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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第1章

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第1章 第2話:相棒の秘密


あらすじ:美優の調査で『ゲーム』という学園内の非公式システムが存在することが判明。それはゲームで敗北した生徒に罰を与えるもの。智也は美優と協力し、ゲームの謎を解き始める。しかし、調査を進めるにつれ、危険な陰謀が存在することに気づく。


---


金曜日の放課後、智也は図書館の自分の席で、相変わらず本を読むふりをしていた。しかし、心の中では飛び降り事件のことで頭がいっぱいだった。一週間経った今も、警察からは新しい発表がない。自殺なのか事故なのか、結論は出ていないままだ。


その時、スマートフォンが振動した。メールだ。


『放課後、校舎裏に来ない?事件について、新しい情報がある』


発信者は鮎川美優。


智也は不安を感じながらも、その場所に向かうことにした。校舎裏は、生徒の目が届きにくい場所だ。もし誰かに見られたら——いや、美優が呼び出したのだから、何か理由があるはずだ。


校舎裏に着くと、美優はすでにそこで待っていた。彼女は周囲を確認した後、智也に近づいた。


「話がある」


「何ですか」


「昨日の『違う学園のルール』について」


智也の心臓が跳ねた。


「あのね、僕が調べたところ、それは学園内の一部の生徒たちの間で行われている、非公式な『**ゲーム**』らしい」


「ゲーム?」


「そう。内容までは詳しく分かってないんだけど、恐らく何か不正な取引や、生徒たちの間での権力関係を扱うものらしい。そして——」


美優は言葉を止めた。彼女の目には、何か躊躇いが見えた。


「そして?」


「田中君が、そのゲームに関わっていたんじゃないか。その可能性が高いと思う」


智也の脳が、その情報を組み立て始めた。つまり、田中陸斗は『ゲーム』に関わっていて、何らかの理由でそのゲームから追い詰められた。そして、その結果が転落死だったということか。


しかし、ここで新しい問題が生じた。『ゲーム』とは何なのか。誰が主催しているのか。そして、なぜそんなものが存在しているのか。


「美優さんは、そのゲームの詳細を知りたい?」


「当たり前だ。それが記事になる」


その言葉で、智也は再び不安を感じた。記事になる。つまり、この事件は公になる可能性があるということだ。そうなれば——自分の推理も、どこかで関わってくるかもしれない。


「危険じゃないですか」


「何が?」


「そのゲームの裏にいる人物たち。もし学園新聞で記事にすれば、彼らが反発する可能性もあります」


美優は、智也の言葉を聞いて笑った。冷たい、少し嘲笑的な笑い方だった。


「君、何を言ってるの。新聞記者の仕事は、真実を明かすことだ。危険だからって、それから目をそむけるなんて、できない」


「そうですか」


智也は返事をした。しかし、内心では疑問を抱いていた。美優は本当に記事のためだけに動いているのか。それとも、別の目的があるのか。彼女の目には、ただの好奇心ではない、何か別の感情が映っているように見えた。


「ねえ、千葉君」


「はい」


「君、なぜこんなに事件に詳しいの」


その問いは、智也の心臓を凍らせた。


「何のことですか」


「いや、普通の高校生は、飛び降り事件なんて自分からは調べないでしょ。でも君は違う。図書館であの事件について考えていたし、駅前のビルにも立ち寄ってた。僕、見てたんだよ」


智也は沈黙した。どう答えたらいいのか、わからなかった。


「別に悪いことじゃない。むしろ、君の視点が必要だと思う。だから、一緒に調べないか。このゲームのことを」


「できません」


「なぜ?」


「僕は、人前に出ることができない。推理を話すことさえ、できない。だから——」


「君が話さなくてもいい。ただ、考えを聞かせてくれればいい。メールでもいい。僕が代わりに調査するから」


その提案は、智也にとって誘惑的だった。もし美優が調査をしてくれるなら、自分は安全な距離から情報を得ることができる。そして、推理も伝えることができる。


しかし——相手は本当に信頼できるのか。


「考えさせてください」


「わかった。でも、急いでくれ。このゲームの謎を解く鍵は、もしかしたら君にあるかもしれない」


その言葉を残して、美優は校舎裏から去って行った。


その夜、智也は眠れなかった。美優の言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。


『このゲームの謎を解く鍵は、もしかしたら君にあるかもしれない』


それは何を意味しているのか。自分には、ゲームに関する情報は何もない。ただ、飛び降り事件について考えているだけだ。


あるいは、美優は自分が『ゲーム』の参加者だと思っているのか。いや、そんなはずはない。自分は、何もしていない。ただ、考えているだけだ——


朝になると、智也はスマートフォンを取った。美優へのメールを作成することにした。


『美優さへ。昨日の提案について、考えました。僕も、このゲームについて知りたいです。ただし、僕の情報提供は完全に秘密にしてください。もし僕が何か言っていることが広まれば、僕は終わります。』


