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沈黙の推理者  作者: 最後に残った形
第1章

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第1章 第4話:警察への告白


あらすじ:智也は初めて警察を訪れ、自らの推理を告白する。人間不信と引っ込み思案という弱点を抱えながらも、彼は真実を語り始める。警察はこの高校生の推理の正確さに驚愕し、捜査方針を大きく転換する。同時に、智也は自分の秘密が公式記録に残ることの重大性に気づく。


---


その日の夜、千葉智也は初めて警察署を訪れた。


人生で最も怖い決断だった。


警察という公式な場所で、自分の推理を語る。それは、自分の正体が記録に残るということを意味していた。いずれ、その情報は学校に知られるかもしれない。あるいは、メディアに報道されるかもしれない。だが、美優が危機に瀕している今、躊躇している時間はなかった。


警察署の入り口で、智也は数分間、立ち尽くした。


ガラス張りの扉を通して、制服姿の警察官たちが見える。彼らの前に出ると、自分は何か言われるのではないか。高校生の分際で、何を知ったようなことを言うのかと。あるいは、信用されずに終わるかもしれない。


だが——


彼は扉を押した。


「すみません。**鮎川美優**という高校生が襲撃された事件について、情報がある者です」


受付の警察官は、眉をひそめた。


「高校生?君が?」


「はい。その事件には、背景となる犯罪組織があります。その組織について、僕は推理を立てています」


警察官は一瞬迷った様子を見せたが、やがて、詳しい話を聞くため、智也を調査室へ案内した。


小さな部屋に通されると、そこには二人の刑事がいた。一人は四十代の男性、もう一人は三十代の女性だ。


男性刑事の名札には『**進藤**』と書かれていた。


「君が?」


進藤刑事は、疑いの目で智也を見た。


「はい。飛び降り事件から始まった一連の事件について、背後にある『**ゲーム**』という組織的犯罪について、推理があります」


女性刑事は身を乗り出した。


「ゲーム?」


「はい。それは、学園内で行われている非公式な権力体制です。参加者たちが競い合い、敗北者には罰が与えられます。その罰が、今回の飛び降り自殺事件につながったと考えられます」


進藤刑事は、さらに眉をひそめた。


「君はどうしてそんなことを知っている?」


「推理です。情報を集めて、整理して、分析しました」


「情報をどこから集めた?」


ここが難しい部分だった。美優のことを言えば、彼女を危険に晒すことになる。だが、警察を説得するには、情報源を明かす必要があるかもしれない。


「学園新聞の記者から、得た情報が大半です。ただし、彼女の名前は明かさないでください。彼女はすでに襲撃されています」


女性刑事が、メモを取り始めた。


「その記者の名前は?」


「申し訳ありません。彼女を守るために、お答えできません」


進藤刑事は、椅子に座った。


「では、その推理とやらを、全部聞かせてもらおう」


智也は、深呼吸をした。これからが本番だ。人前で推理を語る。それは、彼にとって、何度やっても慣れることのない苦痛だ。だが、今は苦痛に耐えなければならない。


「飛び降り事件の被害者は、田中陸斗です。彼は、学園内の『ゲーム』に参加していて、そこで敗北しました。敗北によって与えられた罰は、彼を精神的に追い詰めました。彼のSNSが全て削除されていたというのは、その罰から逃げるためではなく、**死ぬための準備**だったと考えられます」


女性刑事は、さらにメモを取った。


「続けて」


「ゲームを主催しているのは、**宮本隆司**という二年B組の生徒だと考えられます。彼は、表面上は真面目な生徒ですが、その実、生徒たちを支配し、コントロールしようとしている人物です」


「証拠は?」


「直接的な証拠はありません。ただし、状況証拠があります。宮本は、田中陸斗の転落の直前に、彼に接触しています。その時に、彼は何か言った——おそらく、田中を絶望させるような言葉を」


進藤刑事は、身を乗り出した。


「君はどうしてそれを知っている?」


「推理です。複数の情報源から集めた断片的な情報を、組み合わせました」


女性刑事が、進藤刑事に視線を送った。その視線に含まれた意味は、『この高校生、本当に推理をしているのか』という疑問だった。


だが、進藤刑事の次の言葉は、智也を驚かせた。


「実は、我々も宮本隆司に目をつけていた」


智也の心臓が跳ねた。


「本当ですか」


「ああ。複数の告発があったんだ。学園内で何か不穏なことが起きているという」


「では、彼を逮捕できるのではないですか」


「それが簡単じゃないんだよ。証拠がない。告発者たちは、証言することを拒んでいる。恐怖心からだと考えられるが」


智也は理解した。宮本と彼のゲームは、恐怖に基づいて成り立っている。敗北者たちは、さらに罰されることを恐れて、何も言えないのだ。


「では、僕の推理が役に立つかもしれません」


「どう言う意味だ」


「宮本の背後には、さらに大きな存在がいると考えられます。彼が単独でこれほどの組織を作ることは、難しいはずです。必ず、彼に指示を与えている誰かがいる。その誰かが、学園の何らかの権力を持つ人物だと推測します」


女性刑事が、メモの手を止めた。


「学園の権力者?学園新聞の記者なら、そういった情報を持っているはずでは?」


智也は、慎重に答えた。


「恐らく、その記者もまだ、全ての情報に辿り着いていないと思います。ゲームの真の目的は何か。なぜ、宮本はこのようなことをするのか。その答えは、まだ見つかっていません」


