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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第7章

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第7章 第1話:大学という新たな舞台


あらすじ:大学生活が始まった千葉智也。広いキャンパス、新たな仲間、そして、高校とは全く異なる学びの深さ。その日常の中で、「デジタル感情操作の心理学」の著者・山本健司への調査が、静かに進み始める。同時に、大学内で、ある奇妙なパターンに気づき始める。特定のゼミに所属する学生たちの言動が、どこか均質化しているように感じるのだ。かつての学園のゲームを思わせる、その違和感の正体を、智也は推理し始める。


---


大学生活が始まって、三週間が経過した。


智也の毎日は、複数の層で、同時に動いていた。


午前中は、大学の授業。


昼休みは、監視委員会のガイドライン草案の作成作業。


放課後は、図書館での自習と、推理ノートへの書き込み。


そして、夜は、美優との書籍執筆のための、オンラインでの打ち合わせ。


それぞれの時間が、互いに影響し合いながら、智也の思考を、深めていった。


法情報学の授業では、複数の新たな視点が、智也に与えられた。


特に、「情報法」という授業の、最初の回が、智也の推理に、大きな影響を与えた。


「情報は、権力だ」


教授は、そう言った。


「誰が、どのような情報を、誰に、どのタイミングで提供するか。それを決める力が、現代社会における、最大の権力源の一つだ」


その言葉が、智也に、これまでの旅全体を、新たな角度から見直させてくれた。


アレクサンダーも、田中も、橘も、エリックも、全員が、「情報の支配者」になろうとしていた。


彼らが求めていたのは、物理的な力ではなく、情報の流れを制御する力だったのだ。


「情報の非対称性を、意図的に作り出すことで、権力の構造が生まれる」


教授の言葉が、続いた。


「推理者は、その非対称性を解消しようとする。だが、解消しきれない非対称性が、常に、残る。それが、推理者の永遠の課題だ」


智也は、その言葉を、ノートに書き留めた。


その日の昼休み、図書館で、山本健司の著書を、再び手に取った。


「デジタル感情操作の心理学」


前回よりも、丁寧に、各章を読み進めた。


著者の山本健司は、東京の某私立大学の心理学部の、准教授だ。


著書の内容は、AIによる感情誘導の心理学的なメカニズムを、極めて詳細に論じるものだった。


デイリーモーメントの事件で、村上准教授が技術的に分析した内容を、心理学的に補完するような内容だった。


だが、智也が気になったのは、その内容の正確さだ。


この著書に書かれている内容は、一般に公開されている研究データだけでは、到達できないレベルの詳細さを持っていた。


つまり、山本は、何らかの形で、実際のユーザーデータにアクセスしていた可能性がある。


そのデータの出所が、どこなのか。


その問いが、智也の推理の出発点だった。


著者プロフィールを確認すると、山本は、複数の研究機関との共同研究を、行っていることが分かった。


その共同研究機関の一つに、「行動科学研究所」という名前があった。


「行動科学研究所」


智也は、その名前を、検索した。


東京都内に拠点を置く、民間の研究機関だった。


設立は、七年前。


複数の企業からの研究資金を受けている。


そして、その資金提供企業の一つに、かつて、シャドウ・ネットワークの資金源として特定された企業の系列会社が、含まれていた。


「これは、偶然ではないかもしれない」


智也は、ノートに書き込んだ。


その夜、村上准教授に連絡を取った。


「行動科学研究所という機関について、調べていただけますか」


「了解しました。どのような点が気になっていますか」


「シャドウ・ネットワークの残存資金との関係と、その研究所が収集しているデータの出所です」


「分かりました。明日中に、初期的な分析結果を報告します」


翌日の昼、村上から、報告が届いた。


「行動科学研究所について、以下のことが判明しました」


「まず、資金面です。設立当初の主要な資金提供者の中に、かつてのシャドウ・ネットワーク関連企業の名前が、複数確認されました」


「その後は?」


「シャドウ・ネットワークが解体された後、資金提供者が変わっています。ただし、新たな資金提供者の一部は、エリック・ノースの組織が使用していたケイマン諸島のファンドと、関係がある可能性があります」