送信ボタンを押す直前に、智也は躊躇った。


——相手を信じるのか。


その判断を下す勇気がなかった。しかし、このままでは事件は解明されない。そして、もしこれが事件ではなく、実は犯罪なのだとしたら——もう一人の被害者が出るかもしれない。


送信ボタンを押した。


返信は、数時間後に来た。


『わかった。秘密は守る。では、これからよろしく。P.S. 君の推理、聞きたいんだけど』


メールの最後の一文が、智也の心に引っかかった。推理を聞きたい。つまり、美優は自分が何か考えていることを知っているということか。それとも、ただの推測なのか。


その週末、智也は公開されている情報だけで、推理を整理することにした。


田中陸斗が『ゲーム』に関わっていたこと。一ヶ月前から精神的に変わったこと。そして、転落死したこと。


これらの情報から、何が見えるか。


智也は考えた。もし『ゲーム』が生徒たちの間での権力争いだとしたら、田中はそこで敗北した。その敗北が、彼を精神的に追い詰めた。そして、その追い詰めた結果が、死だったのではないか。


しかし、ここで問題がある。なぜ、そんなゲームが存在するのか。誰がそれを主催しているのか。そしてなぜ、生徒たちはそれに参加するのか。


その答えを得るには、ゲームそのものについて知る必要があった。


月曜日、智也は美優にメールを送った。


『田中君の死の前に、彼の周囲で何か変わったことはありませんか。友人関係とか、生活態度とか。小さなことでいいので』


返信は、放課後に来た。


『いい質問だ。調べてみる。ちなみに、君の仮説は?』


智也は一瞬躊躇ったが、答えることにした。


『ゲームで敗北したのではないか。その結果として精神的に追い詰められ、転落死に至ったのではないかという仮説』


『それだ。僕も同じ考えだ。では、次の質問。もしゲームで敗北した場合、どのような罰があるのか。それが鍵になると思う』


智也は同意した。敗北した場合の罰。その罰が、田中を死に至らしめたのではないか。


その週、美優は着実に情報を集めていた。彼女の学園新聞での活動を通じて、彼女は多くの生徒と接することができる。その過程で、彼女はゲームについての噂を拾い集めた。


木曜日の放課後、校舎裏で再び会った二人。美優は小さな手帳を持っていた。


「集めた情報」


彼女は手帳を開いた。


「ゲームに敗北した生徒は、『**罰ゲーム**』を与えられるらしい。内容は多様だが、中には非常に屈辱的なものもあるらしい」


「具体的には」


「**SNSで悪い噂を流される**。あるいは、その生徒のプライベートな秘密を暴露される。最悪の場合は、校内での孤立」


智也の頭の中に、田中陸斗の姿が浮かんだ。もし彼が、そのような罰を与えられたのであれば。


「田中君は、どのような罰を?」


「それがね。確認できなかった。ただし、彼のSNSは直前に全て削除されていたらしい。これは、非常に重要な情報だ」


「なぜですか」


「普通、罰ゲームとしてSNS上に悪い噂を流すなら、その人物のアカウントは残しておくはず。削除されているということは——」


「彼自身が削除した」


美優は頷いた。


「つまり、彼は何かを隠したかったのかもしれない。あるいは、全てを断ち切りたかったのかもしれない」


「**死ぬための準備**」


その言葉が、二人の間に重く響き渡った。


その後、二人は別々に帰宅した。


智也の家に着くと、彼は考えた。


田中陸斗は、自殺を選択した。その選択に至る過程で、ゲームの罰が関わっていた。それは、もはや明白だ。


しかし、ここで新しい疑問が生じる。誰が、ゲームを主催しているのか。そして、なぜ。


その夜、美優からメールが来た。


『君の推理はいつ聞けるの?』


智也は返信に困った。推理を言葉にする勇気がない。だが、美優は待っている。


『まだ、確定していません』


『そっか。でも、一つ言えることがある。このゲームの黒幕は、学園内に高い地位を持つ奴だと思う。なぜなら、ここまで秘密を保つには、権力が必要だからだ』


学園内に高い地位。それは、生徒会長か。風紀委員長か。あるいは、もっと目立たない誰かか。


