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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第1章

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第1章 第3話:第一章の謎、解明へ

あらすじ:智也の推理は宮本隆司という男が黒幕であることを指す。美優は警察に相談することを決意するが、その後、編集部のパソコンが侵入される。やがて美優が危害を受け、意識不明の状態で発見される。智也は初めて、人前に出ることを決意する。


---


二週間が過ぎていた。田中陸斗の転落事件から始まった推理の過程で、智也と美優の関係は微妙なものになっていた。メールでのやり取りは続いているが、対面での会話はほとんどない。これは、智也の要望でもあり、美優の配慮でもあった。


その日、智也は学校の図書館で、自分のノートを見直していた。今までに集めた情報と、それから導き出した推理。全て、そこに記されていた。


情報は、以下の通りだ:


・田中陸斗は、学園内の『ゲーム』に参加していた

・『ゲーム』は、生徒たちの間での権力争いを扱うものである

・敗北した生徒には、罰ゲームが与えられる

・田中は、このゲームで敗北し、何らかの罰を受けた

・転落の直前に、田中に何か言った生徒がいる

・その生徒は、高い地位を持つ、あるいは知能の高い人物である


これらの情報から、智也は以下の仮説を立てた:


『ゲーム』は、学園内の一部の生徒たちによって意図的に作られたものである。その目的は、特定の生徒たちを支配することである。そして、田中陸斗はその支配の対象となり、敗北させられ、罰を受け、最終的に自殺に至ったのではないか。


この仮説が正しいとすれば、『ゲーム』の主催者は、人間的に非常に冷酷で、計算高い人物のはずだ。


その時、スマートフォンが振動した。美優からのメールだ。


『会えない?今日の放課後。どこか安全な場所で』


智也は返信に躊躇った。安全な場所。その言葉自体が、危険を示唆している。


『何か知ったんですか』


『そう。重要な情報。でも、これ以上メールでやり取りするのは危険かもしれない。直接話したい』


智也は、その日の放課後、図書館から遠く離れた、人目につかない公園に向かった。そこは、学校からは少し離れた場所で、生徒が訪れることは稀だ。


美優は、すでにそこで待っていた。彼女の顔色は、いつもより悪く見えた。


「何を知ったんですか」


「あの男の名前。やっと確認できた」


「誰なんですか」


美優は周囲を確認した後、低い声で言った。


「君の同じクラス。二年B組。名前は——**宮本隆司**」


智也は、その名前を聞いた瞬間、身体が硬直した。


宮本隆司。自分のクラスにいる男だ。真面目で、誰が見ても何の問題もなさそうな生徒。しかし、智也の観察では、その男の表情の奥に何か隠れていることが分かっていた。


「その宮本隆司が、田中陸斗に何を言ったんですか」


「それが問題なんだ。確実な証言が取れていない。ただし、目撃者の話では、『ゲームの罰を受けろ』とか、『社会に出ても君の評判は変わらない』とか、そんなことを言っていたらしい」


「それで、転落」


「たぶんな」


美優は、そう言った後、少し躊躇った。


「ねえ、千葉君。君は、宮本隆司のことをどう思う」


「どうって、何ですか」


「君の推理。宮本が『ゲーム』の黒幕だと思う?」


智也は、その質問に直面した。推理を言葉にする時が来たのか。


「はい。宮本隆司が、『ゲーム』の主催者だと思います」


「理由は」


「一つは、田中陸斗に対する直前の働きかけ。あれは、計算された、冷酷な行為です。偶然ではなく、意図的に田中を絶望させようとしています。二つ目は、その行為に至るまでのプロセス。宮本は、『ゲーム』の仕組みを完全に理解しており、また、生徒たちを支配する方法についても精通しています。これは、一個人の力では不可能です。宮本の背後に、計画と意図があるはずです」


