座りし始めている。
ロッシュは地面にへたり込んだままの男戦士と女魔法使いの方へ向き直った。
「じゃあラージ、エル。もう彼らに城を襲わせないからさ、領主様に温かい料理を作ってもらうよう、一緒に説得しに行こう」
倒れていた男の子を優しく抱き上げながら、ロッシュは爽やかに言い放つのだった。