智也は、その晩、眠りながら考え続けた。


翌日の朝礼で、学校全体に向けて、田中陸斗の事件についての公式な発表がなされた。


「我が学園の生徒が、不慮の事故で亡くなりました。ご家族並びに関係者の方々には、心よりお悔やみ申し上げます」


校長の言葉は、それだけだった。自殺か事故か、明確にはされなかった。


その後の授業の中で、智也は自分のクラスメイトたちの反応を観察した。誰が悲しんでいるのか。誰が無関心なのか。そして、誰かが何か知っている素振りを見せていないか——


その中で、一人の顔が目に止まった。


真面目そうな顔立ちをした男。二年A組だったはずだ。彼の表情には、何かの感情が隠れているように見えた。それは悲しみではなく、むしろ何かを達成したような、そんな感情のように思えた。


その時、智也は確信した。


その男が、ゲームの黒幕かもしれない。


放課後、智也は美優にメールで、その男について説明した。美優の返信は、すぐに来た。


『その男は誰なんだ』


『名前はわかりません。ただ、二年A組だと思う』


『了解。調べてみる』


その数日後、美優からメールが来た。


『見つけた。その男の名前は田中陸斗の同級生で、田中陸斗。待って、これは別の田中陸斗?いや、違う。別人だ。名前は——』


メールは途中で切れていた。


翌日、学校で美優に会った時、彼女は顔色が悪かった。


「どうしたんですか」


「昨日のメール、見た?」


「はい。でも途中で切れてました」


「そっか。昨日、調べていたら、何か気づいたんだ。その男の名前は、黒幕候補として上がっていた。でも、確証が取れなかった。そしてね——」


美優は周囲を確認した。


「その男が、今朝、学校の職員室に呼び出されたんだ。何かあったのかもしれない」


その時、チャイムが鳴り、授業が始まった。


その日の放課後、智也は図書館で、一人考えていた。


黒幕の候補。その男の名前は何か。なぜ職員室に呼ばれたのか。


そして何より——彼は本当に黒幕なのか。


その夜、新しいメールが来た。発信者は、鮎川美優。


『大変だ。その男、確認した。彼の名前は——』


ここで、メールは途切れていた。


その次のメールが来たのは、三時間後だ。


『ごめん。さっきのメール、送らない方がよかった。その男について、調べるのを一時中止する。何か危険なにおいがする』


智也は、その言葉に不安を感じた。


危険。何が危険なのか。


翌日、学校に行ってみると、美優の姿がなかった。


彼女は風邪で欠席だと、クラスメイトから聞いた。


その時、智也の心に警告が灯った。


美優は、何かを知ってしまったのか。そして、その知ったことが、彼女に危害を加えるきっかけになるのか——


放課後、智也は美優の家に、メールを送った。


『大丈夫ですか。何かあれば、僕にも教えてください』


返信は、すぐに来た。


『大丈夫。ただ風邪。でもね、君に伝えたいことがある。あの男の名前。知りたい?』


『はい』


『田中陸斗の友人の名前を聞いたら、その男の名前が出てきた。田中陸斗の転落の直前に、その男が田中に何か言ったらしい。内容は不明だが、その一言が、田中陸斗を絶望させたのかもしれない』


『その男の名前は』


『——申し訳ないが、まだ教えられない。もっと確実な情報を集めるまで』


その時点で、智也は確信した。


第一章の事件は、単純な自殺ではない。これは、組織的な犯罪だ。そして、その組織の中心にいるのが、あの「真面目そうな顔をした男」だ——


その男の名前は、田中陸斗の同級生。そして、彼は高い知能を持っていて、計画的に犯罪を実行している。


智也は、その推理をノートに書き留めた。


そして、その夜、彼は初めて、自分の推理が間違っていないかもしれないと感じた。


人前には出られなくても。


信頼できる人がいなくても。


自分の思考は、正しい方向に向かっているのかもしれない——


---

第2話「相棒の秘密」完


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