美優は、智也の言葉を聞きながら、頷いていた。


「いいね。その推理。でも、証拠がない」


「証拠」


「そう。警察が動くには、証拠が必要だ。今のところ、あるのは、聞き取り調査の結果と、状況証拠だけ。直接的な証拠がない」


「では、どうすればいいんですか」


「それだ。それがわからないんだ」


その時、公園の近くを、一台の黒い車が通り過ぎた。智也は、その車に一瞬注意を向けた。何か異様な感覚があった。


「いや、待てよ」


美優が唸った。


「君の推理が正しいとしたら、『ゲーム』はまだ継続しているはずだ。そして、次の犠牲者も、もう決まっているかもしれない」


「次の犠牲者」


「そう。もし『ゲーム』が組織的で計画的なものなら、田中陸斗は最初の犠牲者ではなく、その後も続く犠牲者の一人に過ぎないかもしれない」


智也は、その言葉に身体が冷えるのを感じた。もしそうなら、今この瞬間も、誰かが危機に晒されているということか。


「では、その次の被害者を、特定する必要があります」


「そうだ。ただし、どうやって」


「ゲームのルールを知る必要があります。参加者は誰なのか。敗北の条件は何なのか。罰ゲームの内容は。全て」


「それを知るには?」


「宮本隆司に聞くしかありません」


美優は、その提案に眉をひそめた。


「危険だ。もし宮本が、君たちが自分を疑っていることに気づいたら、報復される可能性がある」


「では、どうしたらいいですか」


「——わからない」


その時、スマートフォンが鳴った。美優の携帯だ。


彼女は電話に出た。数秒の沈黙の後、彼女の顔色が変わった。


「わかりました。今から向かいます」


電話を切った美優は、智也に言った。


「学園新聞の編集部から。何か問題が発生したらしい。編集部のパソコンが、何者かに侵入されたんだ」


「侵入」


「ファイルが改ざんされている。それも、僕の調査内容に関するファイルが」


その時点で、智也と美優は理解した。宮本隆司——あるいは、その背後にいる何者かが、美優の調査に気づいたということだ。


「これは、警告です」


智也は言った。


「君の調査をやめろという警告」


「わかってる」


美優は立ち上がった。


「ただし、僕は新聞記者だ。脅されて調査をやめるわけにはいかない」


「危ないです」


「知ってる。でも、真実を追求することが新聞記者の仕事だ。だから、君にお願いがある」


「何ですか」


「君の推理を、全部聞かせてほしい。そして、宮本隆司についての君の見解を、詳しく教えてほしい。それを持って、警察に相談する」


智也は躊躇した。警察に行く。つまり、自分の名前が出るかもしれない。自分の推理が、公式な捜査に組み込まれるかもしれない。それは——自分の正体がバレるきっかけになるかもしれない。


しかし、沈黙していては、次の被害者が出るかもしれない。


「わかりました。では、全部話します」


智也は、そう言って、自分の推理を述べた。全て。田中陸斗の転落の経緯から始まり、ゲームの存在、宮本隆司の役割、そして、組織的犯罪の可能性まで。


美優は、その全てをメモに取った。


「ありがとう。これで警察に相談する時の材料ができた」


「警察には、僕の名前は言わないでください」


「わかってる。君の正体は守る」


その言葉は、智也に少しの安心感を与えた。


だが、その安心感は長く続かなかった。


翌日、宮本隆司は学校に来なかった。その翌日も。


三日目には、学校全体に通知が出された。


『二年B組の宮本隆司が、所在不明になっています。心当たりのある方は、学校までお知らせください』


智也は、その通知を見て、思考を巡らせた。


宮本が逃げた。それとも、誰かが宮本を連れ去ったのか。


美優は、その日の放課後、智也に会った。今回は図書館の奥で。


「警察に相談した」


「何と言いました」


「君の推理と、僕が集めた証拠を提出した。ただし、君の名前は絶対に言わなかった」


「ありがとうございます」


「だけど」


美優は言葉を切った。


「宮本が失踪した。警察は、彼を行方不明者として扱い始めた」


「逃げたんですか」


「かもしれない。あるいは——」


「あるいは?」


「——背後にいる何かが、宮本を始末したのかもしれない」


智也は、その言葉に身体が震えた。


背後にいる何か。つまり、宮本は単なる実行者に過ぎず、本当の黒幕がいるということか。


「宮本は、誰の指示で『ゲーム』を始めたのか」


「それだ。それが今、警察が調べていることだ」


その後の一週間、学校は異様な雰囲気に包まれていた。一人の生徒が失踪し、警察が捜査に当たっているという事実が、全校生徒に不安をもたらしていた。


智也は、その雰囲気の中で、黙々と自分の推理を深めていた。


宮本隆司の背後にいるのは誰か。そもそも、なぜこのような『ゲーム』が始まったのか。その目的は何なのか。


答えは、まだ見えていない。


だが、智也は確信していた。これは、第一章の始まりに過ぎない。もっと大きな陰謀が、学園の中に潜んでいるということを。


そして、その陰謀を解明することが、自分の運命になるということを——


一週間後、警察からの発表があった。


『宮本隆司の失踪について、警察は現在、誘拐の可能性を含めて調査を進めています。また、彼が関わっているとされる学園内での『ゲーム』について、複数の生徒が聞き取り調査に応じています』


その発表から二日後、学校の正門の前に、ある生徒の姿が発見された。


その生徒は、意識を失った状態で、警察に保護された。


名前は、**鮎川美優**。


学園新聞の記者であり、智也の協力者だった。


彼女の身に、何が起きたのか。


それは、第一章から第二章へ移る、大きな転機となった。


智也は、図書館で、そのニュースを聞いた時、何も言わずに立ち上がり、学校を去った。


彼女を守らなければならない。


そして、この陰謀の全容を明かさなければならない。


人前には出られなくても。


人間を信頼できなくても。


今、彼は動かなければならないと感じていた——


智也は、その日の夜、初めて自分の家を出た。目的地は警察だ。人前に出ることの恐怖を押し殺しながら、彼は歩き始めた。


自分の正体がバレる。そのリスクを承知の上で、彼は警察に向かった。


美優が危機に瀕している。その事実が、彼に行動を促していた。


これは、推理者の第一の試練となるのか。それとも、本当の陰謀の入り口に過ぎないのか——


---

第3話「第一章の謎、解明へ」完


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