「つまり、エリックの組織が解体された後も、その資金流入が、形を変えて、続いているということですか」


「その可能性があります。そして、この研究所が収集しているデータですが、複数の企業や大学との共同研究という名目で、大量の個人行動データが、収集されていることが判明しました」


その報告が、智也の推理を、大きく前進させた。


シャドウ・ネットワークとエリックの組織が解体された後も、その活動の一部が、学術研究機関という形を使って、継続されているのかもしれない。


「山本健司教授と、その研究所の関係は?」


「山本教授は、その研究所の主任研究員の一人です。つまり、彼は、その研究所が収集したデータに、直接アクセスできる立場にあります」


「その収集されたデータは、適切な同意のもとで、収集されていますか」


「表向きは、各大学の倫理審査を経た、適切な研究として処理されています。ただし、その倫理審査が、形式的なものであった可能性もあります」


その情報を聞いて、智也は、次の調査の方向性を定めた。


行動科学研究所の実態解明。


山本健司教授の研究データの出所。


そして、シャドウ・ネットワークとエリックの組織の残存資金の流れ。


それらを、証拠として固めていく必要がある。


だが、その前に、もう一つ、確認したいことがあった。


大学内で、智也が感じていた、ある奇妙なパターンだ。


それは、特定のゼミの学生たちに関するものだった。


大学に入学してから、智也は、同じ学部の複数の学生たちと、少しずつ話すようになっていた。


その過程で、気づいたことがある。


「社会情報論」というゼミに所属している学生たちが、話す内容と言葉のパターンが、どこか均質化しているのだ。


例えば、複数の社会問題について話す時、そのゼミの学生たちは、全員、同じような結論に向かう傾向があった。


「それは、ゼミの影響で、共通の考え方が育まれたからではないか」


と思う人もいるかもしれない。


だが、智也が気になったのは、その均質化の速さだった。


入学してから、わずか三週間で、そこまで均質化するのは、自然なことではないように感じた。


「行動科学研究所の研究データに、この大学の学生のデータが、含まれているかもしれない」


その仮説が、智也の頭の中で、形成されていった。


その日の放課後、智也は、その社会情報論ゼミの掲示板を、確認した。


ゼミの指導教員の名前を見て、智也は、息を呑んだ。


**山本健司**。


「デジタル感情操作の心理学」の著者が、このゼミの指導教員だったのだ。


その事実が、智也の推理に、決定的な方向性を与えた。


山本は、自分のゼミの学生を、研究対象として利用しているのかもしれない。


あるいは、自分のゼミの学生に、感情誘導の手法を、試しているのかもしれない。


もし、そうなら、この大学は、かつての学園と同じように、研究の実験場にされているということになる。


智也は、その夜、美優にメッセージを送った。


「新たな動きがあります。大学内で、山本健司教授が、自分のゼミの学生を、研究対象にしている可能性があります。行動科学研究所を通じて」


「それは、第七章の本格的な始まりね」


「はい。ただし、今回は、大学という、自分が在籍している場所での出来事です。より慎重に、動く必要があります」


「わかった。私も、取材の準備を始める」


「ありがとうございます。ただし、一つお願いがあります」


「何?」


「今回は、特に慎重に。大学という場所は、学術的な自由という保護があります。その保護を逆用して、不正な活動を隠蔽している可能性があります。法的に適切な形で、進める必要があります」


「大人になったじゃない、あなた」


「この旅で、学んだことです」


その夜、智也は、大学の図書館の奥の席で、推理ノートを開いた。


**「第七章の謎:山本健司教授と行動科学研究所。シャドウ・ネットワークの残存資金との関係。そして、大学という学術空間での、学生への感情操作の可能性。舞台は、高校から大学へと移った。だが、推理者としての姿勢は、変わらない。一歩一歩、丁寧に、真実へ。」**


窓の外には、夜の大学キャンパスが広がっていた。


複数の研究室の明かりが、静かに灯っていた。


その明かりの一つが、山本健司教授の研究室のものかもしれない。


智也は、その明かりを、静かに見つめた。


第七章の推理が、始まっていた。


---

第7章 第1話「大学という新たな舞台」完


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