進藤刑事は、椅子から立ち上がった。


「君の名前は?」


「千葉智也です」


「学園は?」


「××高校、二年B組です」


進藤刑事は、女性刑事を見た。


「美優という記者の襲撃事件と、飛び降り事件をリンクさせる。そして、この高校生の推理を検証する。それから、宮本隆司と学園内の権力構造について、本格的に調べる」


女性刑事は頷いた。


「了解です。ところで、君はどうして警察に来た?学園新聞の記者から、警察に行くよう勧められたのか」


「いえ、違います」


智也は、素直に答えた。


「その記者は、襲撃される前に『警察に相談する』と言っていました。だから、彼女の意思を継ぐために、僕は来ました」


進藤刑事の目が、少し柔らかくなった。


「君は、その記者の友人か」


「いえ、違います。ただの協力者です」


「推理パートナーか」


智也は沈黙した。その言葉は、正確ではなかった。彼は美優の相棒ではなく、ただ推理を提供する立場だ。ただし、警察には、その微妙な関係を説明する必要はないだろう。


「そういうことになるのかもしれません」


進藤刑事は、智也に一枚のカードを渡した。


「もし、何か新しい情報が思いついたら、いつでも連絡してくれ。君の推理は、確かに的を射ている。警察の捜査に役立つかもしれない」


智也は、そのカードを受け取った。警察の刑事からカードを受け取るなんて、想像もしていなかった。


「ありがとうございます」


「ところで、君はこれ以降、どうするつもりだ。この推理の話が学園に知られたら、君も巻き込まれるかもしれんぞ」


智也は、その質問に答えることができなかった。


確かに、自分の正体が明かされれば、危険は増すだろう。だが、それでも、真実を追求することは必要だ。そう感じていた。


「僕は、推理を続けます。そして、真実を明かします」


進藤刑事は、智也を見つめた。


「君は、学園内で何か起きていることに気づいているのか。それとも、推理の過程で、偶然気づいたのか」


「両方です」


「そうか。では、気をつけろ。君が事件の鍵を握っているのだとしたら、組織は君を危険視するかもしれん」


警察署を出た時、智也は疲れ果てていた。


人前で推理を語ることの疲労感は、想像以上だった。だが、同時に、警察が彼の推理を信じてくれたという安心感もあった。


携帯電話を見ると、美優からのメールが届いていた。


『目を覚ましました。君は何をした』


その短いメールから、美優が何か知ったことが分かった。


智也は、美優に返信した。


『警察に行きました。推理を全て話しました。君の身を守るため、君の名前は言いませんでしたが』


返信は、数分後に来た。


『バカなことを。君の正体がバレるじゃないか』


『それは承知の上です。君を守ることが先です』


その返信を送ってから、智也は思った。


自分は、人間不信のはずではなかったか。なぜ、美優のためにそこまでできるのか。


答えは、単純だった。


美優は、自分の推理を信じてくれた、唯一の人間だ。たとえ彼女が自分の正体を完全には知らなくても、彼女は自分を信じてくれた。


その信頼に応えるため、智也は人前に出た。


そして、その行動が、第一章の終わりへと繋がっていくのだ——


翌日、学校は異様な雰囲気に包まれていた。


鮎川美優が襲撃されたというニュースが、全校生徒に知られていたからだ。同時に、宮本隆司が所在不明になったというニュースも、広がっていた。


智也は、いつもの図書館の奥に座っていた。誰からも見られないように。


だが、その日の昼休み、何かが変わった。


複数の生徒が、智也のところに訪れるようになった。


「君、何か知ってるんじゃないか」


「事件について、何か言ってくれないか」


「宮本君が何をしていたのか、わかる?」


智也は、全て沈黙で返した。話すわけにはいかない。だが、同時に気づいた。


学園内に、不安が広がっている。宮本という実行者が逃げたことで、学園内のゲームは機能しなくなった。支配者がいなくなったのだ。


その隙間を埋めるために、生徒たちは何か新しい秩序を求め始めていた。


智也は思った。


宮本は単なる駒に過ぎないのかもしれない。本当の黒幕は、別の場所にいるのではないか。


その推理が、第二章へと繋がっていくのだ——


夜間、警察署から進藤刑事から電話があった。


「宮本隆司を発見した。港の倉庫にいた」


智也の息が止まった。


「生きていますか」


「ああ。ただし、意識はない。医者によれば、何らかの薬物を投与された可能性があるという」


「誰が」


「それだ。その倉庫の近くで、もう一人の男が見つかった。宮本を連れ去ったと思われる。だが、その男は自殺していた」


智也は、その言葉の意味を理解した。


宮本隆司は、誰かによって誘拐され、薬物を投与され、そして証拠隠滅のために始末されようとしていた。そして、宮本を誘拐した人物も、自殺していた。


つまり——


「宮本隆司の背後にいた誰かが、証拠隠滅のために動いたのでは」


「そう考えるのが妥当だな。君の推理は正しい。宮本は単なる駒だった。本当の黒幕がいるのだ」


電話を切った後、智也は考え続けた。


自殺した男は、誰なのか。宮本を誘拐し、薬物を投与し、そして自分も死を選んだ。それは、強い指示に従わなければならない状況にいた人物を示唆していた。


つまり、本当の黒幕は、そのような人物を簡単に動かせる程の力を持つ人間なのだ。


学園内の権力者。それは、校長か。教頭か。あるいは、もっと上の存在か。


智也は、その夜、眠ることができなかった。


推理は、止まることなく、彼の脳の中で、次から次へと仮説を立て、検証し、組み立てていった。


第一章は、終わろうとしていた。だが、その終わりは、同時に、第二章への入口を開いていたのだ——


---

第1章 第4話「警察への告白」完


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